第三部第5話「メビウスをなぞる」

 ハーヴェス王国で王妹アイリス=ハーヴェスを首魁とする内乱が発生しようとしている。


 衝撃的な情報が、ブルライト地方を駆け巡っていた。


“元素の迷宮”からラージャハ帝国に帰還した”星月巡り”一行は慌てて情報を集めた。”終末の巨人”とブルライト連合軍の戦いの顛末と、そこから何故ハーヴェス王国のクーデター騒ぎに繋がっているのかを知るために。


 マカジャハット王国防衛戦におけるブルライト連合軍と”終末の巨人”の戦いは、連合軍が劣勢であったらしい。

 騎士たちの突撃はほとんど効果がなく、地上戦力で巨人を押しとどめるのは難しかった。

 事前に魔法や銃が有効だということを聞いていたため、出来る限りの魔法火力を用意していたが、急拵えで連携に難もあり、巨人の自動修復機能を上回るほどの火力を出すことは出来なかった。

 前線の騎士団は損耗し、戦線は壊滅寸前になっていた。

 だが、一人の聖女が状況を変えた。

“救世の聖女”イオーレ=ナゼルが味方を救うために最前線に飛び出してきたとき、明らかに”終末の巨人”は破壊の手を止め、動きが鈍くなったのだ。

 その隙に残った銃火力を足に集中させ、巨人はついに膝をついた。

 自動修復機能が発動し、ほどなくして巨人は再び立ち上がる。

 だが巨人は連合軍と戦闘の意思を見せず、ゆっくりと南に向かって歩き去っていった。連合軍は損耗が激しく追撃は叶わなかったが、それでも強大な巨人の撃退に成功した。

 マカジャハット王国は救われたのだ。


 勝利の立役者は”救世の聖女”イオーレ=ナゼル。これは誰もが疑わない事実であった。

 だが、マカジャハットから南はハーヴェス王国の方向と合致する。戦勝祝賀会への参加もそこそこに、イオと彼女の後見役である”護国の騎士”シン=シャイターン伯爵はハーヴェスへと帰国した。


 これがマカジャハット王国防衛戦の顛末であったようだ。


 しかし、それが何故ハーヴェス王国の内乱に繋がるのか?


 ラージャハ帝国の外交畑の貴族によれば、もともとハーヴェス王国は中央貴族と地方貴族に心理的溝がある国柄であったという。加えて若き国王のヴァイス=ハーヴェスは英邁ではあるが、差別意識が残るリカントと人間のハーフという点もあり政治的基盤が弱く、不安定な状態が続いていた。


 だが、国中で人気がある王妹アイリス=ハーヴェスは兄のヴァイスと良好な関係を保っており、彼女が不満を抱きがちな地方貴族と中央のパイプ役となっていたはずだ。


 不可解な部分はまだ残っていたが、これ以上は現地に向かわないと判らない、そう判断した”星月巡り”一行はハーヴェス王国へと向かうことにする。


 ラージャハ帝国はもともとハーヴェス王国と領土問題を抱えており、もしハーヴェス王国でクーデターでも起これば、その隙にラージャハ帝国は軍事介入を進めるだろう。ブルライト地方全土を巻き込んだ戦争も起きかねない。さらに”終末の巨人”は速度こそ遅いがハーヴェス王国方面に向かっているのだ。


 一行の背筋をうすら寒いものが駆け巡っていた。


 国境を通過してハーヴェス王国領域内に入ってからほどなく、”星月巡り”一行は武装勢力による包囲を受ける。どうやら地方貴族の私兵集団のようであった。


“星月巡り”一行の実力は彼らを大きく上回っており、無理やり突破することも可能ではあったが、彼らは敢えて拘束を受け入れることを選んだ。ハーヴェス内乱の現地情報を欲していたためだ。


 彼らは最終的に、元冒険者から地方貴族として登用された、農政政務官のトゥルー=ライングより、詳しい事情を聞くことになる。彼は冒険者として培った知識を生かして辺境開拓地の防衛を指導する能吏である。”疾風の巨人”デューイ=ナハトのパーティーの元メンバーでもあった。


