第7話犯罪に繋がる導火線
四月二十九日、今年もゴールデンウイークに突入したこの日。しかし新型コロナウイルスの影響は凄まじく、観光地ではかなりの打撃を受けることが予想されている。そんな中寛太郎は、リモートで【ビクトリア―ズ】と〈アズリエール〉と一緒に、今回のトゥェンティーイwinの結果について話していた。
【ということで、今回のトゥェンティーイwinの優勝は・・・・アズリエールです!!】
「うわああーーーー!!小学生に負けるなんて・・・・。」
【アズリエールに賞賛を送りたい・・・・けどやはり悔しい。】
〈みんな、人間らしいですね。〉
「アズリエール、それは皮肉?」
〈違いますよ、勝負の世界では最近「負けて悔しい!!」と大声で言わなくなりましたから、面白いなあと感じただけですよ。〉
「そうか、やっぱり君は好きだ。」
〈えっ、それって・・・僕に恋しました?〉
「違う違う!!ゲイじゃないんだから・・・・、友達としてだよ。小さい頃に、アズリエールのような友達が欲しかったなあ・・・。」
〈当時はいなかったのですか?〉
「一応親友がいるけど一人だけだし、最近アメリカから帰国して実家で暮らしているから、あまり会ってないな・・・。」
【ねえ、その友人は何をしているの?】
「ベンチャー企業で働いているよ。今年の三月初めに帰国してから、ずっと日本にいるって。そういえば、【ビクトリア―ズ】の友人の『ジェンイーラニー』は、まだ見つからないの?」
〈僕もそれが気になっていました、進展はありましたか?〉
【それが全然無くて、とうとう彼の両親が警察に通報したそうなんだよね。それで昨日、警察が家に来ていろいろ聞かれたよ。】
「どんなこと聞かれたの?」
【彼との交友関係とか、最後に彼と連絡した日のこととか、後最近借金したかどうか聞かれた。】
「借金?どうしてそんなこと聞いたの?」
【気になって警察に聞いてみたら、失踪する前日(四月二十三日)にあいつは両親に『友人の借金の保証人になり、その友人がとある事情で払えなくなったから、五十万下さい!』ってお願いしたらしいと言われた】
「そうか・・・ジェンイーラニーさんは友達多いの?」
【まあ家が金持ちだし、面白い奴だから寄ってくる人がいるのは確かだよ。確かに借金の保証人には好都合だね・・・。】
〈なるほど、もしかしたらその延長線上で何かトラブルに巻き込まれたということも・・。〉
「とにかく、まあ・・・ジェンイーラニーさんが無事に帰ってくることを祈りましょう。」
【そうだな。】
〈そうですね。〉
そしてリモートを停めた。それから三時間後に、寛太郎は池上とリモートで話した。
「あれから特に目に見える変化が無いけど、大丈夫かな・・・?」
〈それならあったじゃないですか、ジェンイーラニーの件が。〉
「あれは友人の保証人になった延長線上のトラブルじゃないの?」
〈あれはただ、話しに相槌を合わせただけです。僕は彼がいい起爆剤になると、ほぼ確信しています。〉
「いい起爆剤・・・どういうこと?」
〈キャラ駒の声優の個人情報を流出させたことで、熱狂的なファンがストーカー行為をするように誘発させることができました。後はそのファンが警察に捕まるか何かしらで、世間に晒されるのを待つだけです。〉
急に池上の声が暗くなり、邪悪さを感じさせるようになった。
「ちょっと待って・・・その熱狂的ファンって、ジェンイーラニーさんの事?」
〈もちろんです。〉
「どうしてそう言えるの?」
〈まず彼の失踪した日は、あなたが個人情報を晒す動画を投稿した日の二日後。つまりあなたの動画を見たジェンイーラニーは、好きな声優に会いたくなって個人情報を元に住んでいる場所を特定、更にそこへ行く交通費と声優が住んでいる場所の最寄りの宿泊施設に泊まるためのお金を得るために、嘘の理由をでっち上げ両親から五十万を手に入れたということです。〉
「ちょっと待って、今は非常事態宣言も出ているんだよ。そんな時期に・・・。」
〈欲に狂った人間にそんなものは理由になりません、彼なら十中八九、いや確実にやってくれますよ。それまで待ちましょう。〉
まるで未来を見たかのように言う池上に、寛太郎は何も言えなかった。
そして五月一日、大逆転オセロシアムの新シーズンが始まった。新しいスキルを持った超駒に、チャンピオンズカップの開幕と、新イベントでとにかく盛り上がりを見せていた。しかし寛太郎はそれどころではなかった・・・・、なんと池上の予測通りジェンイーラニーが、ストーカー行為をしたとして警察に捕まったことが、朝のニュースで報じられていたのだ。
「昨日午後九時四十分頃、東京都鶯谷在住の久野由宇崎に対しストーカー行為をしたとして、東京都秋葉原在住のイラストレーター・関田有作が現行犯逮捕されました。関田氏は先月二十四日から行方が分からなくなっており、その前日両親に「借金の保証人になった、親友のために五十万をくれないか?」とお願いし、両親から現金五十万を自身の口座に振り込んでもらったことが明らかになっています。被害者の久野氏によると「前から通勤中に誰かの視線を感じることがあり、二日前の午後六時頃には自分のファンですと声を掛けられた。会話の中にプライベートの事があったので、怖さを感じた。」と供述しております。警察の取り調べによると関田氏は「YouTubeに個人情報を晒している動画があり、そこで彼女の住所を知った。」と供述しています。ただその動画はYouTube上からすでに削除されており、誰が投稿したかについては分かっていません。警察では名誉棄損罪として、捜査を進める予定です。」
ニュースを見た寛太郎はすぐに、リモートをつけ【ビクトリア―ズ】と〈アズリエール〉を呼び出した。
「ねえねえ、朝のニュース見た?」
【何、それ?】
〈私は見ました、ジェンイーラニーもとい関田さんが警察に捕まったようですね。〉
【嘘だろ!?デマじゃないのか?】
「本当です、ニュースを見てください。」
ビクトリア―ズは自分のスマホからネットニュースを見た、そしてその記事をみて愕然とした。
【嘘だろ・・・何やってんだよ、こんな時期に・・・。】
「ラニーの魂に会いに行くという事は、被害者の久野さんに会いに行くということだったのか・・・。」
〈そのようですね。それにしても、ストーカーしに行くなんて、そんなに久野さんに入れ込んでいたんですか?〉
【いや、あいつの場合は声だ。あいつは少女やお姉さんの声が好きだから、それだけを抜き取って自前のテープを作ったり、そういうキャラクターの声優の名前を覚えたりしているんだ。】
「うわあ・・・引くほど気合入っているなあ・・・。」
【関田・・・お前、欲望が抑えられなかったのか・・・。】
〈後悔しても仕方ありません、グループ仲間とはいえど今回は関田さんの責任ですから。〉
【ごめん、一人にさせて・・・。】
「分かった、じゃあね。」
〈また、連絡お願いします。〉
その後、【ビクトリア―ズ】とは疎遠になり、「オセロシアム同好戦士」は自然消滅した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます