第8話 ローション

 怪人。それは曇り空と雨が続く梅雨という季節と同じで平日も休日も関係なくやってくる存在。


 今日もニュースで怪人出現の報せを見ると古間ふるま キルカは赤いハチマキを頭に巻きつけ体育着ブルマー姿になると半透明のレインコートを身にまとい家を出ていった。


 その装いがより恥ずかしい事態に繋がることも知らずに…



 今回の事件現場はバス停であった。休日の雨の日であってもソコには一定数の人が居た。


「あの……帰りませんか? 女の人たちはみんな逃げちゃいましたよ…」


 バスを待つ一人の若手社員らしき男が同じスーツを着た中年男性に言った。


「何を言っている!! 例え休日であろうと雨が降ろうと、槍や銃弾が来ようとも、全身ローションまみれようとも会社に出社するのが社員の務めだ!!」


「いや、ローション付着させて出社はやべーだろ…」


 中年男性は怪人の手によって全身をベトベトにされていたが、それにも動じずにバスが来るのを待ちながら言った。


「まったく最近の若いもんは! 直ぐに泣き言ばかり…この程度のことで挫けていたら出世できんぞ」


「これで出社したら先にクビにされるわ」


「安心しろ雨が洗い落としてくれる…それに…例のヒーローもきっと直ぐに助けに来てくれる」


「そこまでよ怪人!」


 噂をすれば、なんとやら バス停近くにあった木製でボロい待合所の屋根の上に紺色のブルマーを穿いた銀髪の少女が現れるや否や男達は落胆した声で言った。


「なんだ…ネイビーの方か…」


 ブルマー戦士の人気はネイビーよりもレッドの方が高い。しかし、ブルーマーネイビーはそんなことを気にせずに怪人へと挑むために屋根から降りてきた言った。


「私が来たからには、もう人様に迷惑は掛けさせないわ!」


 ブルーマーネイビーはバケツの頭に人の体をした怪人を指さして、そう宣言していると相手に先手を取られる。


 怪人の腕はホースになっておりソコから飛び出した大量の粘り気のある半透明の液体をブルーマーネイビーは頭から被り体育着の下にあった肌色と薄水色のブラトップが薄っすらと透けて見えてしまった。


 いきなり醜態を見せることになったが彼女は恥ずかしさより先に怒りで震えた。


「このっ!!」


 反撃に出ようと踏み出すとヌメり気に足を取られ、その場で転んでしまった。


「あっちゃ~…」


 周囲の人も思わず目を逸らし、ブルーマーネイビー自身も みっともなく思っていた。

その時、彼女は現れた。


 特に名乗り上げるワケでもなく、ただ普通に水面みなもを足で踏み抜け

やってきた。


「おお!! レッドブルマーだ!!」


 期待がこもった歓喜の声が彼女を迎えると同時に怪人の攻撃を真正面から受けてしまった。


 レインコートを着ていても隙間から雪崩れ込んでくる液体に前身を濡らし、レインコートも体育着もその濡れた体にピッチリと肌に密着しスポーツブラのわずかな灰色を透かして見せた。


 太ももから緩やかに流れる落ちる液が妙になまめかしく、その場を目にした男性が生唾を飲む。


 それに対してレッドブルマーは動じた様子もなく指先でネバネバをいじり、クチョクチョと音を鳴らしながらローションは空気と混ざり白く酸化していく。


「ああん。いやらし」


 その言葉は、いつもの彼女らしくないものだった。


 レッドブルマーはまとわりつくヌメり気によって生まれる独特の摩擦を楽しんでいる様子で声を出す。


「はう……ひんやりとしてて気持ちいぃ…」


「キ…レッドブルマー?」


 あまりの違いにブルーマーネイビーは困惑しながら彼女に声を掛けたが反応は無かった。


「みんなぁ~、あんまり女の子をえっちな目で見ちゃダメなんだよ~…フフフ…」


 レッドブルマーは、まるで酔っているかのように火照った顔で男性達に言った。


「でも~、男の子だから仕方がないよね~」


「「「はい!!仕方がないです!!!」」」


 打ち合わせでもしたのかよ。っとツッコミを入れたくなるくらいに息の整った反応を男たちは返した。


 この異常にブルーマーネイビーはハチマキに取り付けられた通話機能を使い彼女の兄、古間ふるま 好希こうきに連絡を取った。


『はい、もしもし』


「どうなってるの? 何だかレッドブルマーの様子がおかしいのだけど」


『おかしいって?』


「その…なんていうか酔っているような…」


 そう連絡を受けると少し考えている間の沈黙が生まれ、何かに気づいたように古間ふるま 好希こうきは質問した。


『なぁ、キルカの奴。いつもより厚着してないか?』


「いいえ…でもレインコートは着てるわ」


『ああ…おそらくソレが原因だ』


 どう言うこと。と疑問を口にしようとした時、レッドブルマーの少し喜悦きえつの混じった声が聞こえた。


「ぁあ…ん…!」


 目を向ければ縛りつけられ いやらしい姿となった彼女が、その身に付着したローションに空気が混ざるように体をクネらせ白く粘らせていた。

 その上、怪人の腕から伸ばしたホースはただ縛りつけるだけでなく服の下から潜り込み胸の谷間から液体を吹き上げ、もう一方のホースもブルマーに潜り込み、いかがわしく液体を流し込んでいた。