 トゥルーは一行にこれまでの経緯を説明する。


 辺境部の反ヴァイス王の感情は根強く、地方貴族は”終末の巨人”が自分たちの領地を蹂躙するのではないか、という恐怖感を持っていた。


 そこで、”終末の巨人”を撃退したイオと、彼女のコントロールを司る騎士団長シンの身柄を抑えて、迫り来る巨人への対策と、ヴァイス国王へのプレッシャーとして利用しようという声が大きく挙がった。


 各所の声に唆されたか、地方貴族・ヴォランティス家の三男坊が早まり、地元の愚連隊を動員してイオとシンを拘束しようと実力行使に及んだ。だが、シンもイオも一流の戦士だ。井の中の蛙程度であった貴族の子弟の剣など通じず、シンは手傷を追わせて彼らを撤退に追い込んだ。


 傷付いた三男坊は暴れた。親類を焚き付け、騎士団長シンの引き渡しを求める声明を発表する。平時であれば、蒙昧な貴族の恨み言として穏やかな政治的処理が為されたかもしれない。


 だが、恐怖が支配するいま、この時においては、そうはならなかった。


 声明を無視する中央に対して、地方貴族の連合体は「”終末の巨人”を撃退し得る存在・”救世の聖女”イオーレ=ナゼルを、王都と自分たちのみを守るために中央貴族が独占しており、地方は切り捨てられようとしている」と受け取った。


 彼らは恐怖と熱狂によって団結し、挙兵の準備を始めた。説得のため王都から王妹アイリス=ハーヴェスが派遣されるが、結局アイリス姫は地方貴族勢が掲げる神輿として収まってしまった。


 ここまでをトゥルー=ライングから聞いた”星月巡り”一行は、内乱を止める術を質すが、トゥルーにそこまでの政治力はない。ただ、元冒険者で今は政治に携わる身として、一行を様々な関係者に取り次ぐ用意があるとのことだった。


 全ての関係者に会えるわけではなく、時間はあまりにも少ない。限られた残り時間の中、一行は”梯の姫”アイリス=ハーヴェスへの面会を申し入れることにした。



 アイリス姫は、地方領主が所有する辺境の城にいた。寄せ集めではあるが、辺境貴族の私兵を中心とした軍勢が続々と彼女の下に集まっている。

 殺気だった陣容の中で、”星月巡り”一行は、アイリス姫に内乱を助長するかのように神輿に収まるのは何故か、内乱は止められないのかということを問うた。



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「私は、にいさまを敬愛しています。そして、それ以上にこのハーヴェス王国を愛しています」

「にいさまと共に、騎士団を用いてこの反乱を鎮圧することも議論しました。ですが私たちは辺境の皆さまを見捨てたいわけではありません」

「にいさまが自ら辺境の最前線へと出向き、”救世の聖女”と共に巨人と戦うことも、もちろん検討しました。しかし、今の状態でそれを為せば、今度は王都側の貴族が謀反を起こす可能性が高いとなりました」

「これは様々な問題が絡み合っています。辺境と中央の意識の差、にいさまを中心とする政治派閥の力学、巨人の進撃による恐慌、偶発的な感情の事故…これらを、今ひとかたの差配によって全てを治めることは、残念ながら困難を極めるでしょう」

「”救世の聖女”がいれば、”終末の巨人”を撃退することは出来ると聞いています。しかしどの陣営が”聖女”を手中に収めるかで争い合うのであれば、どちらが勝ったとしても心の傷跡は残り、戦後に血の粛清が吹き荒れることとなるでしょう」

「ここに至りて王族の戦いとは、王国を在り残すためにあらゆる可能性を受け入れることです」

「このまま王国が二つに割れたとき、負けた方は死を以て代償となります。しかし、私か、にいさまのどちらかが生き残っていれば、ハーヴェスを立て直せます。戦後に流れる血をわずかでも少なくするために、わたしはこちら側に参りました」


 アイリス姫は表向き毅然としているが、虚勢が含まれるのは明らかだった。無理もない。16歳の少女が、敬愛する肉親と殺し合う覚悟を固めるのに、どれだけの意思が必要なのだろうか?


