カーテンの向こう側

月埜

夕立ち


学校生活で、私の唯一の楽しみ。


それは、放課後にある。


それぞれが部活に向かう中、1人だけ教室に残る男子生徒が居る。


私は、いつも部活に行く前に遠回りをして、その男子生徒がいる教室の前を一歩一歩踏みしめながら、横目に生徒を見る。


声は、かけない。掛けられない。


途端に、余計な事を言ってしまう気がする。


だから、決して声は掛けない。


そして、今日も私は遠回りをする。


向かう途中ザーッと、夕立ちが降り始めた。


廊下に貼ってある習字がブワッと揺れ浮く。


窓は開いていない。きっと教室の中。


いつも、机に突っ伏している生徒は今日は居ない。


ドクドクと鼓動が鳴る。


カーテンが、膨らみ隙間からキラキラと雨粒たちが教室に降り注いでいる。


生徒2人の影が、カーテンに浮かぶ。





「先生ー、今日の題材はなんですかー?」


私は、カーテンの向こう側には行けない決して戻る事の出来ない特別な時間が流れている。


だけど、きっと明日も私は生徒達より遅く美術室にたどり着く。


カーテンの向こう側に、行けないと分かっていても。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カーテンの向こう側 月埜 @SR_tukino

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