教室の混乱

※今回の話は語り手が変わっていきますので、ご注意ください。





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 時刻は少し遡り、学たちが教室を出たすぐ後のことである。




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 清水新名side



 プレイヤーが教室を退出した後、残った生徒には多少の自由が与えられていた。


 自由、とは言っても特にやることはないし、せいぜい緊張を紛らわすくらいの雑談しか聞こえてこない。


 斯く言う私は、何もしないでぼーっとしていた。だって学がいないんだもん。


 Eクラスの生徒達はすごくいい緊張感を持っていて、何だか成長したなぁとか思ってしまう。

 少し前までは団結力のかけらもなかったのにね。


 それもこれも、全て隣の彼のおかげなのかな。何故だかわからないけど、そんな風に思っちゃう。

 彼には、言葉では言い表せない変な魅力がある。変とは言っても、悪い意味じゃなくて不思議って意味。

 今思えば、柊さんが生き生きし出してから彼のことを名前呼びしてたし…なんだかんだ言って全部の試験に関わってるし、村田くんも彼のことを一目置いているように見える。


 本当に不思議。何でこんなに彼のことが気になるのかな…。


 自分でも、その答えはちょっとよくわからなかった。



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 赤城翔也 side



 8時になって、やっとパソコンが届きやがった。

 これがなきゃこっちは何もできねぇんだから、もっと早く持ってこいよ。心の中で、そう悪態つく。


 笑顔でそれを受け取った村田は、届けに来た奴が出て行った後に俺たちに向けて指示を出してきた。


「それじゃあこれからのことを確認するよ。今回は何が起こるかわからない。もしかしたら、こっちでも何かしらの試練や試験が行われるかもしれないんだ。だからみんなにはくれぐれも慎重に行動して欲しい。みんな、これからの3日間、悔いの残らないように全力で頑張ろう!」


 村田が俺たちを鼓舞するように語りかけると、あちこちから「おー!」とか「やってやるぜぇー」みたいな声が聞こえる。

 「うるせぇな」とか思ったけど、俺もそれなりの雄叫びをあげたから何にも言えねぇ。


 気合も入れたことだし、そろそろ俺も与えられた役割をこなすことにする。

 なんかクラスの雰囲気がだんだん良くなってるし、俺がそれを壊すわけにもいかねぇ。それにこうなったのは、柊と咲のおかげだ。あいつらの頑張りを無駄にはしねぇぞ。


 俺が与えられた役割は、護衛。いわゆるボディーガードとか言うやつだ。

 「何でもありな試験だから万が一に備える」とか村田が言ってたけど、詳しいことはわからねぇ。

 とりあえず任されたことはきっちりやってやる。ま、喧嘩とか運動神経にはかなり自信があるしな。


 …とは言っても、その自信がついこの間揺らいでしまった。それがあの野郎との腕相撲だ。

 あ〜、思い出しただけでイラついてくる。

 勝ったのはいいが、あの時あいつは力を…


「赤城くん。大丈夫かい?」


「あ?」


 油断しているときに正面から話しかけられて、少しだけ柄の悪い声を出してしまった。あわてて正面を向くと、村田の奴が俺を心配そうに見ている。


「…問題ねぇよ。んなことよりも早く向こうと連絡とった方がいいんじゃねぇか?」


「そっか…。うん、そうだね。わかったよ」


 ったく、何であいつはこんなに人の事をよく見てんだよ。みんなで仲良くしようってそんなに大切なのか?


 あーもう、またイラついてくる。仲良しごっこなんてどうせ意味がねぇんだ。


 最後には、全員俺の元から離れていく。

 みんな見かけだけで本心なんてありゃしない。

 だから俺には、本当の友達なんて一度たりともできたことがないんだ。





 そう、それが俺の、赤城翔也の運命なんだ。





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 村田陽 side



 赤城くんに言われた通り、先ほど受け取ったパソコンを確認する。

 それはノートパソコン型で、手前から奥に開いて使うタイプだ。まぁ大体はそのタイプなんだけどね。


 僕はパソコンの電源を入れるためにそれを開く。すると、そこには何やら一枚の紙が挟まっていた。

 手にとって読んでみる。そこにはこう書かれている。


『ざまぁねぇなEクラス。前回の試験のお返しだ。せいぜい頑張りな。獅子優馬』


「なんなんだこれ…。っ⁉︎ま、まさか!」


 嫌な予感がして電源ボタンを押す。案の定、パソコンに電源が入ることはなかった。

 念のためにも充電用のケーブルを挿して、もう一度電源ボタンを押す。結果はわかり切っていたが、そのパソコンが起動することはなかった。


 完全にやられた。学くんに「獅子優馬には気を付けろ」と言われていたのに…。心配をかけないために、柊さんに言わなかったことがいけなかったのだろうか。

 タラレバをいっても、僕の失態であることに変わりはない。


 そんな様子の僕に違和感を抱いたのか、西野政信にしのまさのぶくんが僕の心配をして声をかけて来た。

 彼はとても優しい性格の持ち主で、生き物が大好きな男子生徒だ。

 そんな彼だから、僕の異変に気がついてしまったのかもしれない。


「だ、大丈夫?具合でも悪いの?」


「…ううん、違うんだ。少し良くないことが起こってね…。どうしようかな…って悩んでいたんだよ」


 僕たちの会話で、他にも僕の異変に気がつく人たちが現れる。清水さんもその1人だった。まったく、なんで僕がみんなに心配をかけているんだよ…。


「良くないことって何?なんかあったらみんなで解決すればいいじゃん!」


 その考えは素晴らしいものだけれど、今回ばかりはどうしようも無い。そう思って何があったのか言いあぐねていると、矢島くんが唐突に笑い始めた。

 その態度が気に入らないのか、赤城くんが矢島くんに詰め寄る。


「てめぇ、調子に乗んなよ?何もしてねぇくせに、人が困ってんのを見て笑ってんじゃねぇよ」


「オーケーオーケー。君がそんな正論を言うとは驚きだね、赤髪君。そんな風に言うなら、協力でもしてあげようじゃないか」


「んな言葉、信用できるか」


「そうかい?なら、手始めに君が困っている事を解決してあげようじゃないか。さぁ太陽君、なにがあったのかね?」


 自信満々にそう訊いてくる矢島くん。いくら彼がすごくても、これに関してはどうしようも無い。事前に知っていて、動いてなければ対処なんてできないと思う。

 どうせ解決できないのなら、混乱を防ぐためにも大々的には言わないほうがいいのかもしれない。


「いや、大丈夫だよ。これに関しては君でもどうしようも無いと思う。別のところで活躍してくれないかな?」


 そう言っても、矢島くんは僕の言葉に全くと言っていいほど耳を傾けない。そして矢島くんは、僕はもちろんクラス中が驚く発言をした。


「話してはくれないのかい?なら、何があったのか当てて差し上げようじゃないか。…そのパソコン、Dクラスのライオン君に壊されたのではないかな?」


 ライオン君、それはつまり獅子くんのことだろう。まさか言い当ててくるとは…。

 矢島叶助は一体何者なのか、今の僕には彼の力を測ることなんてできるはずもなかった。

 だから、今の僕はそんな彼に助けを求めるしかないのだ。


「うん、その通りだよ。…君は、君なら…この問題を解決できるの…かな?」


「ふふっ。ああ、もちろんだよ」


 本当に敵わないな。


 ついそんな風に思ってしまった。矢島くんにではなく、ここにはいない彼に、である。


 きっと、いや、これだけは確信を持って言える。




 矢島くんを変えたのは桜井学くんである、とね。





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