第22話 神栖の原点

 時刻は水曜日の九時半。

 その時、神栖は本を読んでいた。


 どんな本かというと、青春群像劇だ。主人公が何人もいるが、とある一人はいじめられていて、いじめっ子を見返すために努力して、結果的にスーパースターとなる、という物語である。


 この本の主人公に神栖は自分を重ね合わせていた。なぜなら、神栖も学校でいじめられているからである。

 時には、罵倒され、時には物を隠され、ひどい時は殴られた時もあった。


 だが、そんなときに出会ったのがこの本だった。

 ジャンルはライトノベル。


 本屋さんでたまたま通りがかったところ、この本の不思議な魔力に魅了され、気になって手に取りあらすじを読んでみたところ面白そうだから買ってみようと思った。青春群像劇、第一巻。


 早く読みたいなと、目を輝かせながらレジに並んだ。

 これが神栖にとって運命の出会いとなることは疑う余地もない。


 この本の主人公も何度も何度も躓いて人として成長していった。そして、結果としていじめっ子の末路は悲惨に、それに対して主人公は幸せな人生を送ることになった。


「おれもこの主人公みたいになりたい!」


 この主人公みたいに耐えて耐えて耐えて幸せを掴むんだ。

 今は辛くてもきっと幸せは頑張ってれば後からついてくる。そう信じて。

 その本をきっかけに神栖はライトノベルを読み漁ることになっていった。友達が居ない神栖にとって本だけが生きる希望だった。学校から帰ってきては部屋に閉じこもり、ライトノベルを読み漁った。休日も部屋に引きこもった。


 次の日も、その次の日も。毎日、毎日読んだ。時には、次の展開が気になって朝まで読みふけたこともあった。


 読めば読むほど、本というものの虜になった。学校の休み時間や、電車の移動時間なども隙間時間を見つけては読みまくった。その名の通り本の虫になった。

 本のあとがきには、お世話になった人たちへの感謝の言葉であったり、デビューしてからの思い出が書かれていた。


『私がデビューしたのは高校一年生のころで……』


「高校一年⁉ えっ⁉」

 神栖は驚いた。なぜなら神栖とデビューした年齢がほとんど年が変わらないからである。


 その時、初めて思ったことがあった。


「……あ、小説って読むだけじゃないんだ。書くこともできるんだ」


 そこから、神栖の小説家への道が始まったと言っても過言ではない。

『小説は読むだけではなく書くこともできる』ということに気づいてから、書いて書いて書きまくった。それが中学三年生の春のこと。


 中学生の作文の延長線上という形だったが、書いていくようになる。その頃は、まだプロットという概念も知らず、無造作に書きなぐっていた。


 そして、新人賞に応募しようとした初めての作品が  ――ついに完成した。

 それはだんだん寒くなってきた、中三の冬の出来事だった。

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