第三部第3話「夜明け裂く流星の如く」

“終末の巨人”と、対決する。


 ハルシカ商協国で”曙光の槌”クラウストルム、アヴァルフ妖精連邦で”翠星の弓キルキナエ”を入手した”星月巡り”一行は、スフバール聖鉄鎖公国へ向かっていた。


 この数ヶ月で巨人が歩みを止めることはなく、ウルシラ地方に侵入後は進路を北にとり、セブレイ森林共和国壊滅の情報が入っている。巨人はさらにその北、スフバール聖鉄鎖公国を目指しているようだ。


 アヴァルフ妖精連邦の国境の森を抜け、緩衝地帯まで辿り着いた一行であったが、そこでキャンプを張っていた行商人から護衛の依頼を受ける。


 なんでも、スフバールの国境周辺地域では強力な山賊が行商人を襲撃しているそうだ。山賊程度、一流の冒険者であれば苦も無く撃破出来そうなものだが、未だ討伐に成功した者もいないらしい。冒険者ギルド本部がタージに砲撃されて以降、ギルドの横の連絡機能が低下している影響があるのかもしれない。


 責任の一端を感じた一行は行商人たちの依頼を受け、公都ウルガまでの旅程を共にする。街道半ばで、予想通り襲撃を受けた。


 襲撃者のことを行商人は山賊と称したが、それは2騎の竜騎兵であった。銃も魔法も届かぬ上空から、クロスボウと投槍で攻撃を加えてくる襲撃者。その動きは統率されていた。


 普通の冒険者であれば対抗手段がない可能性もあったが、幸い”星月巡り”の1人、ハルーラの神官戦士のオリヴィエは、天馬騎兵ペガサスライダーでもあった。騎獣に騎乗し空中戦の構えを見せると、竜騎兵たちは対抗手段を持つ相手との戦闘は避ける方針なのか、すぐに撤退した。


 今の襲撃者は明らかに、ランドール地方の鮮血海を根城とする”勇者王”エルヴィン=クドリチュカの手勢の竜騎兵であった。鮮血海からスフバールまでは陸路の難所が多く感覚的には遠い。空を飛べる前提なら精々1日以内の距離ではあるが、遠国と言っていいこんなところで何をしているのか、一行は訝しむ。


 行商人を護衛して一行はスフバール聖鉄鎖公国の公都ウルガに入国する。アヴァルフ妖精連邦から連絡が届いていたのか、一行のことは官吏が出迎えの上でスムーズに国主たるリジヤ=アルゲエーヴァ公主に取り次がれることになった。しかし、「彼らの事情」により、天馬騎兵のオリヴィエのみ、入城はご遠慮頂きたいということであった。


 仲間たちは不思議がるが、オリヴィエは素直に従った。


 スフバール国主、リジヤ=アルゲエーヴァ公爵に拝謁を賜る一行。彼女は、オリヴィエに良く似ていた。並べば別人とわかる、他人の空似程度ではあったが。


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「アルゲエーヴァ公爵、スフバール公主リジヤと申します。アヴァルフ妖精連邦より我らを救援のため参じたとのこと、国主として感謝を申し上げます」

「また、道中は物資を持った行商人を護衛しウルガまで連れてきたことに重ねて御礼を申し上げます。いま、スフバールは物流や使者を止められ苦境にありました」

「ランドールの勇者とやらが派遣している忌々しい竜騎兵団…彼らが空から我が国を監視し、隣国のエユトルゴ騎兵国への救援要請や、兵糧ほか物資の調達をせき止めている状況にあるのです」

「彼奴らがどのような意図を持って巨人と戦うこともせず、我々の邪魔をするのかわかりません。その真意を質そうにも、ランドールへの進路には巨人がいてままならない」

 ―”導きの小公主”リジヤ=アルゲエーヴァ

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 神器を持つ”白銀の戦乙女”クリス、そして”陰月の姫”パルフェタは、巨人の正体がかつて聖戦士オーブレイが作り出した兵器であり、ハルシカ商協国が難を逃れたのは同じ聖戦士の武器が効果を発揮したかもしれないため、巨人の迎撃に参加することを申し出た。


