くちびる に うた

キセキ

 白に覆われた式場。

広い会場に向かってテーブルはあなたと私の席。

見渡す先にはたくさんある丸いテーブル。

今はガランとしたこの場所も明日にはたくさんの笑顔で包まれるのだろう。


「花梨。そろそろ戻ろうか」


「そうね、パパ」


 名を呼ばれ振りかえると、優しい笑顔のあなたがいた。

私たちは明日、結婚する。

少しふくらみ始めた私のお腹。


「俺は花梨のパパになった覚えはないぞ」


空とは学生時代からの付き合い。

私が妊娠したのをきっかけに結婚することになった。

お腹が大きくなる前に、と慌てて結婚式の予約をした。


「そーら! 何ふくれてんのよ」


「俺は! 結婚しても子どもが産まれてもおじいちゃんおばあちゃんになっても、名前で呼び合えるような夫婦でいたいの!」


 そう言い切った空は先に歩き出した。

後ろから見える耳が真っ赤に染まっている。

素直で照れ屋な空がずっと好きだった。



 私たちの出会いは高校生の時。

偶然、同じ高校で同じクラス、同じ部活同じ帰り道。

部活のメンバーで学校を出ても、最後には2人になる。

その時間が私には何より大切だった。


「今日も疲れたなぁ」


「お前体力ないもんな」


 体力のなさは私の弱点。

図星をつかれて腹が立つ。


「空だってミスって怒られてたじゃん」


 空の頭をはたいて走り出す。

夕陽に照らされて、二人とも茜色に染まっている。


「てめーこのやろー!」


 空が両手を振り回して追いかける。

キャー、と声を上げて逃げた。

いつもふざけあってた帰り道。


「なぁ、花梨!」


 少し前にいた私を空が呼び止める。

また余計なことを言うのかと思ってふりかえると、いつになく真面目な表情をした空がいた。

夕焼けに染まるいつもの道。

空と見つめ合って、時間が止まったような気がした。


「俺さ、花梨のこと好きだよ」


 私は思わず、手で顔を覆った。

うれし涙があふれる。

うん、と頷くしかできない私の頭を、隣に来た空がそっと撫でた。


「そんなに泣いてんの、初めて見た」


「もう! 泣かしたのはあんたでしょ」


 これから先もずっと一緒にいたいと、そう思った。

それからもいろいろあった。

喧嘩したり別れ話までしたこともあったけど、やっぱり空のことが大好きで。

妊娠した時も迷ったけど、何があっても空と一緒に生きる。

そう決めた。



前を歩く空を追いかける。

空の左の手のひらをそっと包み込んだ。

温かい手から伝わってくる愛を感じて、私はポツリと呟いた。


「私、幸せだよ」


 空は私の右の手のひらをそっと握り返した。


「俺だって。愛してる」


 耳まで真っ赤。

素直で照れ屋な空がやっぱり大好きだ。

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