第21話 朝の話① 練習の仕方

 いよいよ練習方法だ。

「最初から、全員に発表の中で使ってくださいというのは、無理でしょう。

だから、誰でも簡単に話せ、同じような事でも大丈夫なものを考えました。

それは、」

ここで止まって、みんなを見回した。

何なの?さらりと言ってよという思いと一緒に身を乗り出した。

すると、にっこり笑って、

「自己紹介です。」

と言った。

何?自己紹介?何で?もうやったのに!と俺は思った。

俺の心の声が先生に届いたのか否かはわからない。

でも、先生は、なぜ自己紹介なのかの説明を始めた。

「一つ目に、大体話の流れが同じで構わない。

それは、真似しやすく、みんなできるということ。

二つ目に、話の中で使う技術も使う場所も、同じで構わない。

これも、真似をすれば、みんなやれるということ。

三つ目に、聴き手の何を観て捉えたのか、後で聞けば、同じ部分を見ればいい。

何を観たのかを真似すれば、みんなできるということ。

だから、自己紹介にしました。」

と言った。

そして、

「私の自己紹介カードを自分用に書き込んで使ってもいいよ。

みんなが自己紹介する時も、自分の自己紹介カードを書きます。

自己紹介の後、みんなに印刷して配布します。

書くこと、読むことで3つの力の流れを自分の中に取り込むことが出来ると思います。」

と言い、みんなを観た。

なんだか、面倒だなあと俺は思っていたら、目の間にしわが寄ってきた。


それが分かったのか、先生は、

「何でもそうだけど、繰り返すことが大事。

九九もすごく一生懸命、何回も繰り返し練習したでしょ。

暇を惜しまず、繰り返し練習しましょう。」

と言った。


自分のものでなく、私の自己紹介カードを使って、家族に話してみるのもいいよ。

聴き手の反応を感じられるか、家族だから、安心してゆっくりやれるからいいと思うなあ。

話した後、「間」のこととか、問いかけとかについて、どんな感じがしたか聞いてみるいい。

3つの力が、より自分のものになると思うよ。」

と言った。


でも、俺はまだ、何が何だかわからないと思い、眉間にしわを寄せていた。

それに気づいたのか、先生は、

「まだ、うまくわからない子もいるようです。

それでは、こうします。

明日から私の自己紹介を3つのパターンで行います。

二班ずつその日の自己紹介カードをもって、前に出ます。

前に出る二班には、朝の会の前に、どんなところを見ればいいのか話します。

私の自己紹介の最中に、聴き手の様子を観てもらいます。

みんなの様子を感じるために、どんな技術を使っていたか。

その技術を使ったら、みんなの様子はどう感じられたか。

自分なら何と言おうと思ったかを含め、感想を話してもらいます。

こうすれば、「話をする」はやらずに、

「みんなの様子を感じる」だけに挑戦することができるでしょ。

その中でうまく感じられたなら、自分の自己紹介や話の中でも使っていけると思うの。

慣れてくれば、発表の中でも使えるでしょ。

そうしたら、楽しみながら授業像へグーンと近づくんじゃないかな。

やってみる価値はあると思うよ。

どう?」

と言った。

俺は、そうなのかなあと思った。

みんなもそんな顔をしている。


黙っていると、先生は、続けて、

「じゃあ、明日の朝の会の話からやって行きます。」

と言った。

この先生は、言い出したら止まらないと姉貴も言っていた。

何かよくわからないけど、難しそうだ。でも楽しい授業になるなり、みんな頑張るなら、新しい世界を切り開いてみたいと思った。

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