第13話 暗殺隊『烏』

 神妙な顔付きで町長が言う。

「よろしくお願いいたします」そして羊皮紙を広げる。

「食料庫、地下道、高台、その他重要拠点に印を付けました」上下水道の施設長が言う。

「港内の船舶から、魔法付与の希少金属は外しています、これで只の風力船です」港管理長が付け加える。

「ありがとうございます」大将が3人を見て感謝する。

「皆さんはここから我等の指示があるまで動かないで下さい、護衛を付けておきます、安心してください」大将は言うと、カシムともう3人を呼び、建物周辺の見張りを指示した。

「先発隊の到着は、今から早くて30分程度、遅ければ1時間らしい、今から各自地図を頭に叩き込め、そして、10名を5エリア、1エリア2名を配置する……二人一組で動け」大将は名前を呼ぶ。


 ①ヤーン・ヴィンス班 ◆第1エリア(正門周辺)

 ②レオン・オズ班 ◆第2エリア(メイン通り)

 ③ロイズ・ライ班 ◆第3エリア(繁華街周辺)

 ④ケビン・ラース班 ◆第4エリア(官庁舎周辺)

 ⑤コナー・キーロイ班 ◆第5エリア(港周辺)

 ⑥カシム・アイン・フィリ・シュレーン班 ◆重鎮守護及び班欠員時の応援要員

 残りの剣匠6名+ローレン大将+幹部兵士2名が全戦力……計23名。班以外の6名の剣匠はエリア関係無く動く。

 幹部兵士が2名しか居ないのは、職業軍人の隊や市民兵と共に居るからだ、特に市民兵に殆どの幹部兵士が付いていた。

 

 俺達は地図を睨み自身の配置の地図を頭に叩き込む……

 トスカは三方を囲む城塞都市とは言い過ぎかも知れないが、高い城壁を持つ町だった……ガゼイラとの国境沿いの町という事も、ここまで城壁が堅牢になった理由でもある。

 籠城に適した町だった……大将曰く、兵站が円滑に行われるのであれば……

 暫し羊皮紙を囲みチーム毎に自身の担当エリアの重要ポイントや、隠れられる遮蔽物を探す。

 一通り皆が確認したのを大将が確認して、

「皆が確認した様だな……」大将の呟き。

「では、各自担当エリアに潜伏し、敵を全て抹殺せよ!今この地に市民は、この管理事務所のお三方しか居らん、故に我等以外の人間は全て敵だ……気を抜くな……もう一度言う!全てを抹殺せよ!」ローレン大将の命令。

 そして各コンビに無線通信用の魔法石が渡される。

 俺達の分はヴィンスが受けとる。


「捨ッ!!!」大将が低く叫ぶ。

「応ッ!!!」20名の剣匠は応じる。


「……行こう……」ヴィンスが俺に手招きする。


 俺達は早々に担当エリアに向かう、他のエリア担当も同じく散って行く、現場を観たい、地形効果を得る為に自身の担当を隅々まで確認したい。


 俺とヴィンスも正門に向かい歩き始めると……


 先程まで指示をだしていたローレン大将が、自身の至るところの関節を回してを回し準備体操……

 そして小さくジャンプ……

 齢60をとうに過ぎた人間とは思えない軽い動き


『これは……大将自ら戦闘するつもりだ……』俺は内心驚く、指示だけじゃ無いらしい、戦闘に参加するのだ、この人は……


 体操が終わった大将が町外の職業軍人隊と魔石で無線連絡をしている……やんわりと町の外側でも待機を促している……


 俺とヴィンスは小走りに、正門へ向かう。

 俺達が一番遠方だからだ。


 15分程度で正門付近まで到着する、敵到着まで最短で残り15分既に遠方から監視している可能性もあり、俺達は脇道に入り、建物の影に隠れながら移動する。


 正門を挟んで両脇にある建物のそれぞれに俺達は別れる。


 正門を正面に見て、右側の建物に俺、左側にヴィンス。


 直ぐには殺らない……先発隊を全員、町に入れる。



 ヴィンスが魔法石を聴いている……魔法石を胸ポケットに納めて、俺に言う。

「口答での最後の話だ、これ以降は、手信号にて行う……」

「敵の先頭到着まで後10分程度、こちらの正門に向かっているらしい、俺達は敵兵、全てが町中に入ったのを確認して、閉門する、そして全員を抹殺する」ヴィンスが静かに言う。

「了解した……」俺は答える

「峡谷と同様、状況と目的は大将の言う通り、後は自立判断で行動せよ、目的は必達する、全員抹殺」ヴィンスはそう言うと、既に暗くなった町中の更に薄暗い脇道へ移動し、正門の太い柱の影に隠れた。


