「大丈夫」はイエス? ノー?


 〈否定の「大丈夫」〉

 結論から申し上げますと、現在の多数派からすれば、「全然大丈夫」はノーです。統計を取ったわけでもないので確証はありませんが、ただ私を含め、多くの人がレジ袋の有無を聞かれた際に「大丈夫です」と答え、それに対してレジ袋が来ないことからこのように考えています。

 さて、この「大丈夫」を問題な日本語とする人の主張としては、この語が肯定否定、どちらかわかりにくいというのです。記憶に新しい中で私が遭遇したのは

A:スイーツあるけど食後に食べる?

B:大丈夫だよ

A:大丈夫ってどっちよ

 このほかにも、チラシやティッシュを如何と問われて「大丈夫」と答えたのにさっそうと過ぎ去る人を見て、面食らったという人もいました。大丈夫と言う言葉の意味から考えれば【問題がない・危険や失敗の恐れがない・OK】程度の意味ですから、確かに肯定の意味とも取れます。ただ、今ではやはり「それが無くても問題ないので、いりません」という否定の意味の大丈夫が、高齢世代以外には浸透しているようです。

 ちなみに、同じような変化を辿った表現として「結構です」があげられます。「結構」ももとは【非難すべき点がない】などの良い意味でしたが、それが【十分満ち足りている→満ち足りているのでもういりません→いりません】と否定の返事に代わっています。この変化を体験している日本語からすれば、もはや今後「大丈夫です」が主要な否定の返事になることは避けられない運命のように思えます。


 もう一つ、何故この否定の大丈夫が広まったのかということですが、それは考えるまでもなく「やんわり否定表現」の座が開いていたからでしょう。レジ袋の有無を聞かれたとき、「大丈夫」がなかったときは

・いりません

・必要ありません。

・結構です

 などと言う文句があったわけですが、世間一般からすればこれらは少々棘のある言い方と受け取られるために、おそらく

・なくても大丈夫ですから→なくて大丈夫です→大丈夫です

 くらいの変化をして、遠回しに断る表現として定着したのだろうと考えられます。「○○させていただきます」然り、「ご注文の」然り、「大丈夫です」然り、現代人はいかに物腰柔らかな婉曲的表現を使うかに、必死なようです。私個人としては無粋でぶっきらぼうな「大丈夫です」よりも、断然当たりの柔らかい「結構です」がいいのですが……、まあどうであれ、主流は世間が決めるものです。私たちは静かに見守りましょう。



 〈全然大丈夫〉

 おまけです。もし大丈夫と言う返事が肯定か否定かで迷う人であれば、「全然大丈夫」なんていわれた日には混乱するでしょうが、以前『「全然行けますよ」 肯定の全然』と言う項目で説明した肯定の「全然」を知っていれば、この謎も解けていきます。例えばおかわりの有無を聞かれての返答だった場合――

・全然大丈夫→全然なくても大丈夫です→全然なくても私は困らないので、いりません→本当に、なくても私は困らないので、いりません

 となり、この表現も否定なのです。この場合の「全然」は強意の意味でとりました(詳しくはhttps://kakuyomu.jp/works/1177354054913341654/episodes/1177354054918497762)。結局「全然」も強調しているだけですから、変に「~ない」が省略されてるのではないかとか勘ぐって、〈実は「全然大丈夫じゃない」とかじゃないの?〉と思わなくてもなんですよ。


 はい。まとめとしては、とにかく現代日本語の大多数の「大丈夫」返答は「いいえ」です。これだけ覚えておけばもう惑わずに済むはずです。

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