⑬バイトの勧誘
食いながら、話し始めた。
コンビニの前で夜に踊るのが楽しかったこと。夜勤のおっさんに声をかけられたこと。恋をして、踊りがうまくなったこと。中学生だというのがばれて、おっさんがいなくなったこと。
「はぁ、そんな経緯が」
山さん意外とやるな。中学生をひっかけるとは。
「あのひとはいまどこですか。教えてください」
「訊いて、どうするの」
「え」
「訊いて、会って、どうするの」
無言。
はじめての恋愛で頭のねじが飛んでいっちゃったタイプか。
「美田ちゃん」
とりあえず、美田を呼んだ。うちで美術の心得があるといえば、あの子だろう。
「はい。美田です。お菓子の増量ですよね?」
気が利くねぇ。
「うんありがと。あとなんかこの子ね、山さんに恋したんだって」
「は?」
「なんですか」
「え、この子だって」
「中学生だってさ」
「はぁぁ?」
美田。見たことないような顔。
「なんですか」
「あなた、山さんの絵、知らないでしょ」
「うぐ」
おっ。
なんか分からんけど中学生の女の子に効いたぞ。
「あなたみたいなガキが、本当にあのひとと同じ場所に立てると思ったの?」
「うぐぅ」
なんだ。すごいなうちの美術班。
「あの人の前でしか踊れないみたいな顔してさ、あなた、はずかしくないの。山さんの絵は誰が見ても認める最高の絵なのよ。あなたの踊りは誰が見てもはずかしくないものになってるの?」
「う、うるさい」
「そんなんじゃただのガキね。一生かかっても山さんにたどりつくのは無理よ。あきらめておうちでねんねしなさい」
やばくないか。
美田。去り際、耳打ち。
「たぶん山さんの夢を取り戻させたのはこの子です。踊りも見たことあります。育てれば、大きくなると思います」
「おっけ」
目の前の女の子。震えている。怒りと、やるせなさと、悔しさ。
「ねぇ、あなた、うちでアルバイトしない?」
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