第5話勇者は死んだ

「それは、君たちが悪い」

 ここまでの話を聞くと、この剣士の少年が愚かだということがわかった。

 生き残ったのは、勇者、賢者、聖女と荷物持ちらしい。

「・・・」

 ある程度落ち着いて、自分達の過ちに気づいている勇者たちは、静かになった。

「この子、いらないなら私に頂戴」

 面白そうなので、街に戻る前に、色々と試してみたい。いらないなら、もらっても良いでしょう。

「そんな事、出来るわけないだろ。こいつは、危険だ。勇者の名にかけて、処分する」

「それは、もったいない。私が、面倒見るから、頂戴」

「いくら、貴方が強いといっても、それは無理です」

 勇者と名乗った少年は、私の言うことを、拒否します。

「えっと、名前は?」

「・・・レンです」

「良い名前だね。私は、レッド。一緒に行こうよ」

 私の名前を聞いた胃瞬間、レンは少し怯えた感じがします。

「何処に?」

「楽しい所」

「楽しい所?」

「そう、毎日、延々と戦って、強くなれるって、そうじゃない。あそこは今は関係ない。とにかく、楽しい場所に、一緒に行こう!」

 少し変な事を言ったので、レンと名乗った荷物もちの子は、怪訝な瞳で私のことを睨んでいます。その目も,中々良い感じです。

「加護無しが、勝手なことを言わないでもらえますか?」

 こちらを、睨んでいた賢者と呼ばれていた少年が、そう言いました。

「加護なし?」

「貴方、加護がありませんね?子供っぽいですが、儀式前とは思えません。僕は、相手の加護が見えます。貴方、加護がありませんね?」

「そう言えば、そう言っていた気がする。それが、何か問題ですか?」

「神から見放された、邪悪な存在は、消えるべきです」

「加護が無いだけで、殺されるのですか?」

「僕が殺します。それが、僕の使命です!」

「つまらない、使命ですね・・・」

 正直、この子相手にしても面白くありません。指一つで、簡単にダウンできる相手です。

「なら、俺も手伝おう。ついでに、この危険物も処分する」

「そうですね、神がこの様な存在を認めるわけがありません」

 残りの二人も、私に対して戦闘の意思を見せます。

「折角、生き残ったのに、命は大切にしたほうが良いよ」

 念のため、戦いを回避できないか試します。

「加護無しの分際で、神の代行者である僕に、意見するな!」

 こいつ、先程助けられた事を覚えていないのでしょうか?

「勝てると、おもうのですか?」

「当たり前です。貴方は、強いかもしれません。でも、僕の英知があれば、負けるはずがありません!」

 この自信は、何処からくるのでしょうか?

「レン、お前は俺の敵だ!」

 賢者はレンに向かって叫びます。

「トム、サーシャ、お前たちも僕に続いて、宣言してください」

 賢者に言われるままに、二人がレンに敵対宣言をします。

「こ、これは、凄い力が・・・」

「魔力が、溢れてきます」

「これほどとは、計算外ですがこれなら、誰にも負ける気がしません!」

 3人は、劇的な変化をしています。外見こそ変わりませんが、見に纏っている魔力が、桁外れに増加しています。

「なるほど・・・」

 レンと敵対した事で、彼女の加護が発動しました。敵を強化する彼女の特性を利用するとは、面白い考えです。

「これは、君の加護?」

「・・・ごめんなさい。すみません、私のせいです」

「どれくらい、強くなるの?」

「10倍くらいです。後は、装備している物によって、上昇します」

「となると、この鎧が厄介か・・・」

 神様からもらったある意味特別な装備です。ただ、この下は裸ですからね。このままで良いでしょう。元のレベルが低いので、仮に100倍強化されても敵ではないのですよ。

「炎よ、わが敵を焼き尽くせ!」

 賢者がそう言うと、巨大な炎がこちらに向かってきます。

「理により、水は流れる・・・」

 向かってくる炎を、受け流します。魔法の流れを支配して、そのまま送り返します。

「風は運ぶ・・・死を!」

 その直後、加速して賢者の胸を貫きます。遅れて投げ返した炎が、直撃するので、賢者の死体をぶつけます。

「神の、奇跡よ!」

 聖女が、蘇生魔法を唱えます。一度は生き返った賢者ですが、その直後遅れてきた炎によって爆撒します。哀れです。

「か、神の奇跡よ!」

 聖女が、再び蘇生魔法を試しますが、肉体を失った賢者の蘇生は失敗します。なまし、炎が強力になっていたのが仇になっています。

「女だからと言う事で、容赦はしないよ」

 私も、今は女の子。可愛い子だから、もったいないけど、死んでもらいます。

「させるか!」

 私の目の前に、勇者が割り込んできます。

「そう言えば、勇者って、殺しても大丈夫かな?」

 この世界を守る役目とかあると、こちらにそれを負担しろと言われかねない。

 余計な事を考えていたので、勇者の攻撃が当たってしまう。兜の一部が破損して、顔が露出する。

「女神様・・・」

 私の顔を見て、聖女が呟く。そして、ひれ伏す。

「これで、終わりだ!」

 それを見ても、勇者はひるまず攻撃の手を休めない。魔力を込めた、強大な一撃が襲い掛かる。

「それは、正しい」

 油断せず、敵を仕留める態度は、中々良いものを持っている。

「あの場所で、待っている」

 休暇が終った後、鍛えてみると面白い。紙一重で、攻撃をかわして。拳を打ち込む。見事なカウンターが決まり、勇者は爆撒して粉々になって消えてしまう。

 こうなったら、蘇生魔法は無理だろう。

「あうぅぅ・・・」

 そして、その飛びちった勇者の血は、レンに直撃しています。ゴブリンの時の汚れも、まだ綺麗にしていないので、これはお楽しみの前触れかもしれません。

 彼女の目が、色々と危険な色をしている気がするけど、気にしない。

 ひれ伏している聖女も、気にしない。

 お楽しみが、待っています。

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