氷川 新③

 入学式は何事もなく終了した。今回の式で特に印象に残ったのは、理事長や学校長のキャラの濃さだった。校長は生徒をしっかり祝うものの、途中から春アニメの話とかパケットモンスターの新作の話をしだすし、理事長は姿言葉だけでも男でも女でも無い(※簡単にいえばオネェ)オーラが漂ってくる。

 二人に圧倒された俺は想像以上に話に集中することができなかった。ネットでの『創高の校長と理事長は癖が凄い』つう噂は本当だった… 

 癖が凄いどころじゃねえぞ。完璧に偉い先生のイメージ範疇外だったぞ。中学や小学の頃の校長は頑固な爺さんに黒縁眼鏡が主流なんだよ。


 あの二人のせいで、環境に適応できるのだろうかと心配になってくる。

が、教師陣は割と普通だったので別にそんなことは無かった。助かります。


 なんだかんだで1回目のHRを終えた俺は、部室に向かう準備をし始めた。

創高のスポーツ・芸術特待生は、専門の部活に入部することが既に決まっており、一足先に参加することができる。初日からすぐ行動に移したいからな。

 これから住むことになる寮は後回しにし、一直線で部室に向かった。





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「…もしもし。もしもーし」

 俺の声に反応した警備員のおっちゃんが、窓を開けて俺に注目した。

「眠ってるとこサーセン。あの、鍵くれる?野球部の」

「鍵ね鍵。はいこれで開けれるよ」

 俺は部室管理のルールに従い、もらったばかりの生徒証と交換する。

「あんがとねおっちゃん」

 鍵が手に入ったので去ろうとしたが、何やらおっちゃんが呼び止めた。

「んっ火野君だっけ。一年じゃない。見学希望なら先輩と一緒じゃないと」

「そんなら大丈夫っすよ。パイセンから許可は得てるので」

「あー特待生か。なら良いや。いってらっしゃい」

 一応特待生ではないが、話が少しややこしくなりそうだし、はいそうですと答え部室に向かうことにした。そうか、特待生も今日から参加できる仕組みだったな。ならばそいつらよりも先に俺ちゃんが着いちゃおうか。んで練習しやすいよう部室の掃除でもしてよう。自前の雑巾忘れてませんように。




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「えっもう部室空いてるんですか」

「うん。君と同じ一年生。先に行ったよ」

「そうなんですね。あざっす!」

 早速別の特待生が到着したのか。やっぱり俺より上はいるもんだな。


早く駆けつけようと駆け足で行き、やっと2階右奥の部室に到着した。俺は息を整え、ドアノブを手に扉を開けた。

「ふんふんふ〜ん♪」

 開けた瞬間、誰かの鼻歌が聞こえてきた。なんか俺の目の前で男がボール掃除してんだけど。凄いノリノリなんだが。自己紹介したいんけど、邪魔するのは悪い気がしてくる。

「…ん? 君、特待生の子?」

 あっ普通に俺に気づいてた。ならいいわ

「うーん? うん、そうそう、そんな感じ。俺もここに入部してきたけど。しかし熱心だなあ。最初に来て掃除なんてよ」

「俺ちゃんは中学の頃から野球のはじめに、道具を綺麗にするのがルーティンなんだ」

…一人称は俺ちゃんと呼ぶのか。少し変わってんな。でも道具を大事にする精神が宿っているから、育ちは良いのだろう。

「あっ名前名乗ってねえな。俺は1年1組10番 氷川 新。今日から3年間よろしくな」

「氷川くんって言うのかぁ〜 じゃあ俺も。所属は1年3組15番 名前は火野 勇輝。よろしくね」

 お互い自己紹介を交わし終えると、火野が握手を求めてきた。なんだ良い奴じゃん。俺もそれに応えようとしたその時だったが。

「ちょっと失礼するよ」

ん?何かはじまんの?ちょっと待てなんか手を叩いたり握ったりグータッチしたり、何してんだ?ちょっ!急に腕を組んでなんだ!?

「仲良しの証。ハンドシェイク〜!」

………んんんんん?????????

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