道化少女と僕と

五三六P・二四三・渡

道中

 僕は彼女と星を見に行く。

 なんでもUFOが通るって噂もある。

 おっちょこちょいな彼女は、思わず頭を階段に落としてしまった。

 僕は彼女の首を元の位置に直してあげて、手をつないで前に進んだ。


 ◇ ◇ ◇


「ねえねえ純くん」何だい、いつものように退屈に耐えきれなくなり、話しかけてきた黒瀬さん「えっなにそれ、なんでそんなひどい言い方するの……?」いや、今あんまり話しかけられたくない状況なんで……状況と安全性を吟味すると多分大抵の人は僕の意見を支持してくれることが明白だと思うよ「は~くど! 言い回しがくどい! 数年後自身を顧みて、語りのくどさに自己嫌悪に浸れる奴!」それで本題は?「えー、まあ雑談がしたかったんだけど」じゃあ話しやめようか「え? なんで?」いや集中力が削がれて危ないから「まあいいじゃん? わが一族はダーウィン賞とることが、まほれだかいこととされてるから」まほれ?「言うでしょ。誉めるって字を書いてまほれって」それほまれ「あっあー……まあ文字変換できないネタだよ。雰囲気とか巣窟みたいな」そんな間違い見たことない「あるんだよ! 自分が知ってることが世界のすべてだと思っている無知め!」君に言われたくないよ……「まあどうでもいいでしょ。そういえば思ったけど月とスッポンってことわざあるじゃん?」ああそれ知ってる「知らなきゃ困るよ」そうじゃなくて今から言うこと知ってるってこと「は!? なんで!?」いや黒瀬さんツイッターで書いてたでしょ『創作メモ 月とスッポンの二乗』ってやつ「あああああああああ」美大生と美術系の専門学校生は月とスッポンで、藝大生と美大生も月とスッポンなので、藝大生と美術系の専門学校生は月とスッポンの二乗となる、とかいうクソ失礼なネタ「何で知ってるの! 純くんのネットストーカー! やはりSNSによる相互監視社会は独裁者ではなく大衆が作っていた!」いや僕たち相互フォロアーだけど……「うう……バラエティ意番組見てて、芸人がネタ披露してたら先輩芸人に『それ正月の番組で見た』っていわれるやつ……」それ込みのネタじゃないの? 今の黒瀬さんのも「それ言ってたらきりがなくなるから止めて」ガチトーンだ……ごめん……「あーあ。純くんがネタつぶした。大物芸人でもないのにネタつぶした」怒っていい?「おっと、怒髪天注意報だ。こりゃ早めにうやむやにしておいたほうがよさそうだね」何をいってるの?「まあ私の言ってることは、言いえて妙だとは思うよ」言いえて妙の意味わかってないでしょ。妙なこと言ってるだけじゃん「はいはいやめやめ。つきの話題に移ろう」うやむやにするというのは成功したようだね。あきれて怒る気がなくなったよ「やっぱ私たち健全な男女なんだしさ、恋話しようよ」こいばなあ?「うわ、露骨に嫌そう。そんなに自身の内側を綿棒でほじくられたくないのかな」人の内面を耳クソに例えるのはどうかと思うよ「揚げ足とらないで、ところで城山しろやまさんとはどうなのよ」なんでそこで城山さんが出てくるの?「ふっふっふっとぼけてもむだだよ。純くん城山さんのこと好きなんでしょ」そうでもないけど「またまた~」『またまた~』とか言われても違うものは違うとしか言いようがない「え? 本当に? 城山さんのことすこじゃないの? すこすこすこのスコットフィッシュ・ジェラルドじゃないの」最後の方の意味は分からないけど……そりゃあ、人としては尊敬してはいるけど、恋愛方面に好きではないよ「じゃあ、誰が好きなの」いや、言いたくない……「なんで? 何で言いたくないの? ねえなんでなんでなんで?」ちょっ……、後ろで暴れないで。こんなところで死んだってダーウィン賞は取れないよ「むう……」わかってくれたようでうれしいよ。だからもう聞かないでね「いやですーそれとこれとは別ですー。危ないので暴れるのをやめただけで、純くんの好きなことを聞くことを辞めたわけではありませんー」こいつ……「ほらはやくいっちゃいなよ。そのほうが楽だよ」……わかった、君だよ「……はい?」だから君が好きだって言ったんだよ「なにそれ。そういう冗談聞いてないんだけど」冗談じゃないよ。本当に君が好きだ「嘘でしょ……ありえない……」もっとちゃんとした場所で告白したかった。振られるなら降られるで心の準備をしたかった「ありえないありえないありえない」取り乱したいのは僕の方なんだけど「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘」まって、本当に落ち着いて、本当に事故――

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