第12話 メタリカーナ一家

 バングヘルムに来て3週間近くが経った。

 

 防具屋で注文した指貫籠手はすでに受け取っている。

 ジャケットの様に腕を通し羽織る感じに着けられ、指先は露出しているので首の前の紐も難なく留められる。手の甲の鉄板は湾曲し拳頭まで覆い、前腕の部分は方形の大中の金属板部品パーツを海老の甲殻のように合わせている。

 人間だったら苦になる重さもスキュラのパワーでなら不自由ない。


 俺たちは金策に熊を狩り、狩人ハンターとして多少顔が売れてきていた。

 

 そして肉屋経由で、街を仕切る要人の一人であるボストロルの

『ジョヴァンナ・メタリカーナ』が俺たちに至急用があると伝えられたのだった。


 仕方なく、メタリカーナ邸へと向かった。


 ジョヴァンナはトロルとしてはかなり小さい身長180cm程の女性のトロルだった。

 きれいな蒼色の細長い腕から肩にかけての露出以外は、足元までワインレッドのドレスで覆われているが、痩せて引き締まったスタイルをしているのが見て取れた。

 この世界のトロルはずんぐりと太ってはいない。

 また、女トロルの鼻は男と違い特に長いわけではない。


 挨拶をし、お互いに名乗りあった後、ジョヴァンナが単刀直入に切り出す。

 回りくどいことは好まないタイプらしい。


「君達に来てもらったのは、2日前に南部の街道で商団が大型のアウルベアに襲われたと報告があり、調査及び駆除を頼みたいからだ。」


「熊狩りの手腕は並ならぬものと聞いている。どうか引き受けてもらえないだろうか。討伐報酬は金貨100枚。詳細は別途伝えるが、今、断っても不利はない。」


「ただ、私は君達の素性に興味があり、協力的な関係を築けるのではないかと思っている。因みに君達の存在に気付いているのは、この町では今のところウチだけだろう。」


 俺はゴブリン語で分からないが、話の最後で、グヴィン・ゴヴィンの気配が一瞬変わったのを感じた。

 一度、俺のほうを見たあと、ジョヴァンナに向かって言う。


「要件は分かりました。一度戻って話し合ってから、昼に返事しに来ます。では、また後ほど。」


 俺たちは、メタリカーナ邸を後にし、森の住処すみかへと帰った。

 グヴィンに事のあらましを伝えられる。


 メタリカーナ一家はどこまでかは分からないが、俺たちが異邦人だと感付いている。身柄は確保されなかった。今すぐ逃げることも出来なくはないが、本気で追われた場合、面倒なことになるだろう。おそらく既に見張られているはずだ。

 協力関係を取れば、町での活動やこの世界での足がかりとしてバックアップを受けられるかもしれないが、当然対価が求められる。


「ジョヴァンナ・メタリカーナは文字通りこの町のトロル勢力のボスだ。正義漢ってわけじゃないが、筋を通すし、部下の扱いも良いとは聞いたことがある。ボスに収まるだけに馬鹿じゃないはずだ。」


 実際に話をしたグヴィンの評価はそう悪くないようだ。


「物語の女傑って風格あったな。あまり根拠があるわけじゃないけど、振り返っても俺たち自体が異邦人だと直接周りにばれた覚えはない。たぶん他の誰か、ジョヴァンナ側に異邦人が、既にいるんじゃないか。あとは町に現れた時期やスキュラが目立つとかで調べられたんだろ。鎌かけてることもあり得る。」


 他の推測や、アウルベア狩りなどについても思ったまま話しあった。アウルベアが何者か当たり前に知ってたお前もファンタジーオタクなのかとかね。


「で、どうする?受けるか断るか。」


 グヴィンが俺の結論を尋ねる。


「受けようぜ。そのうえで向こうが友好的か探りつつ、どうにも衝突しそうなら、早めに逃げればいい。あえて敵対する必要ない段階だと思う。」


「OK。俺も似たような考えだ。アウルベアの件は引き受けて、素性のことは適度に探りをいれる。はっきり向こうから開示してくるかもしれないし。」


 昼過ぎ、再びメタリカーナ邸へと赴いた。

 ジョヴァンナは別の用でいなかったらしく、部下が対応する。


 グヴィンが無骨な感じで伝える。


「アウルベアの件は引き受けた。詳細な情報を教えてもらいたい。まぁ特徴と場所さえ教えてもらえれば後は計画するが、取り掛かりは早いほうがいいだろう。」


 ジョヴァンナの部下と打ち合わせをして、その日は帰った。

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