 三方を山に囲まれたここはもう日が落ちて、真っ暗……隠れるには好都合。


 ……さて、さて、どうするか……ヴィンスの位置も考えて、俺は辺りを見回す。

 後ろの民家に低い軒先を見る。

 近づき、窓枠を利用して身体を引き上げる……下窓枠に足先を置く、身体を軒先に上げる。

 軒先に腹這いに成り正門を望む。

 道からは俺を視認出来ないだろう。

 俺の視界の直線長に正門とその奥にヴィンスが隠れた柱を見る。


 そして俺は暫し家の軒先の上で目を閉じる。

 色々な音が鮮明に成っていく。


 風の音

 鳥の鳴き声

 獣の足音・鳴き声

 風が当たり発する扉や窓の音

 味方の足音はほぼ聴こえない、流石だ


 正門の向こう側で、足音が聴こえる……

『来た……』俺は思う。

 ボソボソと話し声も聴こえる……


 正門は閂が掛かっているぞ……敵はどうでる……

 

 破城槌など使おうモノなら、恐ろしい轟音で町中に響き渡る。

 隠密行動を諦めているならそれでも良いが、偵察も兼ねているなら避けたい行為だろう……


「ズズッ……」微かな音がする。


 音の方向は明らかに正門。


 閉じていた目を開ける……夜目になった目で正門を見れば、閂がズルズルと動き、外れ始めている。


 何らかの魔法だろうが、如何にして木製の閂を動かしているのかは判らない……但し隠密行動として非常に効果的だった。

 ほぼ音も無く閂が外れる……普通なら、重力に従い傾き地面に落ちて音を発しそうだが、閂は地面に対して水平を維持して止まっている……これは物理法則としておかしい……


 正門を開けて、薄暗い服を着た人間が数人入って左右を見回している。うち一人が正門の内側に回り込み、閂を支える……そして、ゆっくりと閂を地面に置いた。


 ……報告では50名程度の小隊……

 ぞろぞろと町中に侵入してくる……艶の無い黒い揃いの衣装と静かな所作……見て思う『あぁ、これは烏合の衆ではない、訓練された一団』……危機感。


 全員入るまで、じっくり待つ……


『10……15……20……30……32……???』


 途切れる……敵軍……待つ……一向に入ってこない……


 おかしい……50名程度の筈。

 人数が少ない。


 悪寒……嫌な予感……


 ヴィンスが手信号……


『現場を離れるな』と

『本部報告』の手信号


 ヴィンスは柱から後退り、敵に聴かれぬ様に後方へ下がる……通信用の魔法石で本隊に報告している筈だ。


 ……俺にも判る……

 挟撃をしようとしているのは、我等だけではない……相手もだ……おそらく……


 二手に別れている……

 今確認した小隊の人数が報告よりもかなり少ないのが、その理由。


 偵察ではない……攻撃だった……

 ならば、正規の戦闘員が来ている筈……


 相手が挟み撃ちを考えれば、もう1つの別動隊はどこに向かう。


 俺なら、海からだ……海から上陸し、港に入る……正門と港で挟み撃ち。


 その上、我が軍の外に居る職業軍人隊による挟撃は無駄になる。


 案の定、敵軍の最後の人間は、閂をがっちり掛けた。正門から逃げる気はない……その決意を感じる。

 又、我が軍の応援部隊も容易にトスカには入れない。

 現に、挟撃予定だった職業軍人達はメインの侵入経路を阻まれた。


 彼等50名は立て籠るのだ、トスカに。


 つまり、立て籠るに相応しい50名という事だろう、俺は気を引き締める。


 ……難敵だ……


 ヴィンスが脇道から俺に見える様に顔を出す……

『港に戻る』との手信号。


 俺の推察は正しかったらしい……

 やはり別動隊は海から上陸しているのだ。

 加勢に向かうのだ。


 もう自律して行動するタイミングだ。


 敵はどう動く?

 少ない時間で考える……


 敵は籠城……初めてのトスカ……

 建物・地形・道を知る必要がある……

 彼等は俺達の様に事前に羊皮紙の地図で学べないのだから……


 俺は、軒先から音もなく降りた。


『正門以外の出入口』そう思った……


 彼等は知りたい筈、自らの籠城場所に知らぬ出入口が有るなど有ってはならない……

 出来うるなら確実に封鎖しておきたい……そう思う筈。


 頭に中に羊皮紙を拡げる。


 一番近い出入口、 ③ロイズ・ライ班 ◆第3エリア(繁華街周辺)の付近、アーカイムに一番近い非常に小さな出入口、そして海岸にでる出入口


 これ以上正門に居ても意味がない。

 敵がここに来るのはこの戦闘が終わり、後続の部隊が入町してくる時だ。

 それまで彼等は正門を開ける事はない。


 俺は持ち場を離れながら、相手の行動を予測する。

 既に漆黒の脇道を静かに走る。


 第3班のエリアまでもう直ぐ。

 複数の足音が聞こえる。

 まだ戦闘には至っていない。


 走りながら剣を抜く…


 また始まる……悪夢の原因……あれ以来寝る事が怖くなった……


 それでも続けねば成らぬ。

 ユナとの約束を護る為。

 生きて帰る為。



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