 ―”梯の姫”アイリス=ハーヴェスとセッション内描写より

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 内乱を止めるだけの意思と政治力を持つ人間は誰か存在しないのか、と一行はトゥルーに訴える。王都側、地方側、国王派、王女派のすべてに話が出来る人物。


 一人いる。


 地方側に顔が広い名門貴族の当主の令嬢にして、かつて王妃候補にも名を挙げられたエリートであり、


 王国上層部の要職にあり、王国の最大戦力である国王派の騎士団団長の配偶者。


 レイラ=シャイターン伯爵夫人である。


 レイラは各陣営に自分が利用されるのを防ぐために表舞台から姿を隠し、何らかの暗躍をしているようであった。”星月巡り”一行は残り時間の大半を費やすことを承知で、彼女の隠れ家を探し出す。


 王都にほど近い丘陵地に設けられた別荘に、レイラはいた。彼女はここで直接的な干渉を避けながら、ハーヴェス各地の多くの有力者に手紙を送るなどの政治活動を行っていた。


 ========

「政治とは選択と妥協の連続です。平民が漠然と抱く、自らに都合の良い世相にする術など、幻想に過ぎない」

「それでも、可能な限り平民が命を永らえ、家業その他に従事できる環境を維持することは為政者の務め」

「我々貴族が税によりて贅を享受し、様々な特権を有するのは、彼ら平民の安寧を担保することと引き換えだと考えているわ」

「アイリス姫の決断は尊重します。あの兄妹が持つ、決めて断つ恐怖を乗り越える勇気も評価します、が」

「どちらも正当でありながら、殺し合う状況を作ってしまうのは政治家の敗北と考えます」

「私自身は、貴族の務めとして妥協の道を…内戦を防ぐ道を模索しています。国を愛し、互いを愛し合う兄妹が殺し合う悲劇を見過ごすなど、臣下の名折れ」

「机上ではあるが、信頼出来る各種の情報を集めました。あなた達の情報も含めて。この手紙を渡しておきましょう。ヴァイス国王陛下、アイリス王女殿下のどちらかの陣営に渡れば良い」

「この騒乱の状況は、”救世の聖女”を巡って『自分だけは助かりたい』という欲が、恐慌と分断を生んでいると私は考えています」


「よって私は


「無論、彼女がどのような役割を持っているか、夫から聞かされているけれど」

「彼女を除くことで、巨人を前にして争い合う愚かな状況を止めることが出来るでしょう」

 ―レイラ=シャイターン伯爵夫人

 ========


 レイラとの会談で、"星月巡り"一行は動揺する。


 確かにイオを殺せば二つの勢力が争う理由はなくなる。だが、タージに戻るために、巨人を止めるために、必要な能力を持つ彼女を犠牲にすることが果たして許されるというのか?


 だが、世界を救うためと言ってイオを救出することで、この争いを止めることを放棄し、ハーヴェスに住まう多くの人間が争いと悲劇に塗れることを認めることも、果たして正しいことなのか?


 明確な答えを誰も出せないまま、貴重な時間だけが経過していく。レイラの進言を記した手紙を誰かに渡すことも出来ず、次に誰に話を聞けばよいのか判断するのも覚束ない。一時行動を共にし、ハーヴェスに帰国しているはずの”白金の戦乙女”クリスは音信不通となっていた。おそらく、クリスはレイラの意を汲んで動いていると思われた。


 地方貴族側の軍勢はとうとう挙兵。王都側に進軍を始めた。これに対し、ハーヴェス騎士団を預かる団長・シン=シャイターン伯爵はヴァイス王への忠義を優先し、”反乱軍”の鎮圧を決意。領地より騎士団を出陣させる。


 事ここに至り、”星月巡り”一行はハーヴェス王城にいると思われる”救世の聖女”イオーレ=ナゼルに強引に会うことにする。居場所を突き止め、取り巻きを排除する間に、王都の外ではついに戦端が開かれてしまった。


 取り巻きを尋問したところ、王城にいるイオは彼らによって情報を遮断されており、現在の状況に関する知識はほとんど持っていないようだ。だがハーヴェスを守るために、巨人と再度戦う意思は固めていたと聞く。


