第2話 葬儀委員長

 えー、喪主並びに親族を代表して一言ご挨拶申し上げます。


 故世美野よみの邦夫くにおさんにおかれましては、入院加療中のところ昨日、午前2時50分ご家族に見守られることも無く永眠されました。享年59歳でした。


 邦夫さんは、痔をこじらせ緊急入院しましたが、普段から酒癖と手癖が悪く家族とも疎遠になっていました。

 近年は、道路工事の仕事と道路警備の仕事にいそしみ生計を立てていました。


 邦夫さんは昭和38年、父乃未央のみおさん、母福子さんの長男として札幌で生まれました。

 小中高と市内の公立学校に学びましたが、この頃から手癖が悪く何度も万引きで捕まっていました。

 一番大きな万引きは中学の時に盗んだ中古のサニートラックだそうです。

 しかし、この時はすぐに捕まりました。万引きと言えるのかどうかも疑問です。

 その後、手に職を着けようと工業高校に進学しましたが、飲酒がバレて退学処分になりました。

 高校中退後、ぷらぷらしていましたが、一念発起し、パチンコで生計を立てようと試みました。

 しかし、博才ばくさいがあるわけではないので、すぐに借金まみれになりました。


 借金取りに追われながらも日雇いの仕事や客引き、バーテンなどで食い繋いでいる時に奥さんの夏須子かすこさんに出会い結婚しました。

 二人の間に子供はありませんでしたが、夏須子さんの連れ子が立派に成長し5人とも社会人として独立されております。


 近年は夏須子さんに別にい人が出来たと言うことで仲違なかたがいし、荒れた生活を送っていました。


 元来が酒と煙草だけで栄養を採っていたような人でしたので内蔵を中心に病気がちの状態が続いていました。


 1週間前に仕事に出勤してこない邦夫さんに不信を抱いた職場の上司が自宅に様子を見に行ったところ、口からゲロ吐き出しお尻から血を漏らして倒れている彼を発見し救急搬送いたしました。


 4~5日ほどICUにて医師初め看護スタッフの治療が施されましたが、「火、ある?」の言葉と指二本立てた姿をのこしてってしまいました。


 現在、治療費と葬儀費用を誰か負担するかで揉めております。


 このあとは、親族にて協議が行われますので、皆様におかれましては、三々五々、お引き取りください。


 本日は誠にありがとうございました。

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