二十九、したたかな相棒
うわ、うわうわ、うわわぁー!?
なんじゃこりゃ。なんでこんな所にモンスターが大集合してるのよ!
眼下の空間。
恐らく切り立った断崖に囲まれた底だろう。
スミーはさらに上の場所から飛んで来たようだけど、まるで筒状になった空間の底の方に、闇のモンスターがひしめき合っている。
きんも、きんもー。
なんでこんな狭いところに閉じ込められてんの?
これじゃあまるで、モンスターハウスじゃない。
あ、モンスターハウスなのか。ここダンジョンだしね。
私達はモンスターハウス化した場所の、天井付近の横穴から出て来たみたいなんだわ。
「スミー、スミー!」
え? なんて?
私を抱えたスミーが慌ただしく飛び回る。
ちょ、危ないわよ。落っこちたらどーすんのよ。
まさか、私をここから落として処分するつもりじゃないでしょーね。
さっきまでのリスペクト感はどこ行ったの?
「スミ? スミー、スミーィ!」
……あれ、もしかして、私にモンスターを倒せって事?
「スミー!」
頭上から力強い返答が返ってきた気がした。
いやー、確かにモンスターの魔石食べてたもんね。
妖精に進化したってのに、まだ足りないってことなんですか?
私をモンスターハウスの真上にぶら下げたまま滞空する妖精。
ここから動く気配がないってことは、そういうことなんですね。
私は便利な道具じゃないわよ!
道具なのは認めざるを得ないけど。
妖精になったとはいえ、モンスターに使いっぱしりにされるのもなー。
勝手に運んでくれたから移動手段を得たと思ってたけど、あっちも私のことを利用してたってわけか。
うん、これってウインウインの関係ってやつ?
じゃあ、しょうがないわね。
モンスターを倒してもデメリットがある訳じゃないし、光魔法の熟練度を貯めさせてもらいましょうか。
下方に向かって『レンズ』を展開。
空気が歪んだような魔力場に、『マルチライト』で作り出した光球を放り込んでいく。
ダンジョンの中を妖精に抱えられて飛び回ってるうちに
全快といっても水が容器の半分くらいしかないので、必然的に作られる青ポーションもそのくらいだけど、低コストの光魔法を乱発するには十分にある。
光線が雨霰と降り注ぐ。
もしかしたらだけど、ここのダンジョンにいる闇を纏ったモンスターって、光属性の魔法に弱いのじゃないか。
光線が当たった端から、蒸発するように消えていってしまう。
闇属性には光属性よね。ゲームでもそうだったし。
なかなか強いように思えるのだけど。異世界的にはどんなもんなのかね?
例えば、リィナの火魔法は十分過ぎる程に強力だったけど、あれはそもそもの
身に付けた装備も、本人の練度も高水準な気がするので、比べるのは難しいかも。
私自身の魔力は高くないと思う。
というか、ステータスにそういった数値が現れないので、強さの程が光魔法の
使える魔法も、攻撃魔法としての判定が怪しいところだ。
なんか適当に魔法を組み合わせてみたら、いい感じになったでござる。
あ、『ビーム』があるか。でも、あれはなんか微妙。
待望の光魔法っぽい光魔法だったけど、消費
「……ォ」
影が溶けるようにして地面に染み込んでいく。
魔法の考察をしているうちに粗方片付いただろうか。
何気なくステータス画面を引き出してみたら、光魔法が
「スミーィ!」
底に散らばった魔石を、嬉々としてスミーが集めて頬張る。
暗がりに落ちた輝石のような魔石は僅かな光を反射し、幻想的な雰囲気を醸し出しているけど、節操ない妖精のお陰で台無しだ。
わんこそばでもなしに、どうしてそんなに入るのか。
魔石っていっても魔力の残滓のようなもので、体内に吸収されれば質量はないも同然なのかもしれない。
でなきゃ、明らかにスミーの容量を越えてるでしょ。
お前の胃袋は宇宙か。
「スミー」
あれだけ大量にあった魔石を全部平らげたスミーがお腹を抱えている。
蛹から成虫(?)になってお腹が空いてたのかな。
それを考えても悪食なのは間違いない。
なかなか癖の強い奴が相棒になっちゃったなぁ……。
リィナと冒険者生活をしてた時は、色々と刺激になる事や楽しい出来事もあったのだけど、このダンジョンの穴蔵に悪食妖精では、デンジャラスな未来しか見えない。
お腹を膨らませた様子のスミーがやって来て、私に寄り掛かる。
あ、やめて、倒れちゃう。
コロンと横倒しになった私のでっぱったお腹に、スミーが頭を乗せて横になる。
あれ? 大量の魔石を平らげて、お腹も膨れたから、眠くなってきたってか?
そんでちょうどいい
コラー! 私の扱いがちょっと雑だわよ!?
モンスターハウス化していたダンジョンの僻地はどうやら隔離された空間らしく、四方を断崖に囲まれていた。
なにかのギミックが作動すると、ここにいたモンスター達が溢れるようになってたのかな。
空気穴って訳じゃないだろうけど、上部にあった横穴から侵入した私達がモンスターを全滅━━主に私が。っていうか、全部私が━━させたから、一時的なセーフティゾーンになったのだ。
な、なんてしたたかな奴なの……。
私の倒したモンスターの魔石をぶんどって食べてた時から、薄々は感じていたけども。
悪知恵の回る狡い妖精だわ、コイツは。
はー、とんでもないのに目を付けられてしまったなー。
ダンジョンの奥底から移動できるのはいいけど、これからも上手いこと利用されるんじゃなかろうか。
それこそ、私に逃げる手段はない。
ワンチャン倒してしまおうとしても、私の光魔法の効果が薄かったしなぁ。
属性的な相性か知らんけど、こちらの分が悪いのは確かだ。
うわー、なんか気分が悪いわね。
生殺与奪権って程じゃないだろうけど、妖精のいいように使われるのは。
待て、私は空き瓶。私は道具。
人から使われるのは本望なのでは?
私は人の魂を持っていて、使う相手はモンスターだけど。
うん、絶対に反逆してやる。
ま、どうせ私にできる事なんて最初から限られてるわ。
だから、私は考えるの。
考えて、考えて。
あの性悪女神をギャフンと言わせてやる算段を、現実のものとするために。
待ってなさいよ、私の到達点。
そこから私の、本当の異世界生活が始まるんだから。
今は妖精に枕されていても、いつか絶対に人の尊厳を取り戻してやる。
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