束の間の休暇 その2

 2時間後。


 俺達は映画を観終わり、ショッピングモールの中にあるカラオケ店へ向かっていた。


「いやぁ〜。結構面白かったねぇ」


 んぅ〜っと上に伸びながら、新名が映画の感想をこぼした。

 それに「そうだね」と村田が続き、南や愛花が感想を言い合っている。どうやらかなり好印象だったらしい。

 まぁ、確かに面白かったが、主演の奴の演技が特に嘘くさかったな…。他の奴らもだけど。

 とりあえず話は合わせておくか。




 しばらく雑談をしながら歩みを進める。5分ほどしたところで、目的地へと到着したようだ。



「ここがカラオケ屋か…」


 俺が呟いた言葉を耳で拾ったのか、咲が俺に声をかけてくる。


「ん?桜井くんはカラオケ、来たことないの?」


「ないな。こっちに来てからも、こっちに来る前もない」


「え⁉︎うっそぉ〜」


 信じられない。と、驚いて目を丸くする女子達。そんな彼女達とは違い、村田は彼らしい反応を見せる。


「それなら、やっぱり映画じゃない方が…良かったのかな…?」


 遠慮がちに聞いてくる村田。

 心配をかけてしまったのか?まぁ俺としては映画の方が良かったからな。別に問題はないのだが。


「いや、特に問題はない。それより、早く他の奴らと合流しなくていいのか?」


「あ、確かに!ちょっと連絡とってみるね」


 そう言って連絡を取る咲。俺達は咲の先導のもと、他のEクラスのメンツが揃うフードコートへと向かった。




「…なんで桜井がいんだよ」


 カラオケ組と合流後、映画組に俺がいるのを見つけた赤城が敵意を剥き出しにしていた。

 赤城に迫られた村田だったが、それに臆することはなく、さも当然といった形で答える。


「どういうことかな?赤城くん。桜井くんもクラスメイトなんだ。彼にだって参加する権利はあるはずだよ」


「はぁ?こいつは初めからいなかったじゃねぇかよ。なんで増えてんだって聞いてんだろうが」


「それは誰かさんが誘わなかったからでしょー」


 全てお見通し、と言わんばかりの新名の発言。赤城はそれにも反論をしようと口を開きかける。が、新名の隣にいた咲の表情を見るや否や、慌ててその口を塞いだ。


 はて?俺はなぜこんなにも嫌われているのだろうか。赤城だけではなく、他の男子からも敵意を含んだ目線を感じる。


 誰とも関わっていない俺に、彼らから嫌われる理由はないだろう。そう思っていたが、先程の赤城の態度を見て考えを改め直した。


 俺が関わってきた人間は僅かだが、そのほとんどの人間が女子である。

 それに加えてその誰もが美少女であり、それなりに仲が良い。嫉妬、だろうか。きっとそうであろう。

 あと考えられる点といえば、「大体の厄介ごとには俺が関わっている」という点か。教師の胸を触ったり矢島に目をつけられたりね!


