第41話 お爺のお仕事・死

 ……早足で王城へ向かう痩せぎすの男……


 拍車付きブーツが歩き難い……

 やはり、底上げブーツなのだろう……

 刺繍入りの派手なコートをなびせる……

 服装が派手過ぎて、すれ違う人、皆が振り返る。

 

 こんな風体余りいない。


 案の定、マクシミリアーノだ。

 ブーツの所為で急ぎたくても、急げ無い様だ。

 どれだけ底上げしているのか?

 王城に何の用かは知らないが、えらく焦っている様だ。


 こんな距離を徒歩で歩いた事が無いのか、「ぜぇぜぇ」大きく呼吸しながら、蜘蛛の様に細く長い手足をバタバタさせて、王城に入っていく。

 施した化粧が汗で落ちてきている。

 化粧の下から、ガリガリの素顔が漏れている。


『居るはずだ……俺を唆したアイツ!黒豹の様な野趣溢れる美形……』マクシミリアーノは唾を飲み込む。

 それは慣れない運動で、息がアガッているだけでは無い。


 そこには、劣情が在った。


 顔に書いてある……その黒豹を想い、唾を飲み込んだのだ。

 この碁に及んで、この痩せぎすは、黒豹を想い、下衆な事を考えていた。


 階段を一段飛ばしで歩き、二階の大広間へ向かう。

 黒光りのきめ細かい肌に指を這わせたい。

 あの均整の取れた美しい肉体を。


 この状況の打開策を黒豹が持っているのか?

 或いは、お構いなしに男色に囚われているのか?


 何れにせよ、愚かな行動だった。

 本来なら今直ぐ、部下の状況を把握して、作戦を練るべきだ。



『そりゃ〜駄目だわ……』痩せぎすを視界に入れ、鼻毛を引っこ抜く隻腕が歩いていた。


 クライスは王城の橋からヤツを捉えた。

 まだかなり遠方。


『ヨシヨシ』クライスはほくそ笑む。


 痩せぎすで派手な男の背中。

 王城を道行く人が彼を見て振り返る。

 憧れを、

 羨望を、

 嫉妬を、

 マクシミリアーノは感じている。


 しかし人々は、そんなモノの為に振り返っている訳ではない。


 滑稽で、

 陳腐で、

 憐憫で、

 彼を見てそんな感情しか出て来ずに、思わず振り返っているだけだ。


 ……骸骨の様な身体を一生懸命着飾って、マリオネットの様にギクシャク歩いている。


 手を庇にして、陽光を遮る。

 そしてマクシミリアーノを観る。


 自己の俯瞰が出来ていない。

 他者の気持に向き合えない。

 それは、

 圧倒的な自己肯定感。

 故に、問題は全て他者。

 自身は全く以て正しいから。


 良く言えば、

 愛され、庇護されて来たのだろう。

 悪く言えば、

 愛という名の『金』にモノを言わせて、好き放題させて来たのだろう。


 両親が悪いのか?

 本人が悪いのか?