(※GM注:パルフェタ=ムールは今回の参加プレイヤーではありませんが、物語の展開上NPCとして行動の描写があります)


 リジヤ公爵は、優秀な冒険者の協力は何よりも心強いと、彼らを臨時に騎士団に編入させる手続きを進めた上で、ライエル=クラージュとシガレット=カルカンスキーの2名には別の任務を依頼した。


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「あなた達には、我が国周辺を荒らしまわる竜騎兵団の調査と、可能であれば懐柔を依頼したい。その方は竜騎兵団を退けるだけの実力があると聞く。彼らの目的を質し、我が国を妨げる行いのないよう、説得してもらいたい。聞き入れないようであれば、排除も許可します」

 ここまでを毅然と指示した彼女は、その後雰囲気が少し和らいだように見えた。

「それと、もうひとつ言伝を…しばし、人払いをせよ。これは彼ら以外聞いてはならぬ」

 彼女は玉座から立ち、一歩だけあなた達に歩み寄った。心持ち小声で、彼女は言う。

「ここにはいない、あなた達の仲間に伝えてください。『あなたの居場所はここにはない。だが、私は変わらずあなたに感謝している』と」

 彼女はやはり、オリヴィエと何らかの縁があるようだ。

 ―セッション内描写より

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 リジヤ公の執事が”星月巡り”一行に、オリヴィエを謁見のメンバーから故意に外した非礼を詫び、事情を説明した。


 オリヴィエは元々この国の出身であり、たまたま容姿が似ていたことから、リジヤの影武者として育てられていた。

 幼少期はリジヤと同等の教育を受け、魔神や蛮族の暗殺者に対する備えとされていた。

 そして実際に暗殺者への囮として配置され、蛮族の暗殺者が彼女を狙った。彼女はリジヤの身代わりとして死ぬことを期待されていた。だが、不幸な偶然が重なりリジヤの父親である前公爵が死ぬ事態となり、しかもオリヴィエ自身は生き残ってしまった。

 心ある者はオリヴィエに責任がないと理解していたものの、国主たる公爵が殺されてしまったことを政治的に収束させられるわけもなく、オリヴィエは責任を問われ追放処分となった。まだ幼いリジヤを新たな国主として戴き、国家を運営するにはそれしかなかった。死刑にさせなかったのが、せめてもの良識派の抵抗であった。



 そのころ、一人残されたオリヴィエを訪問する者がいた。スフバール最強の騎士と言われるガブリル=アザロフ。彼はオリヴィエと同じティエンスであり、旧い知己であった。


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「お久しぶりです。健勝なようで何よりです」

「まさか、また会うことがあるとはな。俺は相変わらず寝てばかりだ。起きるときはいつも、故国の危機さ」

「あれから、ガブリル様のような国家の剣となるティエンスに咎は及びませんでしたでしょうか」

「心が弱き者の中には噂を立てる者もいた。愚かなことだ。だが、そのような者たちでも守るのが我らの役目。お前が臆病者だったとは思わないが、誰かが責を担う必要があった。それだけのことだ」

「リジヤ様にお伝えください。『今でも、共に在れたことは私の誇りです』と。もし支障がなければ『友人として』も加えて。出来れば、お会いしたかったのですが…」

「機会があれば伝えよう。だがリジヤ公に会うことは残念ながら適わないだろう。お前はここにいない方がいい。いれば、また余計なものを背負わされる」

 ―ガブリル=アザロフとオリヴィエの会話より

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 別行動のオリヴィエと合流の上で、行商人護衛の報酬受け取りと、竜騎兵団の情報を得るため冒険者ギルドのウルガ支部を訪れた”星月巡り”一行は、思わぬ面々と再会する。


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 冒険者の店の店主と、虎の耳を備えた精悍な顔付きのリカントが話をしている。


