3

 気がつくと、あたしはグループホームの、ひいじいちゃんの部屋に戻ってきていた。


今のは、夢……?


 だけど、それにしては、やけにリアルだった。


 ひいじいちゃんは、上半身部分を跳ね上げた介護ベッドの上で、こっくりこっくりと舟を漕いでいた。あたしはベッドのコントローラーを操作して、上半身部分を下げていく。


「光子……」


 ふと、ひいじいちゃんが目を閉じたまま呟くように言う。


「なに?」


「一〇〇歳になったら言うって、約束したな……」


「!」


 ゾクリとした。もしかして、あたしとひいじいちゃんは、同じ夢を見ていた……?


 そして、彼はまだ、その続きを見ているのか……?


「俺はな……あの時、本当に、教員やめて、戦闘機乗りになるつもりだった……でも、おまんにしゃつけられて、目が覚めた」


 ……違う。


 時間感覚が、戻っている。この人は、今が戦時中じゃない、ってちゃんと分かってる。時々、こういうこともあるのだ。


「おまんの言うとおりだ。俺が杉田上飛曹みてえな撃墜王になんて、なれるわけねえこて。せいぜい逆に撃墜されて、靖国神社に祀られるのがオチだろう。だけど、あそこでおまんがダメって言わんかったら、そうなってたかもしんねえ……だすけ、俺はおまんには、ばか感謝してるこて」


 ……。


 そんな……あの時、あたしが、この人を救ったの? いや、あたしや翔ちゃんも含めた、この人の子孫の全てを……?


「あの時の約束の言葉を、言うよ……光子……今まで、ありがとうな。おまんと一緒になれて、俺は……本当に幸せだったて……」


 そう言うと、ひいじいちゃんは、本当に嬉しそうな顔になった。


「ひいじい……ううん、大造さん……」


 声が震える。


「……あたしも、本当に、幸せでしたよ……」


 あたしの頬を、涙が伝った。

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連作短編:大島村シリーズ Phantom Cat @pxl12160

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