 知る由もない。


 マクシミリアーノは、恐らく大広間に向かっているのだろう。

 キャスケットを目深に被り、クライスは徐々に距離を詰める。

 遮蔽物(人)が多くて助かる。


 マクシミリアーノの歩行が止まる。

 ヤツの目の前に、長身のほぼ半裸の男が椅子に座っていた……マクシミリアーノを一瞥すると、半裸の男はゆらりと立ち上がった。


『?!』クライスの眉がピクリと上がる。


 黒光りする肌は、黒檀の様……

 袖の無い上着から、細いが筋肉質の上腕が伸びている。

 白色の上着と、黒色の腕のコントラストが素晴らしい。

 おまけに、身長は180センチの長身……ヤーンと比べれば小さいが、手足が長かった。

 リーチは185センチは有るだろう。

 足も、マクシミリアーノと同じ位の股下だ。

 そしてコイツは上げ底じゃない。

 簡素な革靴を履いている。

 クライスが距離を詰めるに従い、半裸の男の細部が明らかになる。

 顔は目鼻立ちのしっかりした、野性的な美男子。

 太い眉としっかりした鼻梁、その奥の大きな二重のブラウンの瞳。

 細いが筋肉質の身体、マクシミリアーノの様な痩せぎすでは無い。

 俊敏に動き、相手を制圧するに特化した筋肉。

 つまり、格闘を学んだ事の有る身体だと、クライスは一目観て理解した。


 そしてクライスは、この男の体格の立派さだけで無く……内面の不遜さを感じる。


 全く以て、マクシミリアーノを尊重していない。

 否、馬鹿にしていると言って良い。

 大きな口の片方を上げて、皮肉な笑いを顔面に貼り付けて骸骨を視ていた。


『傲慢……手練……』クライスは杖に身体を預けて、案内板を見る体で、二人を観察する。


 化粧の剥がれたマクシミリアーノが、半裸の男の腕を取ろうと手を伸ばす。

 ……のを半裸の男は半身になってスラリと躱す。アルカイックな笑みを絶やさない。


 思うどおりにいかないマクシミリアーノは、少し嫌な顔を見せるが、男の笑顔を見て、またいやらしい笑みを浮かべて何やら話している。


『この碁に及んで、慌てている人間のヤル事ではないな……』クライス呆れる。仲間の事を放っておいて、男色に御執心とは……


 マクシミリアーノの言葉に半裸の男は、首を横に振る。


 マクシミリアーノの肉欲と懇願が入り混じった顔、恐ろしく歪んだ笑み。

 骨ばった両手で男を掴む。


 半裸の男は未だ余裕の表情……如何様にでも出来るからだ……この様な貧弱な身体……その自負が、そのアルカイックな笑みの理由。


 心から笑っていない。

 心から嘲笑っているのだ。


 クライスは半裸の男の口を読む。


「その様な失態、私が尻拭いをする必要は無いでしょう、貴方も立派な紳士」そう言いつつ、マクシミリアーノの頬を撫でる。

 いつの間にか片方の手は、マクシミリアーノのコートの奥、股間に消えている……一瞬だ……一瞬、マクシミリアーノは腑抜けた顔に変わる。

 その骸骨を無視して、半裸の男は続ける。

「長男坊は、戦争に行かれましたね……激戦です、戦死の可能性、戦傷の可能性、ならば次男坊の貴方が、シェーファー家の跡継ぎです」

 半裸の男はマクシミリアーノに説き伏せる。

 コートの中の手は何をしているのか……マクシミリアーノの口が開いたまま……気にも掛けず、黒豹は続ける。

「そう成らなくとも、現時点でブティックを切り盛りする事が出来るのは貴方だけ……お父様も若くは無いのです、すぐにでも隠居生活したいと仰っていたのでしょう?」男の視てきた様な発言。

 股間の手はもう骸骨の肩に置かれている。

 背を向けたマクシミリアーノの言葉は、クライスからは観えない。

 只、この黒豹の美青年の話に同意している事は、貧相な顎がカタカタ上下した事で判った。

 しかし、股間の快楽に御執心で、内容の半分も理解出来ていないだろう。


『ふ〜む……さて……』クライスは、杖で身体を支えて腰をトントン。

 そして生欠伸。


 この事件、

 実行犯はマクシミリアーノ。

 教唆したのは半裸の男。

 そんな事を考えていると

 半裸の男に動きが……


 マクシミリアーノの肩を撫でていた手を外して、眼の前で人差し指を立てて話している。その手と骸骨が邪魔で、読唇が難しい。


「……トスカの……貴重な貴方の……」微かに、そう読めた……そう……我が国の貿易の要石……それをこの黒豹は……発した……何故??


