16

 がしゃんがしゃん、机と椅子を巻き込んでアカネが吹き飛んでいく。投げた勢いで橘も転倒する。顔から倒れこむ。べとつく床に腕をついて身体を起こす。顔が痛い。じわ、じわ、と痛みの感覚が顔全体に広がっている。鼻の根っこに痛みの核がある。折れたか、と橘は考える。骨が、折れたか、と橘は考える。

 アカネは動かない。

 橘は立ち上がる、近づく。

 アカネが動く、今度は椅子を投げてきた。橘は体勢を低く椅子を避けてアカネの下半身を狙う、とりつく、押し倒す。マウントポジション。気息を整える、血を飲み込む。

 橘は気がつく。アカネが流血している。額から左目にかけて血が流れている。しかしアカネはしっかりと橘に視線を据えている。痛そうな素振りさえ見せない。強い、と橘は思う。強い相手だ、と橘は思った――一瞬の思考、その隙をアカネは見逃さない。

 橘の死角で風が唸った。アカネの腕が振り上げられ、その先につかまれている椅子が橘に、叩きつけられた。鼻の奥で、痛みの核が弾けた。身体が意志に反してのけぞる。痛みに全身が痙攣する。視界には何も映っていない。

 白、ただ白い。

 身体の感覚がゆっくりと消えていく。

 咳き込んで気がつく。自分の血で咳き込んで自分が仰向けに倒れていることを、橘は認識する。マウントを獲られていることを橘は認識する。

 ガン、と殴られて視界がまた白に染まる。奥歯を噛んで強く噛んで意識を、ガンガン、繋ぎとめようとガンガンガンガン左右の拳がリズミカルに繰り出されガンガンガンガンガンガンガン白が重ねられガンガンガンガンガンガンガンガン意識がガンガンガンガン真っ白に塗り潰されてガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン、ガン、ガン、ガン、ガン、……………

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