接続詞「ゆうて」の意味


 〈「言う」「言って」「ゆうて」〉

 この語は明らかに関西方言的な語源が丸見えです。初めに言っておくと、「ゆうて」は共通語の「言って」と同じ「言う」の連用形で、促音便の共通語に対して「ゆうて」はウ音便なだけです。ほかの例としては「会った」が「うた」、「買った」が「うた」となる方式ですね。

 この語はおそらく、もともと関西方面の人が「そうゆうても○○(そうは言っても○○)」と言っていたのを次第に省略して「ゆうても」をしきりに使いだしたのでしょうか。それがさらに「ゆうて」に省略され、SNSやテレビなどで広まっていったのだろうと考えます。ちなみにアクセントの面で、関西方面の本来の「ゆうて」は●〇〇です(●を高いアクセント、〇を低いアクセントとする)が、こんにち私がよく聞く「ゆうて」は平板型アクセント、つまり高いアクセントがない発音です。もしいま関西の方でも平板型の「ゆうて」が使われているのであれば、もはやこの語は関西に逆輸入されたといえます。


 なお、最初の方に共通語の「言う」が関西の「ゆう」と同じであるとしましたが、実際は発音も同じです。表記されるとき、通常「言う」は平仮名で「いう」ですが、普段の砕けた話し言葉の発音はほぼ「ゆう、ゆー」です。それを書き言葉で書くとどうしても幼稚に見えてしまうのは「こんにち」と同じですが、発音に忠実に書けば「こんにちわ、ゆー」がより正確ということは確かです。

 ただ、いくら「言う」が「ゆー」だからと言って「言って」すら「ゆって」とするのは、自然ではなく、むしろ過剰修正です。なぜならば、「言う」が「ゆー」となるのは母音「い」と「う」が連続していて、舌をスライドすることで発音がなされることで自然と長母音「ū」が出現するためで、「言って」に母音は連続しません。だからこそ、「言う(iu)」が「ゆー(yū)」にはなるものの、「言って(itte)」が「ゆって(yutte)」には(本来)ならないのです。



 〈「ゆうて/ゆーて」の意味〉

 本題に入ります。現在、ほぼ全国区での若者言葉と化している「ゆうて」の意味を、いつもお世話になっているツイッター検索などを精査して分別してみました。とりあえず、以下の三つに分類されました。


1.「逆接」 意味:そうは言っても、そんなこと言ったところで、~だけど

例)財布落とした~。ゆうて中身入ってなかったんだけど。

2.「主体転換」 意味:あなたはそうなのだろうけど、私は

例)A:俺今日夜八時までバイトなんだわ。 B:うわメンド。ゆうて俺も七時まで。

3.「間投詞」 意味:まあ、

例)まあゆうて試験中だからあまりできないけど

 ゆうてあいつならワサビ寿司食べられんだろ

 明日ゆうて授業二コマしかないしカフェ行ける


 三つに分けられたといえ、まず3.は意味がほぼない間投詞的用法ですから、意味の中核は1.と2.にあるといえます。またこのどちらも意味としては「~だけど」という逆接が基本となっていますので、「ゆうて」は逆接であると覚えておけば間違いはないでしょう。その派生として2.があり、これは後に「自分は」という文言があることから判別ができます。また3.はもはや「ゆうて」が口癖となってしまったことによる用法でしょう。ちょうど、若者言葉「普通に」や間投詞フィラーとしての「ちょっと」と同じように、意味を失っています。

 じっくりと意味を考えてきましたが、実を言うと私は、あまりこの言葉は気にしなくてもいいのではないかと思っています。なぜかと言えば、「ゆうて」は接続詞の働きを持つと思われますが、この接続詞自体、文と文の関係を明確にする程度の働きなので、無視しても文章自体の意味には影響がないためです。例えば次の文章、

・今回の台風はここら一帯に大損害をもたらした。□、私たちは力を合わせて生き抜いた。

 の□に何が入ったところで、前の文章も後ろの文章も意味は変わらないのですから。


 というところでまとめますと、接続詞「ゆうて」は逆接の意味を持つが、無視してもあまり困りはしません。特に口癖のように連発する人の場合はほぼ意味はないので、いちいちつっかえないようにするが吉です。

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