第4章 船の到着

船の到着(1)

 果たして、それは船だった。

 水平線の彼方にうっすらと浮かんでいた小さな黒い粒は、その日の午後の遅い時間には、大きな帆船となって島の浜辺に到着していた。

 遠浅なため船は岸から少し離れた場所でいかりを下ろし、乗組員はそこから小型のボートに乗り換えて、島民が総出で見守る島の浜辺へと上陸した。

 そこには、ラウロ司祭の姿があった。

「ムラコフ!」

 浜辺で船を出迎える島民の一団の中にムラコフの姿を見つけると、ラウロ司祭は駆け寄ってきた。

「生きていたのだな!」

「はい、神のご加護によって」

 ムラコフは丁寧に十字を切ると、その場にひざまずいた。この姿勢をするのも、ずいぶんと久し振りな気がする。

 ラウロ司祭に報告したいことはたくさんあるが、しかしそれは後でするべきだろう――。

 島民全員の視線が自分達に集中していることに気が付いて、ムラコフはそのように考えた。

「ようこそ、我らの島へ。わしはこの島の酋長じゃ。島民一同、旅人の来訪を心より歓迎致しますぞ」

 酋長がラウロ司祭の前に進み出て挨拶をした。

「お初にお目にかかります、酋長」

 ラウロ司祭は頭を下げて、胸の前で十字を切った。

「わたくしは、この船の指揮を取っているラウロと申します。我らが同胞、ムラコフを救っていただき、誠にありがとうございました」

「いや、なに」

 酋長は何でもないという風に片手を上げた。

「我々は新大陸へ向かう途中でしたが、水平線の彼方より高々と天に昇る煙を認め、もしやと思い、こうして進路を変えてこの島へやって来ました」

 ラウロ司祭は、かしこまって話を続けた。

「こうして無事に同胞と再会できたからには、静かな島の平穏を乱さぬよう今すぐにでも出発したいところなのですが、実はしばらくの間ここに停泊することをお許し願いたいのです。と申しますのも――」

 そこでいったん言葉を切ると、ラウロ司祭は背後の帆船へと目を向けた。

「先の嵐のせいで、我々の船は修理が必要な状態です。さらに食糧の蓄えも塩水に浸かってしまい、このままでは無事に目的地に到達するどころか、帰港すら危ぶまれるような状態。大変お恥ずかしい話ではありますが、どうかお力をお貸しいただけないでしょうか」

「なるほど、それはまことに不運じゃったな」

 酋長はラウロ司祭に同情するように、一緒になって表情を曇らせた。

「あいわかった、船の停泊を認める。それから、修理に必要な資材と人材も提供しよう」

「有難きことです。まったくもって、かたじけない限り」

「なに、気にするな。それでは修理が終わるまでは、この島で過ごしてくだされ。この通り何もない島だが、島民一同歓迎致しますぞ」

 ラウロ司祭は酋長に再度の礼を述べ、それからその場の話題は、修理の具体的な内容や必要な資材に関することに移った。

 それらの段取りがだいたい決まると、太陽も西の端に沈みかけていたため、その日はそれでお開きになった。

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