 これには男たちも前傾姿勢になる以外にどうしようもなく。固唾を吞むしかなかった。


「いやぁあああああああ!!!!!!」


 そんな卑猥な展開に耐えられずブルーマーネイビーは声を上げた。


「いやらしい! いやらしい!!! こんなものはブルマーをいかがわしいものへと堕としこむ冒涜だわ!! お願いレッドブルマー! 正しいブルマーのあり方を思い出して!」


 レッドブルマーは震えた声で答えた。


「ぇぇ…ぶるマぁなんて…んんッツ!! えっちなものだよ…」


「あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁ!!! なんでこんなっ?!」


 自らの信じる神聖なるブルマーを汚されていくことに彼女は嘆く。


『仕方がない、今のキルカはオーバーヒート状態にあるんだ』


 ハチマキから骨伝導で聞こえてくる声にブルーマーネイビーはどういうことか聞いた。


『ブルマー姿で重ね着をすると排熱が正常に機能しなるんだ。そうするとオーバーヒートを起こしみだらになってしまうんだ。全く…キルカの奴、レインコートなんて熱のこもるものを着るからこうなるんだ』


 この説明にブルーマーネイビーは納得した。これだけの運動能力を引き出すブルマーであれば、その熱量も大きくなるのもうなずける。


 やはりブルマーはソレのみで完成されていて不要な物は要らないのだとブルーマーネイビーは思い知らされた。


 決しておかしな理論ではない。 断じてだ!!


「なら、レインコートさえ脱がしてしまえば元に戻るのね」


『脱がしても直ぐに冷却されるワケではないから少し時間が掛かるだろうが、おおむね、そうだ』


 そうと決まればまずは彼女に絡みついている怪人を倒し、その後レインコートを脱がさせる流れがブルーマーネイビーの頭の中で思い描かれる。


 ちなみギャラリーはブルーマーネイビーと古間ふるま 好希こうきとの会話は聞こえていない様子でレッドブルマーの姿に夢中になっていた。


 この状況の中で怪人へと攻撃を行うとレッドブルマーへの締めつけを緩めり、観客から覚めたリアクションが空気で伝わった。


 声にこそ出さなかったとは言え、正直、はっ倒したい気分であったがソコは我慢をし、ブルーマーネイビーはグジュグジュに濡れたレッドブルマーの事は一旦 置いておいて怪人へと立ち向かう。

 迎え撃つは両腕から伸びるホース。それに絡み取られると肢体を舐められたかのような感触に皮膚が震え、鳥のような美しい声が色を帯びて漏れ出てしまう。


「く…ぅ…ぁ……」


 だが、そこでひるんでいては勝てない。ブルーマーネイビーはまとわりつく いかがわしさに負けずに滑り落ちるように拘束から抜け出し、そこからホースを無理やり結んで、くだの中の流れを堰き止めた。


 放出が出来なくなると怪人の腕は膨れ上がり最後にローションを撒き散らしながら爆散した。


 見事に勝利を収めるとブルーマーネイビーはレッドブルマーにレインコートを脱ぐよう指示を出すが素直に言うことを聞かなかった。


「脱いだら雨で濡れちゃうよ」


「もうビチョビチョでしょ…」


「ちぇー…もうチョット、遊んでたかったな…応援してくれる みんなにもサービスしてあげたかったなぁ」


 そんなことを言いながら彼女は、びしょ濡れでいやらしくなった胸を寄せて見せつけた。


「いいから! もう行きましょう!」


 ブルーマーネイビーは苛立ちながら彼女を抱えて去っていった。



 その途中、高く飛び跳ねながら移動していたために彼女を川に落としてしまったが、それはまた別の話…



 次の日。自分のしたことを思い出し私は悶え苦しんだ。


「あああああああああああああああああああああああああ」


「何をしているんだ妹よ」


 家の廊下で転がりまわる私の姿を見てお兄ちゃんは言った。


「死にたい……もしくは記憶を消して…」


「奥森医院 行く?」


 精神・記憶に関する相談うけたまわります。


 ネタが古い……


「たく、だから厚着をするなって言ったのに」


「いや…だって雨なんだからカッパくらい着るでしょ普通…」


「紺野さんは着てなかったぞ」


「あの人は特殊だから…」


 唯一の救いは新聞ではブルーマーネイビーの活躍の記事が載せられレッドブルマーの痴態が報道されなかったことだろう。


 しかし、あの場に居合わせた人々の目には彼女のなまめかしい姿が鮮明に刻まれたことであろう。


 頑張れブルマー戦士! 負けるなキルカちゃん! 明日もエロいぞレッドブルマー!


 これからも彼女はくじけずに戦い続けるだろう。バカのマッチポンプがバレないために。


「えっちなのは……ノーセンキューだよ…」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る