第22話 テロール槍人


 テロール槍人。

 テロ系ユーチューバーとして名を馳せ、後に日本の恥と言われた男だ。

 元々、人気のないユーチューバーだったこの男は、ある日事故現場に居合わせ、それを動画にしたところかなりの再生数が稼げたらしい。



 それを見たこの男はこう思った。

 凄惨なものを撮れば再生数が稼げる。

 楽して遊んで暮らせると。



 さっそく紛争地帯にとんだ槍人だったが、日本語しか話せないこの凡人は、あっさりとカバンとパスポートをスられてしまう。

 途方にくれた槍人だが、こいつに運命の出会いが待っていた。

 世界中がマークする超危険な犯罪集団『コイントス』と出会ったのだ。



 犯罪集団『コイントス』。

 ガチの愉快犯だけで構成され、世界中が血眼になって行方を追う犯罪者だ。

 こいつらには一つの特徴がある。

 その名の通り、悩んだときはコイントスで活動を決めるのだ。



 例を出すなら、捕虜にした人々の前でコイントスを行い、表なら無傷で解放、裏なら殺してしまう。

 銀行を襲って大金を得ても、コイントスの結果次第で、そこらへんにばら撒く連中で、行動が全く予測できない。



 幸か不幸か、テロール槍人は『コイントス』と出会ってしまった。

 槍人自身は凡人だが、ガチの愉快犯だけで構成されたテロ集団『コイントス』に協力を受けて、テロを成功させ続けてきた。



 なぜ『コイントス』はテロール槍人に協力したのか?

 教官たちによれば、コイントスで決めたらしい。

 もちろん協力するか否かといった生易しいものではなく、生きたまま犬の餌にするか、飽きるまでは協力するかをだ。

 それを知らないのは槍人だけだろう。



『コイントス』の手引きによって槍人は民間人を狙ったテロを成功させ、その光景を動画にしてネットにアップした。

 当然、反響が凄まじく、数日で百万再生を突破したらしい。

 ただ、同じことが二度三度続くにつれ、世間は違和感を感じた。


 ――なぜ、こいつは毎回テロ現場に居合わせるのか?

 ――あまりにタイミングが良すぎる! まさかコイツがテロリストでは……?



 そしてその疑問はすぐに槍人の口で明かされることになる。

 それは槍人の4回目の動画だった。



『はぁい! 今日もテロって行きまぁす。ポチっとな!』



 動画内で、観光名所で楽しげに買い物をする人々を映した後、槍人自身がそう言ってリモコンのスイッチを押した。

 その瞬間、観光名所が爆破されたのだ。

 阿鼻叫喚になる事件現場の中で、テロール槍人だけが笑いながら事件現場を撮影する姿を見て、その動画を見た人はゾッとしたらしい。

 こいつはまともではないと気づいたのだ。



 すぐにメディアに取り上げられ、指名手配を受ける槍人だが、この男のバックにはあの『コイントス』がいるのだ。

 ただの警察に捕まるはずがなかった。

 動画はすぐにアカウント削除されたが、槍人は懲りずにテロを繰り返し、アカウントを作り直して動画をアップさせ続けた。



 ただ、さすがの『コイントス』も槍人のバカさ加減を甘く見ていたらしい。

 槍人はツイートで『次はココでテロるぜ! 応援よろしくぅ!』と呟いたのだ。

 底抜けのバカである。

 最初はブラフかと身構えた捜査員だったが、裏取りをすると信憑性が高かったので、万全の準備を整えて『コイントス』を待ち構えた。

 当然、俺たちも獅子堂学園の課外授業で参加した。



 のこのこ現れた『コイントス』……とテロール槍人。

 激しい銃撃戦にたまらず『コイントス』は撤退していく。

 槍人を一人残して。

 捜査でテロの準備をしているのは『コイントス』で、テロール槍人はリモコンスイッチを押すだけの、目立ちたがりの小物であることは分かっていた。

 そのため、獅子堂学園の生徒と特殊部隊は『コイントス』追撃にまわされ、テロール槍人は現地の警官が追ったらしい。



 後で聞いたが、槍人は腰に銃弾を受け、川に落ちて流されたらしい。

 仮に生きていても、現地の言葉も話せないし、パスポートも持っていない槍人に生きる術はないだろう。

 そう判断され、捜査は適当に行われ、槍人は生死不明とされた。




「……まさかこんなところで再会するとはな」


「ひいぃっ! ら、乱暴なことはしないでくれぇ! 犯罪、これは犯罪だぞ!? お、俺に何かしたら訴えてやるんだからな!!」



 俺は口汚く叫ぶ槍人の胸倉を掴み、顔面に拳を入れて黙らせる。

 こいつは自分の所業でどれだけの罪のない人々が死んだか分かっているのか?



 死んだ恋人の前で泣き崩れる青年。

 何が起きたのか分からず、死んだ親のそばで呆然とする幼子。

 バラバラになった自分の子供をつなぎ合わせようとする、狂ってしまった母親。



 その全てを俺たちは見てきた。

 さて、この外道をどうしてやろうか。

 俺は心のうちにふつふつと沸き立つ激情を必死で押さえ続けた。


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