料理人は・・・

「微妙・・・」

「同意」

「残念・・・」

 期待していた料理の評価は、あまり良くなかった。周りの人は、美味しそうに食べているけど、私達の評価は今ひとつです。

 料理は、和食でした。教会で広めているだけあって、世間でも認められています。神への供物といわれる食べ物です。素材の育成に適した気候が少なく、食財が高価というだけでなく、教会が調理法を秘匿しているので、貴重な料理となっています。

 ご飯は、上手に炊けていました。味噌汁や、醤油っぽいものが、全てを台無しにしています。調味料が、微妙です。悪くは無いけど、今ひとつ。

 ある程度予想していたけど、空間魔法で、大豆などを保管して、時間を経過させていると思います。

 正しい味噌の作り方等を学べば、かなり上を目指せそうですよ。

 ただ、女神がこの人物の抹殺を依頼した理由がわかりません。

「違法行為、どこか触れてる?」

「無いと思います」

 サーシャは、教会で法律関係のことも学んでいたそうです。この世界の教会、使途を育て、いつか来る人の役に立つ事を真の目的にしているそうです。サーシャは、その意味では有能です。

「おかしな物は、無いよね?」

「メニューの、これは?」

 辺りを調べていたレンが、何かに気づいたみたいです。

「100年物のワイン?」

「空間魔法で、時間進められるなら、量産できそう」

「値段は?」

「高い」

 他のメニューと比べて、確かに高額です。

「同じ物と比べてだと?」

「100年物のワイン、普通の価格の半分くらいです」

「加護やスキルを使って、この手の物を販売するのは、違法かな?」

「個人のスキルで作れるものを、販売する事は問題ありません。ただ、スキルを使って製造したと表示する義務はあります」

「あ、書いてある・・・」

 そのワインには、スキルを使って製造と記載してありました。

「違法は部分はありませんね・・・」

「こうなったら、一度会って見ましょう」

 職員の人に、料理人に会いたいと聞いてみます。

「トトですか?」

「はい。トトという料理人がいるはずですが?」

「このホテルには、そのような人物はおりません」

 色々な人に尋ねてみて、最終的には支配人に確認した所、目的の人物はいませんでした。

「味噌の製造に、関わっているはずですけど?」

「あの味噌は、教会から特別に取り寄せた物です」

「ワインもですか?」

「それに関しては、当ホテルの秘匿事項です。お答えする事は出来ません」

 サーシャの、教会所属という身分を盾にしての聞き込みです。下手なうそは言えないはずです。


「どういうことでしょう?」

 部屋に戻ると、サーシャが聞いてきます。

「エメラルダの情報が間違ってないのなら、この場所にいるはずだけど・・・」

「入れ違いで、どこかに行った?」

「それなら、支配人が嘘をいう必要がありません」

 味噌に関して、教会がよその場所の荷提供する事は無いとサーシャが断言しました。万が一、提供するとしても、品質に関して徹底しているので、あのレベルの物を店に出す事は無いそうです。

「閣下の能力で、探せないの?」

「出会った事の無い人を、探すのは難しいね」

「このホテルにいるのなら、怪しい場所とかないの?」

「ここにいるかすら、定かでないからね・・・」

「この周辺にいると思います」

「何故?」

「味噌の鮮度です。空間魔法使いは貴重なので、何人もいるか不明です。味噌の鮮度から、近くにいると思います」

「空間魔法の使い手、貴重なの?」

「国が欲しがる人材で、高額で召抱えられるので、当たりの加護と言われてます」

「空間内の、時間を操作できるとなると、国が確保して手放さないよ」

「このホテル、国より破格の条件を出しているのかな?」

「身内の可能性があります。支配人の家族なら、ホテルのために協力するでしょう」

「騙して、使っているかもしれないよ?」

「その可能性もあります。支配人が、ここにいないと言っているので、やましい事情がある可能性は排除できません」

「なるほど・・・」

 そう言うことなら、怪しい場所が無いか調べて見ましょう。この部屋を中心に、薄く魔力を伸ばしていきます。迷宮探索用の、簡単な魔術です。ホテルの所々、魔法を阻害する仕組みがあります。これは、このホテルがしっかりとしたホテルの証拠でしょう。盗聴防止とか、転移を防ぐ仕組みがあります。

 ただ、この程度のものなら、私にとっては意味がないです。伊達に、高レベルの存在ではないのです。

 魔法を監視している職員もいたので、みつからない様に慎重に調べます。

 高級ホテルというのは、伊達ではないですね。異常なくらいセキュリティがしっかりとしています。

「これ、外ではなく中を見張る仕組みだったのね・・・」

 残念なのは、セキュリティは外ではなく、中を見張る物でした。

 ホテルの中心には、座敷牢みたいな場所があり、そこに数人の子供がいます。

「ちょっと、行ってくる」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫になるように、注意する」

「むーー、不穏な気配を感じます」

「不穏?」

「女の子の気配?」

「じゃ!」

 レンに何か言われる前に、転移します。この距離なら簡単に出来ます。勿論、察知されるへまなどしません。

 ただ、レンの感の良さは気をつけたほうが良いですね・・・。

 転移した場所には、レンの予想通り女の子がいました。この子がトトでしょう。ただ、どうしましょう・・・・。

 鎖に繋がれ、あまり良い状態で無いと一目でわかるのですよ。

 こちらを見て、何かを望んでいます。

 その瞳は、何度も見ました。戦場で、敵対して、瀕死の状態で苦しんでいる兵士の目です。苦しみからの解放を望む瞳です。

「お願いします、私を・・・」

 その先を、言わせません。痛みも苦しみも無く、この世界から、消し去りました。この世界に来て、無くした筈の自分の心、色々と戻っていますね。

 危うく、レン達ごと、このホテルを消滅させる所でしたよ。あの二人がここにいて、この世界は救われましたよ、感謝すべきです。

 ただ、この世界でトトという子を救えなかったのは、悲しいです。

 神の使途という肩書きがあっても、万能ではないということを理解していたはずですけどね。

 休暇なのに、なんでこんな思いをしないと駄目なのかな・・・。

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