 俺としては、矢島の方が嫌われていると思ってたんだけどな。俺は同等、いやそれ以上に嫌われているのかもしれない。




 ギスギスした雰囲気の中(主に俺と矢島・村田以外の男子)昼食を食べた。

 その間に女子にはかなり話しかけられたが、男子から話しかけられることはなかった。


 そうして昼食が終わり、解散。かと思われたのだが、どうやら男子は男子で男子会をやり、女子は女子会を行うらしい…。


 俺がこのあと地獄のような時間を過ごしたことは言うまでもないだろう。


 唯一の救いと言えば、村田陽がそばでずっと支えてくれていたことくらいである。





 ショッピングモール内のフードコートでその女子会は行われていた。全員が参加をしていないものの、過半数以上は参加をしている。


 既に女子会が始まってから10分が経過しているが、先程から話題にあがるのは、ある男子生徒のことばかりである。


「まさか、桜井くんが来るとはねぇ。意外だよ、来ないと思ってた」


萌奈もえなってば、さっきからそればっかりなんだけど〜」


 上原萌奈うえはらもえなの呟きに、野口桃のぐちももがツッコミを入れる。

 そこですかさず、その2人の会話に蒼井ミミが入ってきた。


「いやぁ〜、でもでもですねぇ〜桃ちゃんさん。私もそれに関しては、意外だなぁって思うわけなんですよ。さてさて、どうして桜井くんは〜来たんだろうねぇ〜?」


 蒼井はニヤニヤしつつ、その問いの答えを南に求めていた。


 それによって、ほぼ全員の目線が彼女に向いている。

 南はそれに遅れて気がつき、興味なさそうに閉じていた口を慌てて動かしていた。


「へぇ?いや、なに?べ、別に…私じゃないんだけど…」


 南の必死の否定も虚しく、逆にその反応が周りの興味を引いてしまう。話題は次第に変わり、南と学の関係性になっていた。


「でもさぁ。ちょくちょく南と桜井くんって、目があってるよね」


 そう言うのは水島香織みずしまかおり。特に興味がなさそうに聞いている。

 周りの空気に合わせている感じだ。それに合わせて、「確かにー」や「それなー」といった声が重なる。


 あまり勘違いをされたくなかった南は、またもや必死に言い訳を考えた。


「いや…、それはその、なんて言うか…。それは、あいつがこっちを見てくるからで…」


「そ、それって‼︎…ほ、本当…なのかな?」


 そこで初めて言葉を発したのが高橋小豆たかはしあずきである。

 高橋としては、先程の南の発言は聞き捨てならなかったのだろう。そのためか、席を立ってテーブルに身を乗り出している。


「いや…それはそんな気がするってだけで、私の勘違いかも…しれないし」


 高橋の普段は見せない迫力に、なんとかそう返す南。それを聞いた高橋はホッと息を吐きながら席に座った。



 それからしばらくは咲を中心にガールズトークに花が咲く。

 南は女子の追及から逃れられたことに、一先ず安心していた。


 そして、自然と話題は試験のことになる。


「いやーそれにしても、なんで勝てたんだろうねー。私、絶対に勝てないと思っておりましたっ!」


 蒼井が本心を曝け出す。しかし、柊峰がいることに気がつき、言葉を付け足した。今回の試験は彼女が指揮をとっていたからである。


「ごめんごめん。別に柊さんが悪いわけじゃなくてさ。なんかあの時って、私たちすごくギスギスしてたじゃない?お互いに信用できない、みたいな」


「ええ。それはわかっているわ。それに、蒼井さんがそう思ってしまうのも仕方のないことよ。それがDクラスの狙いだったのだから」


「Dクラスって、なぁんか、やな感じだよねー」


 南はその会話を聞いて、改めて学の凄さに気がつく。

 そして、それを知っているのは自分だけなのだ、と。学にとって自分は特別な存在なのだ、と。そう思わずにはいられなかった。


 南がそんなことを考えていることなど知る由もない周りは、先程の話題のこともあり、柊にこんな質問をしていた。


「そういえば柊さん。柊さんって桜井くんに勉強教えてたんでしょ?どうだった?2人きりって、どんな感じだった?」


 ちなみに質問をしたのは清水新名だ。それが気になって仕方がなかったらしい。


「まぁ、どうだった?と言う質問に答えるなら、かなり好印象だったわ。どの課題にも真面目に取り組んでくれたし、そういう献身性はかなり好ましいものね」


 意外にも学のことを褒める柊に、誰もが驚いていたその時。もっと驚く事実が発覚する。


「…でも、2人きりってどうだった?という質問については、答えることができないわね。その場には桐崎さんもいたから」


 その柊の言葉は、さっき冷めたばかりの水を、再び沸騰させるには十分すぎた。

 またもやほぼ全員の目線が南に向く。


 今の話を聞いておらず考え事ばかりをしていた南が、そんなことに気がつく筈もなかった。



 その後。


 質問攻めにされ、慌てふためきながらもそれに答える南。そしてそんな南を優しくフォローする咲の姿が、そこにはあった。




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 おはようございます。こんにちは。こんばんは。どうも、かさたと申します。




 今回の話で、学のクラスでの立ち位置やどう思われているか、などがわかるんじゃないでしょうか。


 ちなみに、今回書けなかった男子会の話は、また次回に書くことにします。



 本来なら、全員を今回の話で登場させたいくらいなのですが、それは流石に無理がありました…。


 今後、ちょくちょく登場させていければな、と思っています。

(今回でやっとラブコメみたいな部分が書けた!と、内心すごくホッとしているかさたです…)





 ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。


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 これからもよろしくお願いします!


 

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