青いベンチ

 目の前に続く並木道。

ここを君と歩いたのを思い出す。

2人でよく座っていた青いベンチに1人で座り僕は君を思い出す。


 昨日届いたクラス会の案内状が僕の記憶を呼び覚まし、この場所に引き寄せた。

青春を過ごしたこの街、君は卒業と同時に出て行ったけれど僕は今もここで暮らしている。



「私、卒業したらこの街を出るつもり」


 そういった愛桜の瞳には決意に満ちていた。

愛桜は1度決めたら揺らがない。

ずっと幼馴染みをしていた僕は知っている。


「陸は? 結局どうするの?」


「僕? 僕は……地元の大学に進学するよ」


「……そっか」


 愛桜は目を伏せる。

長い睫毛が影をつくって、それがとても美しいく見えた。


 そして、別れの日。

愛桜を見送るため、駅のホームに立つ。

まだ少し肌寒いが、うららかな日差し。

春が近付いている。

ホームから見える桜の木々が蕾をつけ、花を咲かせるタイミングを伺っているようだ。


「これからは寝坊したって起こしてあげられないんだからね」


「お前こそ大人しくしてろよ。僕だからお前のじゃじゃ馬に付き合えたんだからな」


 僕も笑って言い返した。

それを遮るように電車がすべりこみ、愛桜の前で扉が開く。


「じゃあ、またね」


 愛桜は電車に乗り込むと手を振った。


「愛桜!」


 思わず叫んだ瞬間、扉が閉まった。

愛桜は耳に手を当てる。

動き出した電車は少しずつ速度を上げ、届かない想いをかきけしていく。


 別れの日のことは今も思い出す。

愛桜の眩しい笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。


今更後悔しても遅い。

伝えられなかったこの思い。


 あの日はまだ蕾だった桜。

今日は満開の花を咲かせている。

この桜の下に君は現われるだろうか。

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