 王城では侵入者が出たと騒ぎにもなっている。ヴァイス王やイオを狙う刺客が現れたのだろうか。”星月巡り”一行は情報をもとに、強引にイオの居場所へと向かった。


 王城内の一角で、イオは刺客と戦っていた。


 その刺客とは、”白金の戦乙女”クリスであった。


 ========

「レイラさんが、一人で戦場に行ってしまったの!自分が死んででも争いを止めるために!もうこんなことはたくさんよ!!このイオさえいなくなれば、せめて…!」

 ―”白金の戦乙女”クリス


「そんな、それでアタシを殺せば解決するなんて、誰が決めた!?みんなのためにと戦わせておいて、都合が悪くなれば殺すような、そんな風にアタシを利用してきたの!?」

 ―”救世の聖女”イオーレ=ナゼル

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 イオからは助けを求められ、クリスからは助力を嘆願される。


“星月巡り”一行は、二つの選択肢を迫られた。


 イオを助け、クリスと戦うか。


 クリスを助け、イオと戦うか。


 逡巡の末、一行が選び取った選択は、後者であった。


(GM注:数行で済ませていますが、実際のプレイでは、とても多くの時間をこの選択の議論に費やしました。強引に決めるでもなく、互いを尊重しながら、善きコミュニケーションの結果として、この残酷な二択を健全に選び取った参加プレイヤーの皆様には、改めて最大限の敬意を払い、感謝を申し上げる次第です)


 イオと戦うことを選び、クリスの側についた”星月巡り”一行。だが、彼らの前にはイオを助ける側の者たちが、立ちはだかった。



 ========

「そこまでにしておきな!今までハーヴェスのために戦ってきた彼女を犠牲にするのはあんまりだと思わないか!?」

「知っているとは思うが、冒険者同士の争いはご法度だ……いや、だからと言ってお前たちが退くとは思ってねぇ」

「誰もが、守りたい者しか守れないというなら…あとはもはや、剣で語るしかないということね。負ける気はないわ!」

「この”六龍剣”ゼクスヴィルムにかけて、お前たちを止めて見せる。”疾風の巨人”デューイ=ナハト、いざ、推して参る!」

 ―”疾風の巨人”デューイ=ナハト、”砂漠の猛虎”クリシュナ=カーン、”慈愛の盾”レイカ=ルドル

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 ====ボス戦闘====

“救世の聖女”イオーレ=ナゼル

“疾風の巨人”デューイ=ナハト

“砂漠の猛虎”クリシュナ=カーン

“慈愛の盾”レイカ=ルドル

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 彼らとユーシズ魔導公国で初めて共に戦った時は、手の届かないほど実力レベルの差があった。


 あれから2年。多くの冒険を重ねて、”星月巡り”達の腕前は飛躍的に上がっている。


 だが、デューイ達の強さは、未だそれを凌駕していた。


 恐らく、どちらかが全滅するまで戦うのであれば、一行は敗北していただろう。


 だが、この戦いはイオさえ斃せば良いというものであった。彼らは、全ての能力リソースをそれに費やした。


“星月巡り”一行の半数が斬り伏せられるが、ギリギリのところで、パルフェタ=ムールが持つ”翠星の弓”キルキナエから放たれた光の矢が、イオの心臓を貫いた。


 ========

 イオは、今わの際に記憶を断片的に取り戻したようであった。


「ああ、エノやん……久しぶりだあ。元気そう…そうでも、ないね」

「あと、ドラコさん…折角タージで命を助けてくれたのに、うまく扱えなくて、ゴメン…」

「アタシは、誰かを護りたくて、スワンチカを手に取ったはずなのに」

「どうして、こんなことになっちゃったのかな…」

「きっと、罰が下ったんだよ。アタシはシン将軍のことが好きで、奥さんのこと、邪魔だなって心のどこかで思っていたから」

「蘇生すれば、またみんな争うなら…このまま…」

「スワンチカは…恩人の、ドラコさんに…」

“救世の聖女”イオーレ=ナゼル

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 義憤に滾るデューイ達を鎮めたのは、彼らのかつての仲間のトゥルー=ライングであった。


