ミッション8 悪徳富豪を懲らしめろ!

第31話 ここは公園か?

「よし、ここで休憩していくか」


「おっし。じゃあさっき屋台で買ったの全部広げようぜ!」

「絶好のピクニック日和だな!」



 俺たちはバカボン領の首都にある公園で小休止を取ることにした。

 たまには休みを取らねば参ってしまうしな。

 俺たちはシートを広げると、屋台で買い込んだ焼き鳥やサンドイッチを頬張る。

 うむ、塩が効いていて旨い!

 焼き鳥を食べながら緑豊かな公園を眺めると疲れが取れていく感じがする。

 やはり来てよかったな。



 良い景色を見ながらふと思い出す。

 先日の先日のドラゴンレースで聞いたドーラファミリーの件だ。

 あっさり片がつくと思いきや、中々面倒なことになっただよなぁ。

 ドーラ商会はすぐに見つかったのだが、なんか全体が悪いのではなく一部のみが腐敗しているようなのだ。

 たしか前会長の叔父だとかが裏社会に通じる商売をしていて、表と裏の二つの派閥があるらしい。

 前会長の叔父が率いるドーラファミリーだけが問題があり、それ以外がまともという訳だ。



 ドーラ商会はバカボン家の御用商人でもあるらしく、全部まとめて潰すわけにもいかない。そんなことをすればこの領地の経済を壊してしまうからだ。

 裏だけを潰そうと調査したのだが、思った以上に奴らは用心深く、まだ尻尾を掴めていない。

 この辺りにアジトがあることはつかめているのだが……。



 いや、今だけは休もう。

 今は網を張って奴らが動くのを待つとしようか。

 俺が二本目の焼き鳥に手を伸ばした時だった。

 大きな足音が聞こえた。これは人の者ではない。

 すぐそばの林からだ。



 他のクラスメイトも臨戦態勢に入り、ナイフを抜いて油断なく構えている。

 みんなが見守る中、林から出てきたものを見てみんなは肩の力を抜いた。


「モツゴロウ……」

「なんだ、驚かすなよ!」




 出てきたのはクラスメイトの畑山モツゴロウだ。

 人呼んでビーストマスター、モツゴロウ。

 彼は見慣れない竜に跨っていた。おそらく角竜の一種だろう。

 バッカスに貰った竜の図鑑でこんなものを見た記憶があるし。



「驚かせてごめんね、みんな。寂しそうにしていたから連れてきちゃった」



 モツゴロウは照れた様子で舌を出す。

 正直言うと、老け顔の男がそれやっても鬱陶しいだけだ。

 若干苛ついたが、それよりも気になることがあった。



「なぁ、モツゴロウ。その竜は誰に飼われてるんだ?」


「それが首輪をしてないんだよ。お腹もすいてるみたいだし、ほっとけなくてさ」



 モツゴロウは悲しげな顔で竜を撫でる。

 ふむ、てっきりどこかから奪ってきたのかと思ったが俺の考えすぎか。

 しかしなぜ竜が公園にいるんだ?

 結構な労働力になるはずなのだが……。

 性格も大人しそうだしな。



 俺の目の前でモツゴロウが連れてきた竜は美味しそうに焼き鳥を食べている。

 人に慣れているってことは飼われていたのか?

 ならどうして……まさか!?

 その瞬間、俺の灰色の脳細胞が活性化し、正答を導き出す。

 そうか、そういうことか!



「なるほど、そういうことか」


「なに? 何かわかったのか、秀也?」

「どういうことだ? 教えてくれよ」



 仲間が答えを求めて来る。

 仕方がない、教えてやるか。



「みんな、こいつは捨て犬ならぬ捨て竜さ」


「「な、なんだって!?」」



 皆が驚きの声を上げる。

 唯一、訝し気な表情で口を開いたのはモツゴロウだ。



「でも秀也、竜って高いんじゃないの?」


「ああ。でも思い出してほしい。地球の公園にも猛獣がいただろう? あいつらも相当値段が張るはずなのにさ」



 そう、俺たちは獅子堂学園の授業でアメリカのグリズリー(灰色熊)が放し飼いにされている公園でキャンプしたこともある。

 たしかイエローストーン公園とかいったっけ?