「マスターよ、3週間ぶりだな。頼んでいたハルシカへの船便は確保できたのか?」

「ああ、何とかな。しかし、あんた達ほどの冒険者でも、ダメだったか…」

「デューイの馬鹿はまだ戦いたがっていたが。あれは災害だろうな。人の身ではどうにもならん」


 彼らの会話に聞き覚えのある単語が入り、耳を傾けようとすると、虎のリカントが消える。


 気付けばライエルの首筋に、その男の手刀が添えられていた。


「お前ら、あの”星月巡り”だな?」

「ああ、あなたの言う通りだ。早いな…見えなかった」

「疾きこと風の如く。俺様のためにある言葉よ!」

「タージと巨人を起動させた張本人。冒険者ギルド本部を壊滅させた重要参考人として、手配書が回ってるぜ…」


 その構えられた手刀にそっと手を添え、ライエルから離した女性が割って入る。


「はいそこまで。クリシュナ、あまり脅かさないの」

「いつも思うが、レイカは見立てが甘すぎる」


 3人目で店に入ってきた大剣を背負う剣士が、破顔一笑で声をかけてきた


「あんた達、ユーシズ以来か。久しぶりだな!噂は聞いてるぜ。いい噂も、悪い噂も。是非、あんた達の事情ってやつを聞かせてくれ」


“疾風の巨人”デューイ=ナハトが握手を求めてきた。


 ―セッション内描写より

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 ユーシズ魔導公国でハーヴェス王国の外交使節団を護衛する冒険を共にした彼らは、かつて《大破局》を集結させたとされる勇者が使っていた剣を探索していた。

 彼らはタミール山脈に住む古龍カルフと戦った。かのドラゴンは、彼らの探していた宝物を所持していたからだ。そして、激しく対等な戦いの末、その実力と勇猛さに敬意を表したカルフは、彼らに剣を与えたのだ。


「これがその、”六龍剣”ゼクスヴィルムだ。立派なもんだろう?」

「随分得意げだけど、あの時どちらかが倒れるまで戦っていたら、難しかったと思うわよ」

「わかってるって、レイカやクリシュナのおかげさ」


 伝説の勇者の剣ゼクスヴィルムを手に入れた彼らは、セブレイ森林共和国に侵攻していた”終末の巨人”と対決する。だが”終末の巨人”は、龍にも認められる強さを持つ彼らですら、手に負えないものであった。セブレイの民が逃げるためのわずかな時間を稼ぐことが精一杯であった。


「スフバールには申し訳ないけど、船が確保できたので私たちは今のうちにハーヴェスに戻ることにしたの」

「セブレイで人々が逃げる時間を稼いでくれ、ということで戦ったんだが…ひでぇ依頼だった。ギリギリまで粘ったが、それでも逃げ遅れた奴らにはずいぶん悪く言われてうんざりしたさ」


 デューイ達の情報から、スフバールを荒らす竜騎兵たちの根城はタミール山脈にあるのではないかと、”星月巡り”一行は推測した。竜騎兵団の長、”天翔ける流星”トゥーマ=ゼイルの騎乗する飛竜は、カルフの子供という縁があったはずだからだ。


 雪に覆われるタミール山脈の探索を始めると、予想通り竜騎兵団の襲撃を受け、団長のトゥーマとも顔を合わせる。

 トゥーマとはハルシカで行動を共にした点を生かして交渉し、リジヤ公爵の依頼は隠した上で、”竜姫の牙”カルフが持つであろう聖戦士の神器、”天空の槍グングニル”を借り受ける嘆願をするため、カルフに会わせて欲しいと頼み込んだ。


 トゥーマは彼らの来訪を迷惑がったが、それでも義理堅く、竜の巣へと案内する。ドラゴン語の会話が可能なオリヴィエは”竜姫の牙”カルフに対して、かつて聖戦士達と共に戦った”終末の巨人”が暴走し、世界が危機に瀕していること、聖戦士の神器を用いて巨人を止めるため、力を貸してほしいことを頼んだ。


 それに対してカルフは、ドラゴンは昔の記憶がひどく曖昧になるとしながらも、かつて巨人とも肩を並べた経験をおぼろげに思い出した。


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「オーブレイの巨人は、命令などで自動的に動く魔動機とは違う」

「”オーブレイの秘術”により魂のみとなった人族が内部から自律的に稼働させるものだ」

「魔神王を倒したあと、その”人柱”は巨人から解放されたはずだから、新たな魂がなければ稼働しないはずだ。まあ蛮族との戦いに投入したということは新たな”人柱”を用意したのだろうが…どうしていたのかは思い出せん」