 また、地方領主勢力を騎士団によって鎮圧しようとしていたシンは、妻のレイラによる、文字通り身命を引き換えにした説得により停戦を決断。


 ========

 騎士団長・シン=シャイターン伯爵は耳を疑った。


 伝令によれば、自分の妻が非武装で戦場に来ていると。


 全ての責任を負うつもりで、出陣したはずであった。自分は騎士である。正しき騎士の誇りとは、主君への忠義を貫くことだと。


 同国人に剣を向けることの咎は理解しつつも、もはやそれ以外の選択肢はないと思っていた。


 すぐに騎乗し、前線へ向かうが、ほとんど手遅れであった。彼女は何の戦闘の心得もないのだ。


 彼が到着したときは、既に多くの戦傷で、妻は虫の息であった。


「……ねえ、シン」


「あなたに、伝わっていたかしら。あなたに死んでほしいと私が言っていたこと」

「地位や生まれを気にして、あなたは努力していたつもりのようだけど」

まことの意味であなたの隣に在れないことが、私には苦痛だったわ」

「それが、私への気遣いだったとしても」

「そして私は最期まで、あなたを見限るのよ。一度しか言えないから、良く聞いて」


「友を、仲間を裏切り、守るべき者に剣を向けるようなことが、騎士の誇りなのですか!」

「私にそんなあなたを見せるくらいなら、このまま、ここで殺してよ!」


 ―セッション内描写より

 =========


 イオとレイラの死の報を受けた"梯の姫"アイリス=ハーヴェスは衝突を回避した"反乱軍"に、ただちに解散の命を発令した。


 これにより、領主間の争いの力点となっていたイオが排除されたこともあり、ハーヴェス王国の血で血を贖う内戦はギリギリのところで回避された。


 しかし代償として失ったものはあまりにも大きく、この世界はタージの制御手段と巨人への対抗手段を失ったのだ。


 戦後処理を進める間もなく、絶望と共に"終末の巨人"がハーヴェス王国に迫る。


 そんな折であった。”忘れられた都市”タージで袂を分かち、蛮族側に寝返ったはずの金色の瞳の女が彼らの前に現れたのは。


「”終末の巨人”を倒す手段があるわ。あなた達にその覚悟があるならね…」


“最後の聖戦士”オルエン=ルーチェが囁く言葉は全てを覆すのか。


 それとも、それは悪魔の囁きなのか…


 次回へ続く。



【今回の登場人物】

 セッション参加キャラクター

 エノテラ=テトラプテラ(バード10)

 ドラコ=マーティン(コンジャラー10)

 セルゲイ=ゲラシモア(アルケミスト10)

 サフラン(ソーサラー10)

 ライエル=クラージュ(ファイター10)

 パルフェタ=ムール(フェアリーテイマー10)





“救世の聖女”イオーレ=ナゼル 

 種族:ティエンス  性別:女性 年齢:19歳 


 前回「燃ゆる陽炎」より引き続き登場。

“守護の斧”スワンチカの継承者で聖戦士イーヴの末裔。理由は不明だが、”終末の巨人”は彼女と戦場で相対した時に破壊を止め戦場から離脱したため、マカジャハット王国を救った英雄としての扱いを受ける。

 だが巨人がハーヴェスに向かう中、あまりにも多くの勢力が彼女の力を利用しようとするあまり、ハーヴェス王国に元々存在していた政治的不安定が加速して内乱にまで発展する一因となってしまった。

 余所者かつ記憶喪失の彼女は人間の政治的争いを止めることが叶わず、さらに、自分を守り導いてくれたシンに想いを寄せていたことから、彼の妻のレイラを排除出来るかもしれないという昏い期待も抱いてしまっていた。

 ハーヴェス王国の人々を助けるために再び巨人と戦う意思を固めてはいたが、彼女を除くことで内乱を止めることが出来ると政治的に判断したレイラの意を受けたクリスと、クリスの嘆願を受け味方に回った”星月巡り”達との争いによって倒れる。