 角度を変えようとクライスは立ち位置を変えようかとも考えたが、直後、半裸の男は骸骨の両肩を優しく掴み、労う様に擦る。

 それだけで骸骨の背筋が「ピクリ」と跳ねた。

 黒豹はそれで満足したかの様に、踵を返して、マクシミリアーノから離れて行った。

 長身のくせに、直ぐに人混みに紛れ、見えなくなる。


 広間にはマクシミリアーノだけが取り残された。


 ポツンと立ち竦む骸骨。

 親に叱られた様に項垂れている。


 広間を歩く大勢の人並みに好奇の目で視られ……そして直後に忘れられる……そんな程度。


 通行人の邪魔に成っても気が付かない。

 広間の真ん中で案山子の如く立ち、考えあぐねている。

『どこで間違えたのか……』

『彼に見捨てられたのか……』

『未来の選択が考えられない……』

『親に泣きついて誤魔化せないか……』


 自身で生きてこなかったこの骸骨は、解決方法を他者に求める……今もそうだ……半裸の男に性欲と解決の両方を期待した。


 そんな都合の良い話など無い。

 案の定、顎骨は捨て置かれた。

 恐らく、半裸の男は目的を達したのだ。

 もう、骸骨は必要無い。


 コイツが真に骸骨に成ろうとも、知った事では無いのだ。


『商品価値が無くなったな……』クライスは自身の内面で、嵐が吹いているだろうマクシミリアーノに接近する。


 マクシミリアーノが動いた。

 ヨロヨロとトイレの方に歩いていく。


『あらら……』これからのプレッシャーに耐えきれず反吐が下痢か?


 男子便所に転げる様に歩いていく。

 トイレならば、防犯用の希少金属も設置されていない。都合が良かった。


 マクシミリアーノの後を、クライスも歩く。


 何人かの通行人を挟んで、マクシミリアーノの数秒後に便所に入る。


 小便器に2名

 一番奥の大便器の扉が閉まる、ヤツのコートの裾が見える。早速、吐瀉の音が聞こえる。

 吐くのに一生懸命で、碌にドアが閉まっていない……半開き。

 小便器の2名はその音にうんざりしたのか、早々に用を済ませて手洗いして出ていった。

 有り難い。

 掃除用具を入れた小部屋を開ける。

 清掃確認の紙が貼ってある。

 次回の清掃まで3時間の猶予。

 仕事には十分。

 『出来れば時間は書かぬ方が良い』とクライスは思う。これでは作業時間が逆算できる。


 便所にはマクシミリアーノとクライスの二人きり、クライスはマクシミリアーノの隣の大便器部屋に入り、聞き耳を立てる。

 ドアは閉めない。

 ポケットから細い紐を取り出す。輪っかが2つ作られた紐。手に持つ。

 右耳から相変わらず「ゲーゲー」とえづきが聴こえてくる。


 音の位置から、床に膝を付けて、便器を抱かえる様にして吐いているのだ。

 便器に顔を突っ込んでいるのか、えずきが反響している。

 もう便器も、床の汚さも、考えられないのだ……

 馬車から出た際にはハンカチでブーツを拭いていたのに、今や、床に直に膝を突いて、便器を抱きしめている。


 固形物が落ちる音が無い、胃液しか出ていない様だ。

 もうじきコイツは諦める。

 多分、吐くことに飽いて、ブティックに戻り、残党の二名に自分の護衛をさせるつもり……そんな程度。

 ブティックには、ドレスコードの確認も兼ねた用心棒も居る。籠城するにはそちらが良い。


 半裸の男に見捨てられた……或いは、この状況を乗り越えれば、また慰めてやろうと半裸の男にご褒美の約束でもされたのか?


