桜井学と佐々木優の過去
私は彼を知っている。彼も私を知っている。
その彼とは、桜井学という男子生徒だ。
私達はとても仲が良かったのだと思う。思う、というのは、きっと、私の中で学との思い出が風化してしまったからだ。
幼い頃、私達はよく遊んでいた。2人で本を読んだり、かくれんぼをしたり、いたずらをしたり、そんな毎日はとっても楽しかった。
でも、学は次第に変わっていった。
きっと父親の影響なんだと思う。学のお母さんはとっても優しい人だった。そんな人が学をあんな風にするわけがない。
でも、学のお母さんは急に姿を消してしまった。
学はその事にショックを受けている様子はなかったみたいだけれど、私はショックだった。
今思えば、学のお母さんが姿を消してから、学は変わってしまったのだと思う。
笑わなくなって、何もかも完璧を求めるようになった。そして、私はそんな彼を恐れた。
いつからか話さなくなって、会わなくなった。そんな関係のまま、今に至る。
私のお父さんは桜井家の使用人というお仕事についていた。お母さんはそこの料理人を務めていた。
そのおかげで私と学は仲が良かったのだけれど、私のお父さんと学の父親、
とは言っても私のお父さんは何もしていない。ただ、智蔵の使用人への指示や扱い、そして学への態度が原因だ。
私のお父さんは何度も智蔵へ態度の改善を求めたが、一向に耳を貸さなかった。何かあれば「クビにするぞ」という一言。それだけで何もできなかったのだとお父さんは言っていた。
そんなお父さんは、学のことをだいぶ気にかけていたらしい。そして、ある日こんな会話をしたそうだ。
「学君、君には何かしたいことはないのかい?」
「何か?したいこと?」
「うん、そうだよ。何かないのかい?」
「…どうせやりたいことがあってもできないんだ。できないことならねだらないよ」
「違う違う、そうじゃない。もし、できるならの話だよ」
「もし、か…。もしできるなら…普通の生活がしてみたい。あと…」
「あと?」
「母さんに…会いたい」
そこからのお父さんの行動は早かった。秘密裏に動いて計画をし、智蔵のスケジュールの隙を狙って実行に移そうとしていた。もちろんクビを覚悟で、だ。
東京都未来人材育成高等学校。そこなら学の願いも叶うかもしれない。お父さんはそう思って、必死に計画を進めていたそうだ。
でも、その計画は実行に移せなかった。否、実行に移されていた。それも、学によってだ。
そんな不足の事態にお父さんは焦ったのだろう。私にこんなお願いをしてきた。
「すまない、優。彼の…学君の手助けをしてくれないかい?」
「手助け?」
「ああ。彼と同じ学校に通って、彼の手伝いをしてほしい」
何で私が?そう思った。私がやることじゃないでしょ?そう思った。
でも、気がついたらそのお願いを引き受けていた。
多分その理由は、それがお父さんが私にした初めてのお願いだったからだ。
多分、そうだ。そう、きっとそうなんだ…。
何度も何度もそう言い聞かせる。それでも、その理由は何かが違うと、心がそう叫んでいた。
私だってわかっている。その本当の理由なんて、とっくのとうにわかっているんだ。
私、佐々木優は、本当に…本当にどうしようもなく、桜井学が…
大好きなんだ。
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あとがき
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
あと、無事テストが終わりました。これからはちゃんと作っていくので、よろしくお願いします。
さてさて、今回の話では学の過去に触れていきました。
今後この話を盛り上げてくれるだろう新キャラの登場もあり、一年生編のクライマックスへと着実に歩みを進めております。
二年生、そして三年生を迎えた時に、学は何を感じてどう変わるのか、そこら辺を想像しながら読んで頂ければ幸いです。
では、これからもこの作品のご愛読、よろしくお願いします!
かさた
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