 狼とか灰色熊、あと池や川にはワニもいたなぁ……。

 水汲みの時、ワニと格闘したのは今となっては良い思い出だ。

 あの経験をした俺たちは分かっている。

 公園には猛獣が捨てられていることをな。



「あ~、なるほどね」

「確かイエローなんとかって公園だったっけ?」

「公園にはよくいるからな」

「狼が鬱陶しかったよな~」



 仲間たちは俺の言葉に合点がいった様子を見せる。

 イエローストーン公園にいたのは中々やんちゃな動物たちで、隙を見せると飛び掛かってきたものだ。

 特に灰色熊や狼は執拗に追いかけてきたな。

 確か下拵え中の料理を奪われた味沢ジャンがブチ切れて、猛獣たちを熊鍋と狼のステーキにしたんだっけ?

 アレは本当に美味しかったな! 

 また食べたいと思って狩りに行ったら、なんと武装した外国人に襲われたのだ。

 きっと米国の動物愛護団体だろう。あいつらは本当に強かったな。

 確かグリーンベレーとか言ったか?



 おっと、俺としたことが脱線していた。

 とにかく公園に猛獣がいてもおかしくはないはずだ。

 ふと気づくと、モツゴロウがモジモジした様子で俺を見ていた。

 まさか……。



「ねえ、秀也。この子たち連れて帰っちゃダメかな?」


「う~む」



 やはりそう来たか。

 どうするかな、無駄飯ぐらいはちょっとキツイな。

 役に立つなら、例えば背中に人を乗せられたらいいんだが。



「モツゴロウ、そいつは背中に人は乗せられるのか?」


「ああ、そのくらいはいいってさ。あと走る訓練とかさせられてたから足は速いって言ってるよ」



 ほう、さすがはビーストマスターだ。

 竜の言ってることも分かるらしい。

 ならいいか。

 さっきモツゴロウは『この子たち』といったな。

 つまりこの竜だけでなく、もっといるってことだ。

 たくさんいても困ったりはしないだろう。



「いいぞ、モツゴロウ。全部連れて来るといい」


「本当!? ありがとう、秀也。ちょっと連れて来るからあっちの美術館で待っててよ」


「美術館? 公園に?」



 モツゴロウの予想外な言葉に俺は首をひねった。

 公園になぜそんなものがあるんだ?



 ◇



 モツゴロウに案内されて俺たちは大きな建物の前にいた。

 無駄に豪華な装飾が施された建物だ。

 かなり金がかかってそうだな。



「せっかくだから見学していこうか」


「そうだな」

「土産話にはなるか」



 クラスメイトを引きつれ、俺は美術館のドアに手をかける。

 おや、カギがかかってるぞ?