「聖戦士の神器が巨人を止める材料に、とな。そんなものは無かったはずだ」

「途中でルートを変えたのは、中にいた魂が、そう望んだからだろうよ。彼奴はこのウルシラ地方に来る何らかの理由があったのだ」

 ―”竜姫の牙”カルフ

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“竜姫の牙”カルフの証言に嘘はなさそうに見える。ならば、神器を用いれば止められると誤解しているクリス達が危ない。

 "星月巡り”はこの情報を伝えるために戻ろうとするが、竜騎兵団に包囲されタミール山脈脱出を封じられる。彼らはスフバールにこのまま滅んで欲しいのだ。鮮血海の根城が手狭になってきた”勇者王”エルヴィンとその一派は、スフバールと公都ウルガが巨人の蹂躙を受けた後、跡地を占拠して新たな根城にするつもりだったのだ。


 空を飛べる騎獣ペガサスを持つオリヴィエが単身脱出するものの、上空で”天翔ける流星”トゥーマ=ゼイルの追撃を受ける。


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「エルヴィン王の客人だった貴方たちとは知らぬ仲ではないが、これ以上行かせるわけにはいかないな!」

「どうして、邪魔をするのですか!まだ、間に合います!勝てるかどうかはわからないけど、犠牲は減らせるかもしれない!」

「セブレイで”星光の塔”達が受けた仕打ちを聞いただろう!民衆など、いもしない英雄の幻想を求めて、敗れれば唾するような奴らだ、そんな奴らのために損をする奴がどこにいる!」

「ガブリル様は言っていたわ。それでも、皆を守るのが強き者の役割だと!あなただって、本当は強いはずなのに、こんなことに手を染めるのは止めてください!どうしても聞いてくれないのなら、助けてくれた恩があるあなたを倒してでも向かいます!」

「いいだろう、その挑戦を受けよう!あまり私を侮るなよ…天馬騎兵ペガサスライダー風情が、竜騎兵ドラゴンナイトに勝てるものか!」

 ―”天馬騎兵”オリヴィエと”天翔ける流星”トゥーマ=ゼイルの戦いより

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 一騎討ちとなったが、騎乗して槍を振るう一般的な騎士の戦い方をするオリヴィエに対し、トゥーマは飛竜の機動力で距離を取りながらクロスボウで射程外から攻撃するスタイルであった。

 おまけに月明りがあるとはいえ周囲は暗く、魔法の品物ナイトゴーグルで正確に戦場を把握するトゥーマに対し、夜目の効かない暗視を持たないオリヴィエでは勝てる要素がなかった。ペガサスがクロスボウの太矢で蜂の巣となり、最後の力を振り絞って開けた丘に不時着するも、動けなくなってしまった。


 トゥーマはオリヴィエを進んで殺したいわけではないとしながらも、やはり主君の命令は絶対だという。オリヴィエはトゥーマに対し、力あるものの言う通りにするのは責任を負わなくて楽なだけで、今の状況は本当の英雄たるあなたが望むことではない、と説得しトゥーマは多少動揺するが、それでも優位が覆るわけではない。


 彼らの殺し合いを止めさせたのは、”竜姫の牙”カルフであった。


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「このタミール山脈は我がねぐら。幻獣は我が配下のようなものだ。”天翔ける流星”よ、娘の相棒として便宜を図ってきたが、我が庇護を今後も得たいのであれば、これ以上の狼藉は控えよ」


「大体、あなたはリジヤ公に責任を押し付けられて追い出された身だろう。恩義もない主君にそこまでして仕える理由は、なんだというんですか?」

「少なくとも私は、彼女を、友達だと思っているから…!」

「友達だって?リジヤ公が?」

「ええ。沢山の人に嗤われるかもしれませんが、それでも私の心は変わりません」

「流星よ、エユトルゴ騎兵国から逃げてきた時の貴様を思い出すな」

「いやな思い出ですよ。私は…リジヤ公が羨ましいと思う」

「トゥーマさん、あなたはエルヴィン王の腹心として、全権があるのでしょう。あなたがスフバールを滅ぼして取って代わると話をしていたとき、嫌そうな顔をしていました。他に、やりたいことがあるのでしたら、そうするべきだと思うんです!」

