尾行


 白鳥結花の少し前を歩いているのは同じクラスの三沢知悸だ。

何故かさっきからずっと、結花の前を歩いている。

……別に尾行してるわけじゃないんだけど。


 でも、どこいくつもりなのだろう。

次の角を曲がると結花の家だ。


「嘘。曲がった」


 結花は呟いて立ち止まった。

三沢は結花の視界から消える。


 三沢知悸はうちのクラスの中心。

いわゆるイケメンの部類で女子から人気がある。

バカでお調子者だけどいつもクラスのムードメーカーだ。

バカでお調子者だけどいつも皆が楽しめるようにクラス全体を見てる。

バカでお調子者だけど本当は結構繊細なんじゃないかと思う。


「バカでお調子者はいらなくない?」


「ええっ!!」


 その三沢本人がいつの間にか目の前にいて、大声を上げてしまった。

どうやら引き返していたようだ。


「白鳥サン。何で俺のこと、尾行してたの?」


 意地悪く笑って三沢が言った。

元がいいとこんな顔つきをしても綺麗なもんだな、なんて場違いなことを考えてしまった。


「尾行なんてしてないわよ! この先、あたしんちだもん。三沢があたしの前歩いてただけでしょ。」


「だって俺、白鳥サンちに行ったんだもん」


 いくら同じクラスでも、家に来る程親しいわけじゃなかった。

何の用だろう。

思い当たることがない。


「告白しようと思って」


「告白って誰が?誰に?」


 話が見えなくて、頭がフリーズしている。

三沢はなんだか苦笑している。


「俺が、白鳥サンに」


 三沢がゆっくりと言いながら、その長い指を自分と結花を順に指す。


「まぁ、そういうことだから」


 そう言い残してもと来た道を引き返しはじめた。

結花はその場に立ち尽くした。

あの三沢が結花のことを?

信じられない、でも。


 結花は踵を返し、三沢を追いかけた。

だけど、何と言っていいかわからずに少し後ろを歩くだけだ。

三沢がくるりと振り向いた。


「だから、何で尾行するの」


「三沢がっ! 言い逃げするからでしょ! ……あたしもずっと好きだったのに」


 それだけ言うと、あたしは走って逃げた。

恥ずかしくて死にそうだった。

追いかけてきたらしい三沢が結花の手を取って自身の方に引き寄せる。

そして、結花は三沢の腕の中にいた。

強く抱き締められる。

全身が心臓になったみたいに鼓動が早鐘を打っている。


「ちょっ! なんで……」


「だって、可愛いんだもん」


 耳元で三沢が囁いた。

顔が熱い。

きっと真っ赤になっているだろう。


「そんなに真っ赤になるほど、俺のこと好きなの?」


「なってないし!」


 三沢の腕を振りほどいて逃げようとしたが、話してくれない。

さらに強く抱きしめられ、そして囁かれた。


「もう逃さないから覚悟して?」

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