 ……嗚咽が止まる。

 クライスは開きっぱなしのドアを出て、ドアを閉める。

 そしてマクシミリアーノのドアの前に立つ。

 パンツの裾を捲り、クライスの脛が露出する。

 薄く開いたドアの隙間からマクシミリアーノの尻が見える。


 尾てい骨が浮き出た尻が持ち上がる。

 手首程の足首がふらつく。

 上半身はまだくの字。


 クライスは音も立てずにマクシミリアーノの背後に立つ。


 気が付かないマクシミリアーノは身体を起こ……そ……う……

「ガスッ!!!」クライスの尻がマクシミリアーノの後頭部に載っていた。


「カチャリ」と微かな音、施錠。


 マクシミリアーノの顎は便器の縁を噛む。

 前歯の二三本を便器で叩き折りながら、口の奥へ便器の縁が進んで、奥歯の辺りで止まった。

 舌が便器の縁を舐る……自身のゲロの味がする。

「バッ!チュ バチッ!!!」両足首の力が抜ける。

 次いで猛烈な熱さ!!!足首が燃える。

「ゴゴゴッガガガッ!!!」叫ばないと痛みに耐えれない……しかし、殆ど声は出ていない。

 そりゃそうだ、ほぼ口内は便器で塞がれている。

 両手を後頭部の異物に……右手を……伸ば……したい……後頭部に更に重量……右手の保持が無くなった為に、更に顎に便器が食い込む。

 急いで右手も参加して床を押す……両腕に力を込める……腕立て伏せの要領……この後頭部の異物を持ち上げる……その女性の様な細い腕で??

 いや、この様な発言は、女性に失礼かも知れない。

 マクシミリアーノが満身の力を込めて……腕を伸ばそうとするのが……クライスの尻に伝わる。

 クライスは足でマクシミリアーノの肘を蹴り、片手に持った紐の輪っかをマクシミリアーノの手首に掛ける、そして引く。

 輪っかが小さくなり、骸骨の手首に食い込む。

 手首の痛みから逃れようともじもじしている間に、もう片方の手首にも輪っかが掛けられ、先ほどと同様に引き絞られた。

 もう手錠の如く。

 引いた紐はマクシミリアーノのズボンの尻側ベルトに通される。

 紐には数個のコブが作ってあり、クライスが引き絞る毎に、コブがベルトを越え、越えたコブは緩み止となりマクシミリアーノは糸が絡まったマリオネットの如く、縛り上げられてしまった。

 結果、両手の支持を喪った為、口は更に便器に押し付けられる事になる。

 汚いなどと言っていられない。

 自分の体重と、何か判らない後頭部の重さを、口と両膝で三点支持する事になる。

 汚い便器でも噛まないと……これ以上顎の奥まで便器が届いたら、後頭部の重さで顎がへし折れそう。

 口内から溢れる唾液と上からの重さで、便器に更に顎が喰い込んでいく。

「ジュルジュル……」

 せめて唾液を飲み込んで……少しでも……滑りを悪くして……顎に食い込む便器の進行を食い止め様と……そんな事、焼け石に水だ……


 マクシミリアーノは何か起きているか、漸く理解し始めた。


 すると、天上界から、後頭部に染み渡るテノールのお告げが……静かに……

「舌・裂傷、中切歯・破折、アキレス腱・切断」否……只の精緻な診断結果が密やかに伝えられる。

「そなたは今、自分と私の体重をほぼ、その顎で支えている、今は背筋で抵抗しているだろうが、その内出来なくなる、さすれば二人分の重さが載った顎は、恐らく外れるか、折れる……」

 やる気のない店の閉店告知の様な……抑揚の無い……感情を置き忘れて来た様な……そんな言葉。

 クライスの椅子の背中が「ビクッ」と跳ねる。

 椅子の未来は芳しくない。

 必死に自分の背筋に注力する。

 膝の痛み等どうでも良い。


 ……重い……この男……100KG位……有るんじゃないか?


 痩身で隻腕の老人が、そんな事有る訳無い。


 尻が載った後頭部が痺れる……

 顎は今も既に限界まで開いて、万力でこめかみを絞られている様な鈍痛に、頭蓋が割れそう。


 背筋が痙攣しだした。

 まだ30秒も経過していない。


 服のシルエットが崩れるから……

 ウエストのくびれも欲しかったから……

 細いパンツの為に、腿も細い方が良かったから……

 そんな筋肉は全て、付けてこなかった。

 見栄えの為に、付けてこなかった。

 今更、必要とは思わなかった。


 使用人に顎で命令し、自分はティータイムに洒落込む。

 仕事なんてそんなモノ。


 そして、

 美しい嫁を娶るのだ。

 商工会の会頭の地位も欲しい。

 当たり前だが妾の一人位囲いたい。

 社会的地位の獲得と満ち足りた私生活。

 そういう順風満帆な人生が待っているのだ。


 ……そんな人生が……今も目の前に……

 ……そのなけなしの筋肉で……よくぞ持ちこたえ……


 ……。。。……


「ゴツッ!!」マクシミリアーノの頭が少し下がる。

 唇は便器に拡げられて、まるで裂けている様、便器が喉仏に当たるのでは?