 ―セッション内のやり取りより

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“天翔ける流星”トゥーマ=ゼイルは説得に応じ、方針を反転してスフバールを救援した上で報酬を要求することを決意した。さらに、相棒シャミィの親である”竜姫の牙”カルフに対して、”天空の槍”グングニルの貸与を願い出た。


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「グングニルか。流星よ、貴様には何度か語って聞かせたと思うが、かつて我が相棒であった聖戦士ノヴァは被差別種族リカントのための国をグングニルをシンボルにして建国しようとしており、聖戦士のリーダー、"勇者"ライフォスとも約束を交わしていた。だが最後の戦いでノヴァもライフォスも帰らぬ者となり結果的に約束は反故にされ、グングニルは逆にリカントと人間が争うシンボルとなってしまった。その槍を持ち出して、今度は何をしだすというのか?」

「偉大なる龍よ、ノヴァの悲劇から400年。愚かな私にそんな遠大なことはわかりません。彼女オリヴィエになるべく強力な槍と馬を与え、作戦の成功の確率をわずかでも上げたいだけです。彼女もまた愚かで、友人を助けたい一心だけであらゆる矛盾に目をつむり、前に進もうとしている。きっと、人間はそんなものだと思うのです。愚かで鈍いからこそ、人はこの大陸で何度も危機に瀕しながらも、立ち上がってきたのだと思います」

「我が相棒との思い出の品を、”そんなもの”扱いする者がいるとはな!娘の相棒でなければ縊り殺しているところだ。だが、目つきが変わったな。良い眼だ。娘の相棒となることを許したのは、貴様の心が淀んでいながらも、底には光があったのを思い出した。礼を言おう、過去を思い出せないドラゴンに、懐かしき時代を思い出させたのだからな!」

 ―”竜姫の牙”カルフと”天翔ける流星”トゥーマの会話より

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 カルフはオリヴィエに、聖戦士の神器である”天空の槍”グングニルと、新たな騎獣として自らの配下、鷲獅子グリフォンを与えた。ライエル達とも合流し、共にウルガへと戻ることにする。


 夜明け前に飛竜と鷲獅子の背に乗りウルガに戻った”星月巡り”と竜騎兵団であったが、既にスフバール騎士団は"終末の巨人"との戦いに敗れて潰走し、クリスやパルフェタらも重傷を負っていた。さらに混乱に乗じて蛮族の一団がウルガで狼藉の限りを尽くそうと侵攻しており、スフバールの崩壊は時間の問題となっていた。


 ライエルはリジヤ公主の脱出を助けようと申し出たが、リジヤには最後の切り札があるという。


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「スフバール公爵家に伝わる”ハルーラの禁術”を使えば、問題の先送りに過ぎませんが巨人を退けることが出来ると思います」

「……代償ばかり大きく解決するわけでもありませんが、そうも言っていられません」

「スフバール公爵家が以前から魔神や蛮族に狙われるのは、他でもない禁術を守り伝えているからです」

「奈落の魔域を監視するハルーラ様の教えに何故このような術があるのか図りかねますが、今は、どんな犠牲を払ってでも民を守る時です」

「奈落の魔域に追放しても、一定の間を置けば対象は脱出し世界のどこかに再び現れる。さらに術の反動で私は命を失うかもしれません。しかも術は巨人の足元まで行かねば成功しない、危険な賭けです」

“導きの女公主”リジヤ=アルゲエーヴァ

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 指揮経験が豊富な”天翔ける流星”トゥーマは作戦を提案する。


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「地上は蛮族が闊歩している。禁術の発動には時間がかかり、わずかな間でも巨人の動きを止める必要があり、その間リジヤ公爵は巨人の足元にいなければならない。これが前提だ」


「動きを止めるには…あれだけ強大な巨人と言えど、基本は魔動機のはずだ。知覚系はセンサーとマナカメラによって敵と地形を識別している。頭部の目のあたりにセンサーがあるはず。そこを狙えば少なくとも動きは弱まるはずだ。あの装甲だ、恐らく弓は効かない。銃撃マギテック魔法攻撃がいいだろう」


