第5話 デリカシーって言葉を知っていますか?

「べ、別に敬意を持っていないわけじゃないからっ!」

「お前が、どう思おうと他人がそう感じたのなら、それが全てだ。それから雇用主に対しては敬語を使え」

「……わかりました」


 何なのよ! もう! 突然、借金が出来たかと思えば、いきなり嫁入りとか訳が分からないわ!

 それでも寝床が無いから付いていくしかないけど……。

 一応、巫女という扱いなのだから貞操とかは守ってくれる……わよね?


 私は、高槻総司という男のあと追うようにして境内へと続く長い石で組まれた階段を昇っていく。

 もう日が暮れる時間帯――、そして始業式が始まる前の時期という事もあり肌を撫でる風はひんやりと冷たい。

 

「これ、野宿したら死んじゃうかも……」


 思わず唇から言葉が滑り落ちる。

 そんな私の独り言に反応したのか――、


「さすがに嫁入り前の女を死なせたら俺の評判に関わる」

「むーっ」


 私は、前の――境内に続く階段を上がっていく男の背中を見つつ自分にだけ聞こえるように唸る。

 もう、ここまできたら仕方ない。

 一応は雇用主と従業員という形態をとってくれるなら、目の前の男――、高槻総司は私の雇用主になるわけだし、何とか要領よく立ち回るしかないのだから。

 階段を昇りきったところで鳥居を潜り抜ける。

 すると綺麗に清掃された境内が視線に飛びこんでくる。


「すごく……きれい……」


 思わず目に映った光景に私は感嘆の声を上げる。

 そこにあったのは大きな御神木で、冬を過ぎ春を迎えたこともあり青々とした葉を、これでもか! というくらいに生やしていたから。

 そして――、それは夕日の陽光を透かしていて神秘的なまでに金色に輝いていたから。


「早くいくぞ。時間が、もったいない」


 私のことをジッと見つめてきた彼はハッ! としたような目で私を見てくるとぶっきらぼうに言葉をなげかけてくる。

 さっきまで私の方を見てきていたのに……。

 まぁ、私の方では無くて御神木を見ていたと思うけど。

 それなら、尚更――、私にだけ八つ当たりするように注意しなくてもいいでしょうに……。


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