第3話:儚い理想の

多くの事を望まなくても、

たとえ、どんなに小さな事でも……


人には”なりたい”自分があったり、

”やりたい”叶えたい事の1つや2つ……

みんな持っています。


それが一時的でも、叶うとしたら、

それが夢と分かっていても、

嬉しくて、

その後の、生活の支えになる事があります


もちろん、理想を叶える励みにも……




___キッチン___


エプロン姿の若い女性が、

今日も、1つ1つ丁寧に野菜を切り、

鍋で煮込み……


料理を完成させて行く。


毎日の作業で、手際が良く、

煮込み終わる頃には、炊飯器から、

完成のアラーム音が、聞こえてくる。


「うん!今日も美味いじゃないかな?」


そして、ドアのカギが開く音がする。


「ただいまぁ~、今日はカレー?」


その音を聞き、玄関へ駆け寄る、


「おかえりぃ~!あなたぁ!」


そのままの勢いで、抱き着くと、

クイッと、肩を掴まれて離されて、


「うぜぇ……姉ちゃん……疲れてんの!」


少し背の高い弟の顔を見上げ、

「お姉ちゃんジョーク!」

と笑いかける、


弟も、いつもの事で、やれやれと、

ため息を着くと、靴を脱ぎ、

仕事帰りに買って来た、袋を見せて、

「プリン!」

と一言放つと、


「はは~」と

姉はひれ伏した……


姉弟で上京したのは良いが、不慣れで、

なかなか、稼ぐ事が出来ずに、

2人で協力して、夢の為に、

頑張り続けている。


「どう?小説はうまく行ってるの?」

食事を取りながら、不意に姉に話しかける、


「あはは……1ページ?」

と言うと、


弟はガックシと肩を落とし、

「まぁ、俺はまったくストーリーも考えつかないから」

とお茶を一口飲むと、

「だいたいの話が出来てる姉ちゃんは、すげぇよ?」

とフォローする。


「でも、どんな文章で作ればいいか……」


「そのまま書けば、良いんじゃないの?」


「それじゃあ、上手く伝わんないかも!」

と、そこから、情熱が燃え上がり、


気づいたら、弟はお風呂に行き、

1人テーブルで、語っていた。


…………


「んじゃ、おやす~」

弟が自分の部屋へと入って行く


「おやすー!」

そして、自分も部屋に入り、すぐさまベットの上へ。


枕を抱きしめながら、

机の上のノートパソコンに目を移す……


いつか、上手く行くと良いなぁ……と、

小さく呟き、目を閉じる。


______




「おい?!マジか?!来るんだよな?!」


「マジマジ!!ほら、このクラスだぜ!」


「俺らのクラスに、女神が来るんだよな!」


「ああ!まさに、そのとおぉり!!」


クラスの一室が妙に盛り上がる


それもそのはず……


今日、このクラスに、転校生が来る

若者で大人気の読者モデル……


「この私よ!!!」

私は最近、TVにラジオに引っ張りだこの

超絶人気モデル


「わぁー!本物だわ!」


「可愛い!顔、ちっさ!!」


男女問わず、私の来訪に

自分の教室以外のクラスまで

盛り上がっている


「おらぁー!お前たち、静かにしろ!」


教師が怒鳴りながら、教室のドアを開ける


「えー……言うまでもないだろうが……」


ふーっと、一呼吸置き、教卓に両手をついて


「あの転校生が来たぞぉ!!」


「おおぉぉぉぉぉ!!!」

とクラス一同、喜びの声を上げ

教師は片手を顔に当て泣いている


そして、大喝采を浴びながら

堂々と教室に入る……


拍手の音が聞こえる、私を称える音……

パチパチパチパチ……

チチチチチ……

ピピピ……


______


ピピピピピピ……


「……んぁ?」


目覚まし時計の音が鳴り響く部屋、

手を伸ばしながら、時計を止めると同時に、

ベットから転がり落ちる……


落ちた先で、1つの雑誌が目に留まる。


「あはは……昔は憧れたっけ?」


雑誌を手に取り、懐かしむ……


学生時代の1ページを。


「あ、そうだ」


携帯を手に取り、手際よくメールを打ち込み……

一斉送信。




___カフェ___


「お疲れぇ~!」


「いぇ~い!」


パチパチパチ!


静かな午後のカフェで、

3人の女性が、

久々の再開を祝し、

ささやかな同窓会をしている。


お互いの近況を報告し、

まだ、結婚どころか、彼氏もいないと、

笑い合う……


学生時代の親友達、

思い付きでメールしただけ、

だったが、

2人とも、承諾し集まってくれた。


「しかし、まぁなんとも、あんたらしい夢よね」


「ほんっと!昔と変わってないね!」


夢に自分達が出て来てない事に、軽く突っ込みを入れつつ、

笑い話にしている。


…………




___自宅の自分の部屋___


今日は、とても楽しかった……


3人で撮った写真を眺めながら、

ふっと、思い出す……


3人は学生時代、ヲタクと呼ばれる人種だった、

その為に、基本的にはクラスからは浮いた存在だった。


そうなると、もちろんのように、

いじめの対象となる事も、

主に陰口で、ある事ない事を囁かれていたが、

3人いれば、平気と、

笑い飛ばしていた。


「あんたらも、昔から……変わってないよ……」


うっすら微笑みつつ、

眠りに落ちた……




_______




……ここはどこだっけ?


多くのビルが並ぶ、

急ぎ足で通り過ぎ行く人々……


ああ……

遊びに来たんだ……

何すんだっけ?……


ぼーっと、空を見上げていると

ドン!っと肩がぶつかる……


「ボケっとしてんじゃねぇよ!ブス!!」

自分より一回り小さい、金髪のギャル……


その瞬間、全身に熱い何かが込み上げて来る……


……怒り


例えようが無いぐらい、ほんとうに些細な事で……


でも、ムカつく……ムカつく……


ぶつかった、ほんの数秒……

「てめぇぁあぁぁあぁぁぁああ!!!!!!!」


その女の子を押し倒し

私は両手を振りかぶって


右……左……右……ヒダリ……ミギ……


交互に……順番に……思いっきり握りこんだ拳で

顔面を地面に叩きつけるように、左右から


殴りつける……


ほんの一瞬に感じた時間で、気が付けば


そこに”顔”は、ほとんどなくなっている


へこんだ……金色の髪の紅い肉の塊……


はっ!と自分の両手を見ると、

ジンジンと痺れて痛い


赤い液体が、滴り落ちてる両手……


あ、あああ、ああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ああああああああああああああああああああ

ああああああああああ

あああああ……




________


目が覚めた、熱く寝汗をかき、

生々しく残る、手の痺れ……


改めて、自分の両手を見る、

暗い部屋でも、少しは見える、

ただの汗ばんだ手……


「こ、怖かった……」


扉の向こうで、弟の声が聞こえる……


「どうした??」


どうやら、寝言で何か言ってたらしい


「呼んだ??」


「あ、ううん、呼んでない」


すると弟は、……そう?

と笑い、


「いきなり、おぉー!!みたいな声が聞こえたから

てっきり”お~い!”って俺を呼んでると思った」


そう言うと寝言かよ!と、

笑らいながら自分の部屋に戻って行った……


また、静かになった部屋で、

そっと、自分の手を撫でる……


あんなの”私”じゃないよね……

今だに残る感覚、手の痺れに

小さく震えながらも……




本当は……あれが”ワタシ”だった……?

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過去日記 Light flower @mikomikoremilia

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