「銃手シガレット、君は私の飛竜に同乗して、巨人のセンサー部を狙撃してください。私も銃は扱えるが、クロスボウの方が専門で銃は得意ではないんです」

「任せてくれ。バッチリ、狙ってみせるぜ。ドラゴンをあまり揺らさないでくれよな!」


「騎兵オリヴィエ、君はもっとも危険な囮の役割を担ってもらう。グングニルがあるとはいえ過信はしないように。巨人と接敵し続ければいい。生き延びてくれ」

「ハルーラ様の加護と共に…命を懸けて、やり遂げてみせます」


「剣士ライエル、君が一番困難な仕事です。蛮族を退けながら、リジヤ公を巨人の足元まで連れてくるんだ。やれますか?」

「必ず、やってみせます。生き別れの師匠タージで別れたヴィオラは、最後に『剣は守るべき者のために使え』と教えてくれました。師匠の剣を受け継ぐのは、今、この時だと!」


 ―セッション内やり取りより

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 夜が白み始め、決戦の時が来た。


 鷲獅子と飛竜、2騎の騎兵が夜明けを裂き、共に”終末の巨人”と戦うべく飛び立つ。


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「冷たき世界に、希望の光と抗う心を!汝は”天空の槍”グングニル。世界に解放を齎すものなり!」


 コマンドワードと共に、古びた槍が輝きを取り戻す。かつて災いを呼んだ槍。今は、災いに抗うために。


 ―”鷲獅子騎兵"グリフォンナイトオリヴィエの描写より


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 オリヴィエが囮となる間に、トゥーマが操る竜の背に乗ったシガレットらが巨人のセンサーを破壊する作戦をとる。


“終末の巨人”の戦力は絶望的なほど高く、グングニルによる渾身の突撃チャージをもってしても、巨人には傷一つ付けられなかった。


 だが装甲を貫ける銃撃はある程度有効な様子であった。オリヴィエが前線で粘る間にシガレットとトゥーマの2名が、本来地上からは届かぬ巨人の知覚部分に攻撃をかける。数度傷つけられた”終末の巨人”は自動修復機能が働き、一時動きを止めた。


 そして、ライエルがその間に蛮族たちを退け、リジヤを巨人の足元まで送り届けた。


 リジヤはライエルの護衛の助けを受けながら、”ハルーラの禁術”を完遂する。


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“終末の巨人”の頭上に星々の輪が突如として現れた。夜明けにも関わらず、その輝きは眩く美しい。


 次に巨人の頭上に出現したのは、まさしく”奈落の魔域”であった。その魔域は凄まじい魔力と共に、巨人を吸い込んでいった。付近で戦っていたはずのオリヴィエは影響を受けていない。正確に、巨人のみに効果を及ぼしているのだ。


 それは長い時間に感じられたか、実際には一瞬だったのかもしれない。”終末の巨人”は、奈落の魔域に完全に吸い込まれ、その存在そのものが消えたかのように、この戦場から姿を消していた。しばらくして魔域そのものも消え失せる。


 ライエルの足元では、リジヤ=アルゲエーヴァが全身から血を流して倒れていた。意識はあるようだが、身体はほとんど動かないようだ。特に腰から下は、リジヤがもがいているにも関わらず、まったく反応しない。


 鷲獅子グリフォンに乗ったオリヴィエが、急降下してきた。リジヤに回復魔法を試みる。怪我は魔法によって治癒したが、身体はいまだ動かないようだ。


「ああ、オリヴィエ。ここにいてはいけないと言ったのに。また、会えたわね。私は、あなたにずっと伝えたかったことがあるの」

「同じ教師から学んでいた子供の頃…あの頃、私はあなたのことを、友達だと思っていたわ」


 ―セッション内描写より


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 奈落の魔域に封印された巨人は一時的な対処に過ぎず、ある程度の時間を置けば巨人は再びこの世界に戻ってくるようだ。


 神器と継承者で巨人を止めることは出来ないと判った今、次に巨人が現れた時はどうすれば良いのか……答えは出ないままだ。


 次回へ続く。



【今回の登場人物】

 セッション参加キャラクター

 オリヴィエ(フェンサー10)

