ミッション9 領地の守りを固めよう!

第36話 港の警備について話し合おう!



「防諜のシステムを整えよう」


「防……? それって何ですか?」



 俺の言葉にシュリは首を傾げる。



「簡単に言うと敵の情報収集を防ぐことさ。港が完成して船が来れば人の流れも多くなるだろう? その前に作っとかないとな」



 俺の視線の先では完成目前まで作られた港が見える。

 バカボン侯爵家での活躍から一ヶ月。

 俺たちは侯爵家から有能な作業員と港を運営するノウハウを手に入れ、そして公園で見つけた埋蔵金による莫大な予算を使ってかなり大きな港を作ることに成功した。

 俺たちも「色々と」手伝ったおかげで、もはや港というより要塞である。

 並みの海賊団では歯が立たないだろう。



 というかこの海――カリス海というらしいが、とにかく海賊が多い。

 シュリの話によるとカリス海は水深が浅く、大型の水棲の魔物が出没しないらしい。つまりカリス海は安全な海路であり、商人が好んで使う運搬ルートなのだ。

 このカリス海に面している土地すべてが商人たちの商圏といっていいだろう。

 当然ながら積み荷を狙う馬鹿どもが出現する。

 それが海賊どもという訳だ

 もちろん海賊どもを野放しにしていればその海路周辺に商船が来なくなるため、領主はすぐに討伐隊を組み、追い払ってきた。



 領主や国軍からすれば海賊など定期的に湧く害虫と同じだった。

 あの日、異国から海賊王が来るまでは。

 シュリの話によると、今から70年前に数名の海賊がやって来たことで全てが変わってしまったらしい。

 1人1人が一騎当千の如き戦力を持つその男たちは、あっという間に周辺の海賊をまとめ上げると、海賊王を名乗りだし、手当たり次第に暴れ出したのだ。

 重い腰を上げた各国の水軍が討伐のために立ち上がったが、なんと全滅したらしい。



 海賊王とその仲間はカリス海だけでなく東アメトリス海岸も荒らしまわり、捕らえた人々を奴隷として売りさばくという外道な行為に出た。

 人間だけでなく、優れた魔導士ばかりのエルフの国すら攻め落とし、彼らを奴隷にしたこともあるらしい。

 中々とんでもない話だ。

 この地方に奴隷市場が根強く残っているのは、すべて海賊王の仕業とのこと。



 しかもこの海賊王とやら討伐されたのは20年ほど前らしい。

 つまり50年間無敗だったという訳だ。

 ただの海賊が各国を相手にして50年持つとかマジでビビる。

 その悪逆非道な行いは伝説となっていて、今でも海賊王を恐れる者は多い。

 ちなみに海賊王の名は『キトー』、二大幹部の名は『サトー』と『イトー』らしい。



 キトーはよく分からんが、幹部の名前は聞き覚えがある。

 もしや佐藤や伊藤か……?

 海賊王と幹部連中って黒髪黒目だったらしいしな。

 まさか海賊王って日本人か……?

 いや、証拠もないのにそんなことを考えるのはよそう。

 俺は頭を振って雑念を振り払うと、シュリに向かい合う。



「とにかく、如何に堅固な要塞とて内部から手引きされると弱い。本格的に人の往来が多くなる前にどうにかしないといけないんだ」


「なるほど、秀也様のおっしゃりたいことはよく分かりました。しかし私たちにはどうすればいいのか分かりませんので……。どうすれば良いのですか?」



 少し悩んだ様子のシュリが腕を組み、上目遣いに俺を見上げて来る。

 ぐっ……!? 硬派な俺には中々刺激が強い光景だ。

 小柄な割に大きめなシュリの胸が腕に乗り、深い谷間が出来あがり、思わずそこに視線が吸い込まれそうなのを気合で耐える。

 いかんいかん! 気を鎮めねば……! 

 俺は平常心を保ちつつ、ゆっくりと口を開いた。



「いくつかプランがあるんだ。この前に山で捕まえた寄生型の怪物とモツゴロウが仲良くなってさ! 山賊とかに寄生させて密偵として働いてもらおうかなと……」


「却下です」


「え、ダメ? じゃあ海で捕まえた海竜とかいうのを港に放し飼いにするのはどうだ? モツゴロウが調教したんだ。きっと海賊除けに……」


「怖すぎますよ!? というかモツゴロウさんは本当に人間なんですか!?」



 両手を交差してバツ印を作ったシュリが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 これもダメか……。

 人件費掛からないからいい案だと思ったのだが。

 ん? 足音が近づいてくる……。

 これは手練れだな。



 俺はシュリに黙っているようにハンドサインを出すと、シュリは慌てて物陰に隠れた。腰のナイフに手をかけると、俺はドアを見張って相手の出方を伺う。

 む? この独特な足音は……。



「……モツゴロウか?」


「あっ、ゴメン! 報告したいことがあって持ち場を離れたんだ。大丈夫、動物たちが見張ってくれてるから」



 すまなそうにドアを開けてきたのはモツゴロウだ。

 足音を殺していたからつい警戒してしまった。

 持ち場を離れるほどの事件があったのか?

 いや、そんな事件があれば雰囲気で俺だって気づくはず。

 どうせ珍しい動物でも見つけ、飼っていいかどうか聞きに来たのだろう。



 まあちょうどいいかもしれない。

 人件費をかけずに防諜システムを作るには、モツゴロウの動物ネットワークが絶対に必要になる。

 ここでシュリと一緒に話し合った方が早いだろう。

 俺が口を開こうとする前に、モツゴロウが興奮した様子で叫んだ。



「秀也、可愛いお客さんが来ているよ!」



 可愛いお客さん……?

 それって人類なのだろうか?

 モツゴロウのやることはこの天才でも予測できない時がある。

 俺は久々に不安な気分になった。


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