第6話

「宮内さん、そろそろ急ぎませんと――」


 後ろを振り返る。

 すると、そこには車の運転をしていた運転手もといスーツ姿の男性が立っていた。

 

「#櫟原__くぬぎはら__#、あまりソイツに甘くするなよ?」

「高槻様、それは表向きであっても嫁を取るという方針から外れてしまっているのでは? それでは本家の方が納得されるとは思いません」


 その言葉に高槻という男性は頭を掻く。


「――チッ、わかったよ。莉緒、お前の部屋を案内する、付いてこい」


 櫟原さんと、高槻という男性の関係性がよく分からないけど、本家という話が出てきた事からもしかしたら複雑な事情があるのかも? と、思いつつも!


 注意された事に! まったく! 反省してない! と、心の中で思わず突っ込みを入れつつ、私は内心、溜息をつきながら男性の後ろをついていく。

 境内を通り、本殿の裏手――、母屋とも呼べる場所に2階建ての木製の古い家があった。

 そこは、私が小さい頃に来た事がある場所。

 5年間も放置されていたから、傷んでいると思ったけど新築のように綺麗なまま。


「宮内さん、どうかしましたか?」


 後ろからついてきた櫟原さんが、私に話しかけてくる。


「いえ、ずいぶんと綺麗な建物だと思って……」

「はい。リフォーム致しましたので」

「そうなんですか……」


 どうりで! と、私は納得しつつ、私を娶ると言った男が玄関に入っていくのを見てすぐに後を追い家の中に入る。

 玄関は、私が前職の神主さんが居た時に上がった時と殆ど代わりはない。

 むしろ綺麗になっている。

 リフォームされたのだから当たり前かも知れないけど。


「――さて、ここが今日からお前が寝泊まりする部屋だ」


 そう言い渡されたのは、私が巫女舞を披露するときに着替えをしていた部屋で――、


「これって、私の服?」


 6畳一間の部屋の隅には、私の私服などが積み重なっていた。

 もちろん、黒いビニール袋もあったけど、その中には下着も……。


 思わず溜息が出てしまう。


「どうかしたのか? これから、お前の仕事と今後の事について話したいんだが?」

「いえ、何でもないです」


 何なのだろう?

 この黒いポリ袋に入れられた下着を見て「ふと」そんな言葉が胸中を駆け巡る。


 もうすこし女性に対してのデリカシーを持って欲しい。

 借金がある私が言えた義理ではないかも知れないけど……。

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