 仕方ないな。

 俺はポケットからキーケースを取り出す。

 獅子堂学園に支給されたものだ。

 ピッキング用の道具をカギ穴に差し込むと手早く開錠する。

 やけに簡単なつくりだな、泥棒が入ったらどうするつもりだろうか。



 扉を押し開き、中に入るとそこには壁一面に大きな絵が、廊下にはギリシャ彫刻のようなものがたくさん飾られていた。

 芸術は全然分からんが、これは壮観だ。

 スマホがあったら写真を撮ってたのになぁ。

 ちょっと残念に思いながら俺たちは見学して回った。



「これは全然なってないですぞ!」



 一分ほど見入っていた俺たちの耳に怒りの声が聞こえた。

 振り向いた俺の目には一人の小男が映る。

 ぽっちゃり体型で昔の漫画家がよく着けていた黒いベレー帽被る男だ。



「お前は……飛花蘇太郎!」



 飛花蘇(ヒカソ)太郎。

 クラスメイトの1人で、なんとフランス帰りの男だ。

 花の都パリに留学していた芸術家である。

 しかしヒカソの人生は波乱に満ちていた。



 代々自衛官のエリートであるヒカソはフランス留学を反対されていたのだ。

 親族全員を拳で説得し、ようやく留学に行けると思ったら、ヒカソの乗っていた飛行機がなんとテロリストに撃ち落とされたのだ。

 ヒカソは激怒した。

 撃ち落されたことではなく、乗せていた自分の作品が破壊されたことに激怒したのだ。



 単独でテロリストを血祭りにあげると、ヒカソは奪った装甲車を乗り回してフランスへと直行した。

 途中の検問にいた兵士をなぎ倒してようやくフランスに到着したヒカソだったが、さらなる不幸が彼を待っていた。

 なんとフランス警察に捕まってしまったのだ。

 何故かテロリストと勘違いされたらしい。

 奴らはテロリストと善良な市民の違いも分からんのか?



 どうにか誤解を解いたヒカソは念願の芸術学校で必死に学んだ。

 ヒカソは夜遅くまでデッサンし、誰より早く学校にきて予習をしていた。

 だがそんな彼を待っていたのは嘲笑だった。

『お前なんぞが芸術家になれるはずがない』

 誰もにそういわれても夢を叶えるために努力を続けていたヒカソだったが、ついにキレてしまった。



 きっかけは忘れ物を取りに教室に戻ったときのことらしい。

 現地の学生と教師がヒカソに書いた作品を貶し、壊しているところを見てしまったのだ。ブチ切れたヒカソは、学生と教師、止めに入った警備員の計17名の両手両足をへし折ると学校を飛び出したらしい。

 その後、指名手配を受けたヒカソはパリ市警相手にたった一人で二週間も戦い抜いた。

 そしてフランスの首相を人質にして『僕の作品をルーブル美術館に飾れ』と要求。

 それを見た獅子堂学園のスカウトマンに見どころアリと判断され、獅子堂学園に入学することになったのだ。

 ヒカソがダメ出しをするということはこの絵に何か問題があるのか?



「どうしたんだ、ヒカソ?」


「秀也! どうしたも何もここにあるのは全部偽物ですぞ!」


「「なっ、なんだってー!?」」



 俺たちは驚愕の声を上げる。

 この絵が偽物だと!?

 しかしフランス帰りの男が言うのならきっとそうなのだろう。



「驚いたな……」


「これ偽物なんか?」

「へ~、結構イイと思ったんだけどな」

「さすがフランス帰りはスゲーな!」



 壁の絵を見上げて俺たちは感想を口にする。

 芸術はよく分からんが、感じ入るモノがあったんだがな……。



「よく出来てるけど間違いないですぞ! ここの作品には本物特有の凄みがないのですぞ」



 凄み……。

 絵にそんなものがあるのか?

 いや、しかしフランス帰りなら分かるのかもしれない。

 困惑する俺だが、ヒカソの悲しげな顔を見てハッとした。

 どうしたんだ!? 一体何があった?


「おい、ヒカソ! どうしてそんな悲しそうな顔をしているんだ?」


「……偽物だと分かればこの作品はきっと捨てられてしまう。ボクにはそれが悲しいんですぞ」



 何という男だ。

 捨てられる作品を想って泣けるなんてこいつは本物の芸術家だ!

 俺はそっとヒカソの肩に手を置いて優し気な声色を出す。



「なぁ、ヒカソ。もしこれが偽物だってんならお前の力で本物にしてやればいいじゃないか! 修正するんだ」


「……秀也」


「俺もヒカソの芸術見てみたいぞ!」

「俺も~!」

「フランス帰りの力を見せてくれ」



 俺の言葉を皮切りにしてクラスの皆が口々にヒカソの背中を押す。

 それに元気をもらったのか、ヒカソは元気いっぱいな表情で口を開いた。



「みんな……! そこまで言われたら修正するしかないですな! この美術館にあるものすべて、30分で修正してやりますぞ!」


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