第1話

「あー、もうあのお客さんムカつく‼︎」

夜のバックヤードでは藤崎みちるが不満をもらしていた。


「たしかにあの人は面倒だよね。今度から対応は部長に振っちゃおうか。」

みちるの不満を受けそう答えたのは同僚の小副川真司おそえがわしんじである。


大卒で新卒のみちると、20歳で中途採用の真司は共通点がないように見る。しかし、働き始めた時期が近いことと仕事では不思議と気が合うため勤務後の片付けをしながらよく雑談をしていた。


2人が働くのは寝具用品を扱う大手企業の販売店だ。

1度は聞いたことがあるという人が多く、少し値は張るが品質で客層を得てここ数年で急激に知名度・業績をあげている会社である。


しかし、大手企業といえど地方の販売店に関しては商品のラインナップを都市部よりも数を減らして設定をしている。

手配に時間がかかるものも商品には多く、すぐに用意を求める顧客には悩まされることが多い。


「あのおじさん、手配まで2週間はお時間もらいますって何度説明しても『すぐに用意しろ‼︎』の一点張りだよ‼︎

無理だって言ってるのに、理解できないのかな⁉︎」

「しつこかったね、あのおじさん。

途中からみちるさんがイライラしてきてるのがよく分かったよ。あのままおじさんのこと殴っちゃうんじゃないかと思って俺がソワソワしてきちゃった…。」


真司はそう言いながら苦笑をしている。


「だって、しつこいから…。」

「殴らずに我慢できたのは偉かったね。そんな偉いみちるさん、今日の夕飯予定ないなら食べに行かない?

新しくできたカフェが気になるんだけど、男1人は入りづらいんだよね…。」

「え〜、彼女と行けば?」

「いないから‼︎古傷をえぐらないで‼︎」


真司は最近彼女と別れてしまい、2人の間ではそれを話題にからかうことは日常茶飯事だった。


「いいよ、夕飯行こうか。

新しくできたカフェって、駅前の商店街にリノベーションでできたところ?そこならこの間ランチは行ってきたよ。

プレートで、スープとサラダも付いてお腹いっぱいになれるメニューだった。」

「え⁉︎もう行ってきたの‼︎

俺も誘ってよ。ただでさえ男1人でおしゃれなカフェって入りづらいから困ってるのに…。」


新しいもの好きのみちるは、家・職場の近くで見慣れないお店があるとすぐチャレンジしに行ってしまう。

一方、カフェ巡りが趣味だが185㎝越えの身長もあり体格が良いため、相手に威圧感を与えてしまいがちな自覚のある真司は、1人でカフェに入ることをためらうことが多い。


「えーとね、基本的にランチメニューはパスタメニューとお米とおかずの組み合わせの2種類があるんだって。スープとサラダは共通で、メニューは週替わり。好評なメニューはレギュラーメニューになるかもって書いてあった。

そうそう、週替わりにのランチは黒板におしゃれに書いてあるんだけど、レギュラーメニューのメニュー表が、手作り感が溢れていてあったかい感じだったよ。

席数もそんなに多くなくて、落ち着いた雰囲気かな。昼と夜で印象は変わるかもしれないけどね。

あとは、…」


「え、ちょ、ちょっと待って!

これから行くんだから先入観は欲しくない!行ってからその続き聞くから!」

焦ったように真司がみちるの言葉を遮った。


「あ、ごめん一気に話し出しちゃった。

じゃあ、早く行くためにさっさと片付けちゃおうか!」

「あぁ、さっきの続きは後で聞くわ。」


ハッとしたようにみちるは一言謝り、夕食を食べるため2人はそろって手を動かし始めた。

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多くは未定 カイロ @gingerpatience

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