第11話 親爺との付き合い

 朝、店が開きだす頃合いになると、装備を買いに行くことにした。

 

 まず、弓を売る専門店へと向かう。割と短期間でよく場所を把握していると感心する。町の通りには、ゴブリンたちで賑わいがある。昨日からトロルも結構見かけているが、この2種族は協力関係なんだろうか。ゴブリンがかなりの文明を持つ世界だったことに驚きと称賛を送りたい。


 今回の一連の現象を起こしたのは神なのだろうか。


 魔物にも文明的な生活を与えてくれているみたいで有難う。しかし、元の世界は今どうなっているのかなど、謎が溢れかえっている。考えても答えはない。当分、ゲーム感覚でいたほうが精神衛生上いいだろう。


 そうこうするうちに弓屋に到着した。入口や店は広く、遠慮なく双頭犬オルキュロス3匹と共に入らせてもらう。雑貨店もそうだったが町のどこも十分なスペースを持って作られている。トロルがでかいのもあるが、要はでかい魔物が訪れることを想定しているのだろうか。

 グヴィンが店員ゴブリンと話している。

 展示物にクロスボウを発見し、手に取ってみる。レバーを押すと弦が引かれる。興味があったが、値段が張ることは事前に聞いていた。

 グヴィンが合成短弓コンポジットショートボウを買った。あらかじめ目を付けていた、木製の軸に動物の腱や角を貼り合せたものらしい。扱いが難しそうで、いきなり大丈夫かと言ったら、余裕の顔で、前にさえ飛べば「必中三連撃」で何とかなると笑った。

 まぁ冗談だろう。


 次に防具屋へと向かう。グヴィンと話したのだが、双頭犬に指令を出し、歌と楽器で支援する後衛ポジで戦うなら、今はそれほど防具が必要というわけではない。属性抵抗の付いたものがほしいとは思うが。

 それで、盾はどうかというと、ハープを使うなら邪魔になる。いざと言うときは強力な蛸手尻尾があるため手斧もあまり持たないくらいだ。

 当たり前だが店頭に出ているのは、ゴブリンかトロル用が主で、どうせオーダーメイドになるならと、前腕と手の甲を厚みのある鉄板で覆う変形の指貫籠手(左右両手部分が肩を通じて繋がっている)を作ってもらうことにした。

 

 サイズを測るためマントを脱ぐとぐにゃぐにゃと丸めて収めていた3mをこえる自由自在の蛸手が飛び出し貫録あるゴブリンの店主も驚嘆する。


「お姉さん、これ種族なんなの?」


 装備製作で今後付き合いになるかもしれないのでグヴィンに正直に伝えてもらう。


「スキュラだ。そこに犬狼がいるだろ。」


「種族のスキュラ族じゃなくて、ホンマもんの方か。てかスキュラの犬はそういうのなのか…? 割と多くの種族をみてきたけど初めてだな。よっしゃ!良いもん見せて貰った礼に少し負けてやら。」


 親爺の視線が気になるが、値引きが続くな。魅力8が仕事してるのか。世の中の美人は普通にこのくらいの扱い受けていたのかもしれない。ルックス差別が一番あるってのがつらい現実だからな。

 それよりも、スキュラ族って言葉気になる。訊いてもらうと下半身タコ足型のスキュラ族って部族がいるらしい。


 とはいえ、負けてもらった割に、やはり熊狩りで得た収入のほとんどは消えてしまった。完成は2週間から3週間はかかるので、急ぐならちょくちょく見に来いとのことだ。


 店を出て、後はどこに行くかという話になる。


「服とかはよかったのか?金なら多少は借してやるぞ。」


「これ、特殊技能で作ってて、毎日、分解再構成してるから今は特に必要ない。」

 着ている黒のキャミワンピースを引っ張って教えてやる。


 便利なもんだと感心される。

 本当に便利だ。しかも、毎日、分解再構成を繰り返していたら、作れる総量が少しずつ増えていっている。


 とりあえず、トラブルなく当初の予定を済ませられてよかった。

 川辺の拠点に戻ると、グヴィンが弓の練習を始めたが、腕前は本当に大したことなかった。

 俺は、即興での曲作りをしながらハープの練習をして過ごした。

 元の世界の曲は用心して控えている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る