第9話 おらぁ! ヨツンバインになるんだよ! あくしろよぉ!

 晴れやかな朝。登校してきた生徒たちが挨拶を交わし教室で授業の開始を待ち、先生が来ると着席する。

 そんないつもの日常に少し違った日が訪れた。


「今日は転校生を紹介します」


 先生がショートホームルームの時間でそう言うと黒髪に青い目をした男の子が入って来た。


井口いぐちじゅんです。よろしくおねがいします」


「今日から仲良くしてあげてね」と先生はあたさわりのない紹介を終え後ろの席に着かせると授業を開始した。


〈コレは授業の終わりと同時に転校生への質問祭りだな〉


 私はそう思った。


 まぁ陰キャの私には何の関わりのない話なので、どうでも良いのだが


 ノートと教科書を開き、今日も日常が始まる。



 私の日常…それはすなわち、日常生活をしながら怪人退治をする日々のことである。


 今日も今日とて、お兄ちゃんから連絡を受けて紺野さんと一緒に学校を抜け出し現場へと向かった。


 到着後。別段、特徴もない通りで怪人という異質な存在と出会うと いつものようにブルーマーネイビーが名乗りを上げ周囲の人々が歓喜の声を上げる。


 さて、肝心のお相手はというと、コンバインにロボットアームを取りつけたような姿をしパラボラアンテナのような形の銃を備え付け、そこからビームを放つという奇っ怪なモノであった。


 放ったビームが周囲の人に当たると四つんいになってしまい。上手く身動きを出来ない間に太ももに〝正〟の字を書かれたり首輪を着けられたり目隠しされたりギャグボールを咥えさせたりする。


 何処からどうみても本当にしょうもない。でも喰らいたくない。そう思っているとブルーマーネイビーは早くもヨツンバインになってしまった。


「なによコレ!!」


 ブルーマーネイビーは立ち上がろうとしても直ぐに四つんいに戻されてしまい困惑した様子で言った。


 そうこうしている間に怪人はロボットアームを伸ばし彼女の太ももに線を入れていった。


「ちょっ!? らくがきしないで!!」


 彼女の小さなお尻の下に〝正〟の字が書かれ見事にな光景の完成する。


 意味が解る私も私だが…自分の兄の趣味にドン引きである。


 その後もブルーマーネイビーはヨチヨチ歩きで抵抗を試みるも、その小さく可愛らしいお尻を揺らすばかりで何の成果も上げられないでいた。


 私も様子見ばかりしていてもらちが明かないのでコンバインの上に取りつけられたパラポナアンテナ型の銃から発せられるビームに注意をしながら距離を詰めて行き、最後に蹴りを入れて光線銃を破壊した。


 やった! そう思いながら着地し振り向くと新たに光線銃が機械内部から現れた。


〈おい…二丁目があるのかよ〉


 コレは流石に避けられずにビームを喰らうと四つんいにされてしまった。


 ああ…自分から人様にお尻を見せることになるなんて……


 おまけに〝正〟の字も入れられる。とんだ羞恥プレイであるがコレの意味が解る人と解らない人で分かれていることが周囲の反応で判る。


 お願いだから解らない人は一生 解らないでいて欲しい。



 その後、戦いはグダりにグダった。上手く動けない上に膝も痛くなっていき早く学校に戻らなくちゃいけないという焦りで敵に良いようにされていった。


 首輪を着けられ。猫耳を着けられ。ブルマに尻尾まで取り付けられた。


 ニャンだよコレ…


 ギャラリーも四つんい状態でも頑張ってスマホを操作し写真撮影を行っていた。


「かわいい…」


 むしろ悲しいです……ニャー…


 などと思っている場合ではない。ここはなんとかして怪人を倒さなくては!


 私は猫が飛び掛かるような姿勢を取り、イチかバチかで怪人へ突進し頭突きを喰らわせた。


〈よし! 今まで一番良いダメージを与えられた!〉


 だが、地面にす形になってしまったことで大きな隙を生んでしまった。


 怪人は私が立ち上がるより早く腕を取り押さえて後ろ手に拘束したのである。


〈あれ? コレもう上体 起こせなくない?〉


 案の定。ビームの効果で体は下に引っ張られるので動く手立てがほとんど無くなってしまった。


〈ヤバい…ヤバい! ヤバい! ヤバい!!〉


 こんなフザけた奴に人生最大の危機が訪れた。このまま敗北したらどうなるのだろうか?

 まず周囲から叩かれるだろう。栄光からの失墜とはそういうものだ。最悪、正体がバレる可能性もある。何せ私はいま身動きがろくにできないのだから。


 こんな時、頼れる相棒はと言うと…手枷も目隠しも猿轡さるぐつわもしっかりコンプリートしている有様である。


 詰んだ…


 そうして絶望する私にもギャグボールが口に運ばれてきた。


〈ああ…色んな羞恥プレイされてきたけど、まさか最後がこんな負け方だなんて……〉


 全ての努力が無に帰したと感じた時。鋭く尖った氷の塊が怪人を貫いた。


 何が起きたのかも解らないまま、身の拘束が解けていき、キルカの目の前に青いブルマを穿いた一人の女性が降り立った。


 彼女は打ち倒した怪人の上からブルマー戦士たちを見下ろし、こう言った。


「貴方たちがブェルマーの最終定理を解き明かす鍵ね」と…


 美しい青い瞳に見つめられながらキルカは思った。



〈まーた…ワケの解らない展開になってきたよ…〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る