第22話 正気

「正気を疑いますね」


タラハに帝国から特使?がやって来て、此方に無茶苦茶な要求を突き付けて来た。

帝国側からの要求は二つ。


一つは関税を戻すから、例年通りの量になる様帝国を通して交易をする事。

もう一つは、ベース夫人を夫の元に返せという物だった。


夫人とはカルメの事で、ベース姓はその嫁ぎ先だった家だ。

だがカルメは追い出される際に正式に離婚が成立しているので、返せも糞もあった物では無い。


「グリードって男は、相当カルメに執着してるみたいね」


「そんなに執着するなら手放さなければいいのに。馬鹿の考える事は分かりません」


「そうね」


ロザリア様がティーカップを手に取り、一口すする。

普段からBLBLと特殊な趣味を口にする彼女だが、貴族としての教育はきちんと受けているせいか、その所作はとても優美だ。


私も出された紅茶を一口、口に含む。

とても良い香りだ。

それ程高級ではないと彼女は言っていたが、それでも庶民には手の出せないレベルなので凄く美味しかった。


「それで、どうされるんですか?」


「どうもしないわ。無視するそうよ。でも――」


ロザリア様が言葉を途切れさせ、顔を曇らせる。

何か気がかりがある様だ。


「特使――というか、グリード・R・ベースは凄い剣幕だったらしくて、帰る時には戦争だって騒いでいたらしいのよ」


本人が直接乗り込んで来てたのか。

しかも戦争とは穏やかではない。


「ないとは思うんだけど……もしその場合、貴方に負担がかかるんじゃないかと思って……」


私は今研究室勤務だが、基本的に軍属だ。

戦争になれば、当然私は魔導兵として狩り出される。

そうなれば多くの命を奪う事になるだろう。


ロザリア様はそれを心配してくれているのだ。


「大丈夫です。この国に所属すると決めた時から、最悪そういう事態も覚悟していますから」


勿論、大量虐殺などはしたくない。

だが相手が理不尽でこの国を害するつもりだと言うならば、私は覚悟を決めるつもりだ。


タラハを、クプタ王子の敵となる者を。

私は許しはしない。


「まあたぶん大丈夫だとは思うわ。じゃ、お茶を飲んだらお願いね」


「畏まりました」


今日ここへは、紙を作る機械の増設の為にやって来ていた。

本格的な交易が始まって紙の需要が爆発し、1台では供給が全く追いつかないそうだ。


「100台ぐらいお願いしちゃおうかしら」


「いや、流石にそれは……」


流石の私も魔力が持たない。

そもそも仮に足りたとしても、置く場所が無いだろう。


「ふふ、冗談よ。あ、そうそう」


そう言うと、彼女は椅子から立ちあがりある本を持って来る。

勿論例のあれだ。


「これ、第二号よ。うちの子達の間じゃ結構好評だから、貴方もまた後で感想宜しくね」


「はぁ……」


私は気のない返事を返す。

そういう趣味はないのだが、ロザリア様に読めと言われてしまったら断る分けにも行かない。

本当に困った話だ。


本当だよ?

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