 ライエル=クラージュ(ファイター10)

 シガレット=カルカンスキー(シューター10)



“天翔ける流星”トゥーマ=ゼイル 

種族:人間 性別:男性 年齢:25歳

 ランドール地方を根城とする”勇者王”エルヴィンの腹心にして、大陸唯一の竜騎兵団の長。愛竜シャミィと共に、弩と銃を用いて空飛ぶ竜騎兵の優位を生かして戦う。亜麻色の髪をした、一見は歴戦の騎兵と見えない線の細い青年。

 エルヴィンの命で、スフバール聖鉄鎖公国を巨人による壊滅後に占領するべく、救援要請の使者殺害、行商人を襲撃して物流を止めるなどの非合法な工作活動を行っていた。

 活動の拠点はタミール山脈に住む成龍、”竜姫の牙”カルフのねぐらを利用していた。これは、彼の騎乗する飛竜シャミィが、カルフの娘であった縁による。

 出身のエユトルゴ騎兵国において、自らの主君であり、前線で魔神や蛮族と戦い続けながら冷遇され不満を持っていた第三王子のクーデターを思い止まらせようと活動した結果、計画が露見し第三王子は粛清され、彼の支援者が別の政変を引き起こし、結局多くの者が死ぬ内戦を招いてしまったかつての経験から、「英雄の行動が世界を救う」ことに絶望しており、ハルシカでの難民虐殺や今回の工作活動などの血に汚れた依頼も請けるようになっていた。

 だが本来の彼はカルフにも認められる英雄であり、自分と同じく背負わなくてよい責任を背負わされ望まぬ処分を受けたはずのオリヴィエが、それでも尚リジヤや仲間のために戦う姿を見て方針を変更し、巨人と戦い恩を売ることが主君の覇道の助けにもなると判断して、”星月巡り”一行と共に”終末の巨人”及び蛮族と戦った。



“竜姫の牙”カルフ 

種族:ドラゴン 性別:男性 年齢:不明(1000歳程度?)

 400年ほど前、聖戦士のひとり竜騎士ノヴァの愛竜として魔神王と戦ったドラゴン。現在はタミール山脈の奥地に居を定めている。娘の飛竜シャミィは、現在は竜騎兵トゥーマの相棒となっている。

 当時被差別種族のひとつ、リカントであった"竜騎士"ノヴァは、”翠星の弓”キルキナエをシンボルとしたメリアの王国が成立したように、同じ神器の”天空の槍”グングニルを旗印にリカントの国を創ることを夢見て聖戦士のリーダー、ライフォスとも約束をしていたが、共に最後の戦いで死亡したために結果的に約束が反故となり、取り巻きのリカントが人間たちと争い、さらにシンボルとしてグングニルを利用する内に神器そのものが争いの火種と化していったことをカルフは倦み、グングニルと共に隠遁した。

《大破局》を終結させた勇者エルヴィンの佩刀”六龍剣”ゼクスヴィルムも所有しており、剣を探してやってきたデューイたちの実力と勇気に対する褒美としてその剣を与えた。

“終末の巨人”が人族の味方として魔神と戦っていた頃のことも朧げながら覚えており、巨人は人族の魂を利用して稼働していると教示した。

“天翔ける流星”トゥーマとは義理の息子に似た親密な関係であり、彼の心が淀んでいることを理解しながらも鷹揚に自らのねぐらを貸し与えるなど協力し、期待していたようだ。



“疾風の巨人”デューイ=ナハト 

種族:人間 性別:男性 年齢:27歳

“砂漠の猛虎”クリシュナ=カーン 

種族:リカント 性別:男性 年齢:28歳

“慈愛の盾”レイカ=ルドル 

種族:人間 性別:女性 年齢:25歳


 "星光の塔"というグループ名で活動する、3名からなる冒険者たち。第一部第4話「旧世界より」以来の登場。

《大破局》を終結させた勇者エルヴィン=クドリチュカの佩刀”六龍剣”ゼクスヴィルムを手に入れるためウルシラ地方を訪れていた。タミール山脈で”竜姫の牙”カルフと互角に(本人談)戦い、その勇気と実力を評価したカルフが褒美として伝説の剣を与えている。

