第42話 カネスキー司祭の逃亡2


荷馬車の前を塞いだ武装した騎馬兵の数は最低でも50人はいるだろう。

騎兵の鎧にはゲスーイ伯爵の紋章が刻まれているため、間違いなく伯爵の部下だ。

不味いぞ……、大型の荷馬車に食料と金品を積み込んでることがバレたら、私がカネスキー司祭だと知れたら殺される!



「し、司祭様ぁっ……こりゃヤバいですぜ!」


「ば、馬鹿者っ!?」



大声で叫びやがって、おかげでバレてしまっただろうが!

この男、どこまでバカなんだ!?

訝しげにこちらを見ていた騎士共の目が一気に険しくなる。



「司祭……? なっ!? こいつカネスキー司祭だぞ!」


「本当だ! 貴様、その荷馬車は何だ!?」


「に、逃げろぉぉっ!!」


「へ、へいっ!」



荷馬車をアホーン子爵領へと走らせようとするした瞬間、騎兵と私たちの間に黒い波がなだれ込んできた。

あっという間に荷馬車に纏わりついてきたので思わずぎょっとしてしまったが、よく見るとただのネズミではないか。

しかしかなりの大群だな。

走り出した荷馬車と騎士の間にネズミで出来た黒い川が出来上がるほどだ。



「司祭様、あいつら追いかけてきませんぜ」


「なんだと?」



追っ手に視線を向けると騎士共はネズミの大群の前で右往左往していた。

どうやらネズミに近づくのを嫌がっているようだ。

一体どういうことだ……?



「もしかしてネズミ嫌いなんすかね?」


「そんな訳ないと思うが……。まぁいい、このままアホーン子爵領へ逃げ込むぞ」


「了解でさ! 痛っ……! このネズミ共噛みやがった!」


「鬱陶しいネズミ共だ」



さっきから噛んでくるネズミが鬱陶しい。

小さなネズミのせいかそこまで痛くないが、とても鬱陶しいぞ。

しかしネズミなどよくよく見たことがなかったが、ネズミの歯はこんなに毒々しい色合いだったのか?

黒紫の歯に妙なコブだらけで気持ちが悪い。

愚民共がネズミを嫌う理由が分かった気がするぞ。

まぁいい。次の赴任地ではネズミがいないところにしてもらうとしよう。




Side ゲスーイ伯爵領のとある騎士



「もっと油を撒いて焼き払え!」



街道沿いに現れた病気ネズミの群れを焼き払い続ける。

伯爵家のお抱え医師の話によると、このネズミたちはかなり危険な疫病に罹っているらしい。

幸いここは荒野だ。燃えて困るものは何もない。

病気ネズミどもが村や森に逃げ込む前に全滅させねばならん。

部下達と共に一心不乱にネズミを焼き払っていると、一人の部下がそっと近づいてきた。



「宜しいのですか? カネスキー司祭に逃げられますよ?」



耳打ちしてくる配下の前で深いため息を吐く。

たしかに彼の気持ちもよく分かる。

なにせカネスキー司祭はかなり強引なやり方で寄付金を奪う男として有名なのだから。奴に破産させられた民の数は数えきれない。

そんな奴がゲスーイ伯爵領にやって来たものだから若様……いや、当主様のお怒りは相当なものだった。

あのカネスキー司祭を取り逃したことは業腹だが、今は伯爵のご命令通りに民の命を守らねばならん。



「……伯爵様は民の命を最優先せよと言っただろう? 病気ネズミ駆除が最優先だ。それに連中はもう長くないだろう。遠めだが病気ネズミに齧られているのが見えた。感染力相当強いらしいし、もう感染ずみさ」


「……分かりました。出過ぎたマネをお許しください」


「お前の気持ちはよく分かる。だが今は民の命が最優先だ」



苦虫を嚙み潰したような部下を宥めると、再び病気ネズミの焼却を続ける。

数日掛けてどうにか周辺の病気ネズミを駆除して伯爵邸に戻ると、アホーン子爵領にてカネスキー司祭が疫病で死んだという報告を受けた。

どうやら天罰というのもたまには降るらしい。



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