 彼らは、世界を救うために命を助け、ここまで守ってきたはずのイオを自らの手で殺してしまったことの暗雲からは逃れられるはずもなかった。

 冒険者時代の仲間であったエノテラは、彼女のことを唄にして残すことを決意した。自分たちの愚かさを忘れぬために。

 ティエンスという種族的立場から道具になりたくないという想いで冒険の旅に出た彼女の旅の終着が、最期は政治的争いの道具になってしまったことは大きな皮肉と言う他ない。



 レイラ=シャイターン伯爵夫人

 種族:人間 性別:女性 年齢:27歳 


 第一部最終話「しろがねの姫を討て」以来の登場。

 ハーヴェス王国で王室議会書記官を務める才媛。実現はしなかったが、一時は王妃候補とも噂された、名門の出自かつ高等教育を受けたエリート。

 夫はヴァイス王の忠臣、騎士団長シン=シャイターン伯爵。父は反国王派の領袖で名門貴族のトーラス=ブロフィード公爵。イオが”終末の巨人”を退けたことをきっかけにハーヴェス王国内部の対立が深刻化する中で、両陣営に通じることから最大戦力を持つシンを懐柔するための手駒として様々な勢力から狙われていた。

 だが彼女は持ち前の聡明さと政治的センスでこれを回避しつつ、身を潜めていた。

 世界を救いうる能力がある個人がいるとしても、何も知らない無力な民を犠牲にするなどあり得ないという信念の元、イオを排除することで内乱の鎮静化をすることが出来ると判断し、彼女の暗殺を計画。クリスを手駒としつつ、夫のシンが内乱の中で恨みを受けることのないように暗躍していた。

 しかしシンはヴァイス王への忠義を尽くそうとする余り、反王国派が集めた戦力を騎士団で鎮圧することを決めてしまう。内乱が終わっても同国人に剣を向けた先に未来などないと考えたレイラは、夫を止めるべく、非戦闘員にも関わらず戦端が開かれた戦場へ単身で突入。戦闘に巻き込まれ致命傷を負う。文字通り一命を賭してシンの元に辿り着き、争いを止めるよう訴え、彼の腕の中で息絶えた。

 周囲にはこの夫婦を不仲だと見る向きもあったが、それは互いの立場の違いによるものであり、本来この2人は互いを愛し合っていたはずだ。

 シンは爵位がより上のエリートでありながら自分を選んだレイラに後悔をさせまいと。

 レイラは身分など関係なく正しく強い心を持つシンを支え、足枷になるまいと。



“梯の姫”アイリス=ハーヴェス (※公式NPC)

 種族:人間 性別:女性 年齢:16歳


 第一部第4話「旧世界より」以来の登場。

 ハーヴェス国王ヴァイス=ハーヴェスの妹。若年だが国民的人気が高くカリスマ性に優れる。

 英邁だが政治基盤が弱い兄王と良好な関係を築き、政治的サポートを行っていた。偶発的事故と言ってよい出来事をきっかけに、迫りくる”終末の巨人”とそれを撃退しうる”救世の聖女”イオーレ=ナゼルを巡って国内の勢力関係が急速に険悪になる中、最悪の事態と戦後まで見据えてハーヴェス王国そのものが滅ぶことがないよう、兄と訣別する選択をとっていた。

 苛烈な選択は王族としての教育の賜物ではあるが、本来はヴァイス王と争い合うことに大きな悲しみと重圧を背負っていた。騎士団と反乱軍の軍事的衝突が回避され、イオやレイラの死をも利用し、内乱を寸前で終結させることに成功する。



“魔眼の射手”トゥルー=ライング

 種族:エルフ 性別:男性 年齢:67歳


 ハーヴェス王国で、辺境開拓地の防衛指導を主な業務として行う農政政務官。元はハーヴェス王国でもトップクラスの冒険者グループ”星光の塔”の一員であったが、聡明さと実務能力の高さをふとしたきっかけから認められ、準騎士として王国に登用され、貴族の末席に連なる能吏として活動している。二つ名は冒険者時代のもの。

 地方貴族に拘束された”星月巡り”の噂を聞きつけ、多くを知る現場担当者の責務として彼らに国内の行動の自由を保障する段取りを進め、彼らの会談の場を設ける手助けを行った。