 剣を手に入れた後、セブレイ森林共和国において、ウルシラ地方に侵攻した”終末の巨人”からセブレイの民衆が逃げる時間を稼ぐために巨人と対決するが、巨人のあまりの強さに僅かな時間を稼ぐのが精一杯の敗走に終わる。彼らの働きによって多くの人間が助かったが、一方で逃げ遅れた者も多くおり、その悲しみを非難の形でぶつけられたことに憤慨し、海路経由でハーヴェス王国に帰還する予定だったところで、偶然ライエル達と冒険者ギルドのウルガ支部で再会する。

 戦略都市タージによる冒険者ギルド本部砲撃、壊滅した事件において、その責を巡って”星月巡り”に手配書が回り始めていることを警告する。

 元々ハーヴェス王国でもトップクラスの冒険者と評判で、王族にも会える立場であったため、ライエル=クラージュから現状を連絡するアイリス=ハーヴェスへの手紙を預かった。タージが蛮族の手に落ちたことも彼らの咎ばかりではないと理解している。


“白金の戦乙女”クリスティーナ=コーサル 

種族:人間 性別:女性 年齢:16歳

 愛称クリス。前回「白日と青月」に引き続き登場。聖戦士ティダンの末裔で”曙光の槌”クラウストルムの継承者。スフバール聖鉄鎖公国に迫る”終末の巨人”を止めるため、スフバール騎士団と共に出撃する。しかし、「神器の継承者であれば終末の巨人の安全装置が働くのではないか」という考えは甘い期待に過ぎず、実際には何の効力もなかった。騎士団と共に果敢に戦うも、巨人の力はあまりにも強大であり、重傷を負って離脱。自分の無力さに悔し涙を流しながら、戦いの行く末を見守った。戦後は傷を癒すため、一行から離脱してハーヴェス王国に帰ることになった。



“導きの女公王”リジヤ=アルゲエーヴァ (※公式NPC)

種族:人間 性別:女性 年齢:17歳 

 スフバール聖鉄鎖公国の公主。大陸最年少の国家主席だが、人柄は落ち着いており威厳と慈愛を両立する。スフバールの国教たるハルーラ神の大司祭でもある。

 他人の空似程度だがオリヴィエと容貌が似ており、幼少期は同じ教育を受けて過ごしていた。影武者として期待されたオリヴィエがその役目を果たせず父王が害されたときに、政治的バランスから彼女を処分せざるを得なかったことを悔い、オリヴィエには内心で感謝の念を持っている。

 スフバール騎士団が”終末の巨人”に敗れ、蛮族も押し寄せる危機的状況のなか、公爵家に伝わる《ハルーラの禁術》を用いて巨人の頭上に奈落の魔域を発生させ、巨人を封印した。

 封印は一時的なものでいずれ世界のどこかに再排出されてしまうゆえに根本的解決にはならず、自らのリスクばかりが高い手段であったが、周囲の助けもあり儀式魔術を完遂した。術の反動で下半身不随となる後遺症を背負った彼女の前途はあまりにも多難であるが、それでも彼女の盾となり戦ったオリヴィエに友人として接したかった心情を吐露した。

 なお奈落の魔域の存在を流れ星によって導く人族の味方のはずのハルーラ教に、なぜ奈落の魔域を発生させる禁術が存在するのかは、彼女にとっても不明とされる。




【次回予告】


 多くの犠牲を払い、巨人はしばし現世を離れた。


 しかし、何も解決してはいない。


 魔神王を倒せず、巨人を止められず、


 さりとて争いの火種になり得る11の聖戦士の神器。


 これらは何のために存在するのか? 誰がために造られし力なのか?


 その答えは鉄の民が伝える深き迷宮にあるという…


 自由なる風が代言する世界の理と、聖戦士の抱える矛盾。


 人の身で世界を救うためには、どれ程の歪みをこの世界に刻めば良いと言うのか?


 神ならぬ身の英雄たちよ、選択の時は目前に来たれり。


 ソード・ワールドRPG第三部第4話「燃ゆる陽炎」


 冒険者たちよ、剣の加護は汝と共に。


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