第34話 魔王なのにナンパができないはずがない 1

 祭を二人で巡った際、贅沢できたことにジュディは味を占めたらしい。


「魔王さん、今日も街を巡りませんか」


 あれから毎日のようにこう呼びかけてくるようになった。

 俺も最初は付き合っていたが、ジュディと歩いていると、周りの視線が痛いので、あまり行きたくない。


「気のせいですよ。今さら皆さんが気にするわけないじゃないですか」

「まだ手遅れじゃないはずだ、たぶん。もしかすると。万が一」

「ほらそんなありえない可能性にすがってないで、諦めて出てきたらどうですか」

「ちょっとはゴロゴロさせようと思わないのか」

「その台詞、平日働いてるお父さんが言うんだったらともかく、ニートが言っても説得力がないですよ」

「せめてニート気味とか言ってくれないか? 部屋の外に出てないわけじゃないぞ」

「けど魔王城からは出てないですよね? 家から出てないんだったらニートでしょう」

「そんなこと言ったら、魔人領は俺の庭みたいなもんだぞ」

「ああ言えばこういう人ですねぇ。別に私は人間領でもいいんですよ?」

「戦争を起こすつもりか?」


 実際地下書庫に行こうとして迷ったときは、大事になる可能性もあったのだ。

 会ったのが子供と変人だけだったのが幸いだった。


「その人たちも、あなたに変人とは呼ばれたくないでしょうね」

「いやだって、超人見知りの勇者候補とかどう考えても変だろ」

「あはははは」


 笑いのツボがマジで謎なんだが。


「人見知りすぎて戦えないなんて。超笑えます」

「ちょっと待て、心の中ですらその事実は思い出してなかったぞ」

「じゃあ現在だけじゃなくて、前部分の地の文まで読めるようになりましたかね」

「地の文?」

「いえ、拾わなきゃいけないとこじゃないです」

「……ふうん?」

「と、うまく話を逸らしましたね。そんなにデート行きたくないんですか?」

「ああ」

「じゃあ適当に街なかでナンパしてみます」

 

 俺が何か答える間もなく、ジュディの足音は去っていった。

 彼女のことだから、俺の気を引くための台詞ではなく、やると言ったら実際にやるつもりだろう。


 数日前なら止めていたが、何日か二人で都市を歩き回って、彼女もいい感じに街に馴染んでいるようだ。

 魔都はだいたい人目があるし、ジュディも誘拐されたりはしないだろう。


 ……黄金の塊あげる、とか言われたらホイホイついていきそうだけどな。


 俺は念の為彼女の生体反応に印をつけてから、ベッドに転がって二度寝した。

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