 イオを巡ってかつての仲間たちと”星月巡り”一行が対決し、戦士としての勝負には勝ったが冒険者としてイオを守るという目的を果たせす憤慨したデューイ達の前に現れ説得し、”星月巡り”一行に類が及ぶのを防ぐ役割を果たした。

 立派なエルフの成人だがその身長は一般的な人間よりも低く、しかも童顔かつ中性的な顔立ちと、一部の貴婦人に大きな人気がある。




“護国の騎士”シン=シャイターン 

 種族:人間 性別:男性 年齢:28歳


 前回「燃ゆる陽炎」に引き続き登場。

 ハーヴェス王国の騎士団長。ヴァイス王の命で単身ドーデン地方に渡り、タージ脱出後はイオを守りながらハーヴェス王国へ帰還。”終末の巨人”に狙われたマカジャハット王国を救うため、イオやラージャハ帝国騎士団と共同して巨人と戦い、これを退けることに成功する。

 その力を利用しようと、イオを誘拐して拘束しようとした反国王派の蒙昧な貴族に対して剣を用いてこれを阻止した結果、親国王派と反国王派の諸侯関係が決定的に険悪となるきっかけを作ってしまう。

 騎士団は内乱の勝利の鍵を握る最大の戦力と目されていた。シンは指揮官としても騎士としても正しく一流だが、政治家としての能力はさすがに足りぬ部分があった。タージを蛮族から取り戻すこと、終末の巨人に対抗すること、この2つのためにイオが必要なことも重々承知しており、彼女を犠牲に国を守ることなど考えもしなかった。

 ヴァイス王への忠義を優先するなかで、騎士として「正しい」判断を周囲に迫られる中、騎士団を用いて反国王派諸侯の戦力を鎮圧する選択をする他なくなってしまう。

 最愛の妻の命を引き換えにした説得で停戦を決断し、ハーヴェス王国の民同士が争う内戦を食い止めることが出来た。だが、レイラとイオの両方を守れなかったことは、彼の心に大きな影を落としたであろう。



“白金の戦乙女”クリスティーナ=コーサル 

 種族:人間 性別:女性 年齢:16歳


 第三部第3話「夜明け裂く流星の如く」以来の登場。

“曙光の槌”クラウストルムの継承者で聖戦士ティダンの末裔。王都側の貴族がイオを手放さない中で、同じ継承者のクリスであれば巨人に対抗出来ると考えた辺境側の貴族によって担がれそうになっていた。

 だが自身はスフバール聖鉄鎖公国における巨人との戦いで、自身に巨人を止める力がないことが判っており、戸惑いながら逃亡していた。

 タージの力を望むハーヴェス貴族達の活動によって自身の出身である隠れ里の存在が露見し、村が蛮族に滅ぼされる間接的なきっかけを作った可能性があることを知り煩悶するが、その負い目を知ったが故に自身を積極的に保護し教育してくれたブロフィード公爵家の一族に対して恩義を感じており、その筆頭であるレイラの意を汲んでイオを謀殺する機会を伺っていた。

 イオを護衛するデューイ達の前に実行が出来ないでいたが、騎士団と反乱軍が戦い始めた混乱を利用してイオに接近。同じ場に居合わせた”星月巡り”一行に嘆願して共闘し、イオを斃すことになる。

 戦後は”星月巡り”や他の恩義ある者たちに罪を着せないため、自分が全ての計画を行い実行したと宣言した。”救世の聖女”を殺した罪を問われ、死罪を前提として投獄される。




【次回予告】


 現実は、いつだって砂の味がする。


 人の愚かさを忘れさせてくれるような、世界を救う存在を求めて


 人はいつだって、英雄を生み出し、葬ってきたのだ。


 だが、そんな物語を誰が望むというのか?


 伝説の残骸から絶望を突き付けられようとも


 大いなる意思が偽りの希望を囁こうとも


 いつだって、小さき人は剣と魔法に拠りて未来を斬り拓いてきたのだ!


 殻の中の魂が咆哮するとき、世界は黄昏に染まる――


 ソード・ワールドRPG第三部最終話「星雪の降る日」


 冒険者達よ、剣の加護は汝と共に。


















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