第6話 光と闇 決めたこと

「うわぁ。キレイ!」

「ほんと、きれい。」

「ねぇ、あっちもキレイだよ。ほら、白と青のやつ!」

「去年、あんなのあったっけ?」

 お姉ちゃんが後ろを振り返りながら、お母さんたちに聞く。


 お父さんとお母さんは、並んでゆっくり歩く。その前をわたしとお姉ちゃんが右に左にジグザグしながら移動して先に進む。


 大好きな冬休み。寒いのは大っ嫌いだけど、冬休みの恒例行事。車で一時間の所にある『イルミネーションの森』に毎年来ている。今年もキレイなイルミネーションを見て、ちょっと豪華な夕飯を食べる。みんな少しだけお洒落して。


 その中で、お姉ちゃんの可愛さは、倍増されてると思った。イルミネーションを背に、振り返り様にニッコリ笑ったりしたら、きっと、テレビに出てるアイドルなんかより、よっぽど可愛く見えるんじゃないか、って思う。ほわわんとしてる。


 街からはなれた場所で周りは山だらけ。周りが暗いからか、街中にあるイルミネーションよりキレイに見える気がする。そんなことを考えてたら、何か“分かった”ような気がして、その場所から動けなくなった。


 真っ暗な中で光るイルミネーションと、その中にいる自分が、何だか自分だけの空間のような気になった。



「何してるの。ほら早く、行くよ」


 後ろを歩いていたはずのお母さんとお父さんが、いつのにか前にいた。この道の先に、予約してあるレストランがあって、そこで夕飯を食べる。それが一番の楽しみであるはずなのに、特別な空間が急に消されたような気がして腹が立った。

 

「分かってるよもう!言われなくても行くし」


 そんなに怒る事でもないのに、怒って言うと、ちょっと先にいたお姉ちゃんがボソッと呟いた。


「あんたはいいよね。言いたい事言えて」


 その言葉を聞いた時、ようやくハッキリ分かった。

 “何か”が。お姉ちゃんの“そんな気持ち”が。




 お姉ちゃんは、私が、うらやましいんだ。―――ダメなわたしはよく怒られる。でも言い返す。言いたいことを言う。だからって、みんなに嫌われたりしない。たぶん。そもそも、お姉ちゃんは怒られる前に“許される”から、怒るような気持ちもないのかと思ってた。

 でも違うんだ。きっと。

 


 わたしはお姉ちゃんの側に駆け寄って、お姉ちゃんと手をつないだ。お姉ちゃんはびっくりしてたけど、何かを分かってくれたように握った手に力が入った。ちょっと痛かった。でもわたしはお姉ちゃんを見て笑った。お姉ちゃんもわたしを見て、笑った。


 ほら、世界一の笑顔。お姉ちゃんは、何だって許される、いやしの人。これが、私のお姉ちゃん。神様仏様に感謝する。“この人を、わたしのお姉ちゃんにしてくれてありがとう”って。


 二人で手をつなぎながら、レストランまでのゆるやかな坂道を進む。


 わたしは決めた。“お姉ちゃんの笑顔は、わたしが守る”って。


 イルミネーションは、真っ暗の中でこそ、キレイに輝いてる。お姉ちゃんはイルミネーションだ。だからわたしは暗闇になる。いつだって、その光がなくならないように、輝いたままでいられるように。どんなことをされてもいい。お姉ちゃんは、みんなの人気者じゃなくちゃ困るんだ。だって、わたしのお姉ちゃんなんだから。




 そんな決意を分かってくれたかのように、お姉ちゃんが握る手の力は、さっきよりも強くなっていた。




 

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Sister アノマロカリス・m・カナデンシス @msw

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