折角国を救ったのに、その褒美が不細工で性格の悪い王子との結婚なんてあんまりです。だから聖女を止めて国をでるので探さないでください

まんじ

第1話 冗談じゃない

「さあ契ろうぞ」


急遽催されたサプライズ婚約パーティーの後、用意された客室のベッドに呆然と腰掛けていると、先程婚約を告げられたばかりの相手――カンダダ王子がノックもせずに部屋に入って来た。

そして私の前までやって来ると、突然私を押し倒す。


「ふぁっ!?」


不細工な顔が迫って来たので、咄嗟に顔と顔の間に手を挟み込み私はそれを遮る。

王子の唇が掌に当たり、ねちょっとして気持ち悪い。

と言うか、思いっきり私の掌を嘗め回してくる。


悪夢だ。

悪夢としか言いようがない。


――急にパーティーに呼ばれて。


――いきなり婚約を告げられて。


――そしてその日に王子に押し倒される。


しかも相手は嫌われ者を地で行くカンダダ王子だ。


不細工で。

性格も悪く。

王子の肩書を笠に着て、女性に手を出しまくっていると悪評の。

しかも今分かった事ではあるが、カンダダ王子は口も臭い。


こんな相手と結婚?


国を救った褒美がこれと結婚だなんて、余りにも理不尽だ。


「王子!お止め下さい!」


王子はガタイがよく、見た目通りのパワーで私に迫る。

魔法を使えば撃退するのは容易いが、流石に一国の王子を傷つける訳にも行かない。

私はなんとか頑張って、王子を押し返そうと奮闘する。


「恥ずかしがるな!俺達は夫婦になるのだぞ!」


王子が股間をグイグイ私の体に押し付けて来る。


――最悪だ。


最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ。


何でこんな目に……


私は孤児で、物心つく頃には教会で育てられていた。

本来ならそのまま修道女にでもなる運命だったが、天の悪戯か、私にはあり得ない程の魔法の才がその身に宿っていた。


その才能を見込まれた私は、田舎の教会から大神殿へと移された。

そしてそこで聖女となるべく厳しい修行の日々を課される。

それは辛く険しい日々で、逃げ出したくなる事だってあった。


それでも挫けず我慢して努力してこれたのは、私の力がこの世界の人々に幸せをもたらすと言う、大神官様の言葉を信じていたからだ。

実際聖女の位を拝命した私はカサン王国に巣食う魔王を見事に討ち取り、国に平穏を齎した。


別に褒美を期待して頑張っていた訳ではない。

だがその働きを称えられ、国から褒美を与えられると聞いてうきうきしていたのは事実だ。

頑張って来たのだから、報われたって罰は当たらないと。


それなのに、その頑張りの結果がこれ?


……ふざけんな。


ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!


「私は国を救ったのよ!それなのになんで褒美がこんな罰ゲームなのよ!」


「王族である俺と結ばれる事が出来るんだ!喜べ!」


喜べるか!


なんだか無性に腹が立ってきた。

育てて貰った恩は、魔王を倒した事で返しきっている。

それ所か、大量のお釣りを貰えてもおかしくないレベルの働きをしたと言っていいだろう。

ならば、これからの人生をこんなゴミと過ごす必要などない。


私は自由に生きる!


「王子……怪我をしたくなければ、私から離れて下さい」


声のトーンを落とし、警告を発する。

これ以上続ける様なら……


「黙れ!お前は俺に従っていればいいんだよ!」


王子の手が私の胸に触れる。

その瞬間、私の中で何かが切れた。

私は無詠唱で使える弱い魔法で、その手を吹き飛ばした。


「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


王子がベッドから転がり落ち、痛みに悶え苦しむ。

その手からは大量の血が滴り、高価な絨毯を赤黒く汚す。

本来なら威嚇程度にしか使えない弱い魔法だが、私が使えば容易く他者の命を刈り取る事の出来る威力へと変わる。


これが魔王を倒した聖女の力だ。


とは言え、死なれると厄介――大丈夫だとは思うが――なので、魔法で傷口だけは塞いでおく。


「誰も来ないって事は、人払いしてた訳ね」


大きな悲鳴が起これば、警備の兵が駆け付けて来る筈だ。

だが誰も来る気配はない。

初めっから私を襲うつもりだった王子が、人払いしておいたのだろう。


「こんな……こんな真似をして……ただで済むと思うなよ」


カンダダ王子が青い顔をして、私を睨み付ける。

魔王とやり合った私に、失禁して床にへたり込んでいる男の脅しなど通用しない。

私は王子を無視し、部屋のドアを開け放った。


「王子。この国への義理は果たしました。それでは失礼いたします」


優美にお辞儀した後、私は国王の元へと向かう。

そのままこの国を出て行くと、馬鹿王子にある事無い事言い触らされるのは目に見えていた。


それは流石に腹が立つ。


だから一応経緯と事情を、国王と大神官様には伝えておく。

それで国に追われるのならば、まあ仕方ない。

聖女としての力があればどうにでもなるだろう。


この日、私はカサン王国を後にする。

自らの幸福を求めて。

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