「……なんと……早いな……早すぎる……もう少しは耐えなされ……」辟易したクライスの言葉。

「痛みから逃れる為の夢想……長くは保たぬ……」クライスは椅子の脳内を評する。


 顎が外れた様子。


 椅子の口から涎はダダ漏れ、便器を伝って床まで伸びている。

 返事がない。

 まさか、もう気絶しているのか?それは困る。

「……ズ……グエッ……」最早、声帯を通して空気が通過しただけだが……どうやら意識は有るようだ。

「そなたは何をした?」

 マクシミリアーノの眼球が目まぐるしく動く。

『聴こえているならヨシ』クライスは続け、時計を見る……外に人の気配無し、残り2分程度。

 クライスはマクシミリアーノの耳元で囁く。

「そなたが今までやって来た事より、今のそなたの被害は少なかろう……僥倖だな……」

 椅子は身体を硬直……恐ろしい集中力でクライスの言葉を聴いている。

「お前は……どれだけの人々の未来を奪った……」

 出来の悪い椅子だ……ガタガタと座りが悪い。

「いや、これからどれだけの人命を奪うのだ……」クライスはハッキリ付け足した……これから奪う?……本人はこんな状態なのに?……言葉の意味が判らない?……


 椅子はクライスの言葉を理解していない……大半は……『そうだろう……この男はその理解も無いままに……色に騙されて……黒豹に……』クライスの意識が黒く染まる……


「お前一人の命で賄えぬ……」出来の悪い椅子だ……「ウググ……」と軋むしかない……


「……コレで終わりでは無いぞ……」クライスの最後の言葉。


『こんなものか……しくじった……かも知れない……』クライスは血に染まったナイフを鞘に収め、振りかぶる。


 後頭部に衝撃……意識を失う中……マクシミリアーノは椅子の役目を終えた。

 そしてマクシミリアーノの気道が確保されている事を確認する。


 そこからのクライスは手際は早かった。

 パンツのポケットから細い紐を取り出す。

 マクシミリアーノの肩口と太腿に廻し、ギリギリと縛り上げ……たが……手を診て、何故か右手の結束を解いた。

 残りの三本は直ぐに鬱血し始める。

 そして椅子のズボンを降ろす。

 ガリガリの尻が露出する。

 肛門に小さな錠剤?……人差し指で押し込んだ。

 そしてマクシミリアーノを踏み台にして、隣の大便器部屋に戻り……衣服に血が飛んでいないかを確かめる……一応、鏡を使って、背中の状況も確認する。

 革靴に血が付いているのを発見して、チャコールグレーのハンカチで拭う。

 ついでに、尻に触った人差し指も拭う。

 パンツの裾を元に戻す。

 何食わぬ顔で手洗いで手を洗い、手を振り振り、大広間へと戻る。


 10分足らずの仕事が完了した。


 仕事の前の黒豹の話を再度整理する……

『トスカ……か……』


 それはある結論に帰結する……


『……骸骨……お前……売ったな……』


 クライスの意識を怒りが埋める。

 顔は無表情。


 椅子を拷問中に気が付いた……トスカ……強襲される……或いは既に、された……この骸骨の情報漏えいによって……


 現役から離れ、思考の回転が遅い事を恥じる。

 もう黒豹は居ない……マクシミリアーノを置いて、黒豹を尾行するべきだったかも知れない。

 完全に時期を逸した。


 もう仕方ない……

 あぁ……しかし、1つの期待……まぁ……


 万が一……万が一……ワシの弟子なら……そう……広間を見る……


 見知った美顔と、両眼を布で隠した二人の青年が歩いている。


 二人はクライスを見つけた様だ。


 真っ直ぐに広間を横切り、隻腕に向かってくる剣匠二人……




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