第32話 4人組

「やあ!よかったらこれ、飲まないか?」


俺は、リンたち4人組のテーブルへ近づくと、声をかけた。


トン!


すると、俺の後ろにいたマスターが、ジョッキを4つテーブルの上に置いて、音もなくカウンターの中へ戻っていく。


「申し訳ありませんが、どちら様でしょうか?見知らぬ方に、エールをおごっていただく理由は無いと思うんですが?」


壁側の席、リンの隣に座った男の子が言ってくる。


ややくすんだ金髪を七三分けにし、丸眼鏡をかけて(眼鏡あったんだ!技術の進歩がいびつだ・・)いる。


歳はやはり、リンと同じくらいか?


「いいじゃねえか、くれるって言うんだから、有難く貰ってれば!なあキース?」


赤い髪を短髪に刈り上げた、ちょっとガタイの良いあんちゃんが、既に右手に握っていたジョッキをあおりながら、隣の子に同意を求める。


「ちょっとネイサン、ポールの言うとおりだよ。この間もそれで、苦労したんじゃないか!」


言われたハチミツ色の髪の毛の、小柄な男の子が困った様に言い返す。


他の3人より2才くらいは、幼いように見える。


「ハハハ。何を苦労したのかは知らないけど、俺はそっちのリンくんに用事があるんだ」


俺は、営業スマイルを絶やさずに、リンの方を見て言った。


「ぼ、ボクにですか?」


それまで、黙って3人のやり取りを見ていたリンが、少し怯えたような、戸惑ったような表情で俺を見てきた。


キースよりは背が高いが、華奢で色白、下手をすると女の子にも見える。


「ああ。キミ、絵がうまいんだって?」


「ちょっと待ってください!あなたはリンの名前を知っているみたいですけど、こちらはあなたのことを知りません。まず最初に自己紹介をするのが、筋ってものじゃないですか?」


性急に本題に入ろうとする俺とリンの間に入って、ポールが抗議の声を上げる。


「ああそうだな、大人げなかった。俺の名前はマモル、ちょっと前にこの村に来たんだが、最近は病人や怪我人を魔法で治している」


「お!それなら知ってるぜ!俺の父ちゃんも、森の崖から落ちて右足を骨折したのを治してもらったって言ってた」


ネイサンが、口のまわりに付いたエールの泡を、左手で拭いながら言った。


「俺の母ちゃんも、妹のルーが熱を出したときに、マモルって人に治してもらったって」


キースはそう言って、俺の顔を見あげる。


身長差が、50cmじゃきかないからな。


「なるほど、あなたが村長に認められた治療師の方でしたか」


ポールが、眼鏡の端を指先でくいっと上げながら頷いた。


治療師・・のつもりは無いんだけどな。


まあいいか。


「そう、そのマモルだ。で、いまちょっとある施設を建設中でさ」


「施設・・・もしかして、中央広場前のあの建物ですか?なんか色々と変わった感じの工事をしている・・」


3人の話を聞いて、少しは安心したのか、リンがそう言って小首をかしげる。


「知ってたか。なら話は早い、その施設の内装でリンくんに手伝ってもらいたいことがあるんだよ」


「でもボク、工作や木工系のスキルは持っていないけど・・」


「さっきも言ったけど、絵はうまいんだろ?」


「絵を描くのは好きだけど、上手いかどうかは・・」


リンは相変わらず戸惑いを隠さない。


「なに言ってんだよ、いつも描いてる獣の絵なんて、本物そっくりじゃねえか!」


ネイサンが、つまみの骨付き肉にかぶりつきながら言う。


「ルーも、お花の絵を描いてもらったって、喜んでた」


キースが、笑顔で言った。


「そうですね、絵だけは私もリンには敵いませんね」


ポールが、少し悔しそうにしながらも2人に同意する。


「体を動かすのもだろ!」


そう言ってネイサンが、大口を開けて笑う。


「そうか!じゃあ、やっぱりリンが適任だな。もちろん、報酬は払うから、頼まれてくれないかな?」


「それは、絵を描けばいいってことですか?」


「そう!俺の描いてほしい絵を、その施設の壁に描いてくれればいいんだ」


「絵を描くだけなら・・」


「よし!決まりだな」


俺はリンに手を差し出す。


「ちょっと待ってください。その前に、報酬額を決めましょう」


その手を押しとどめて、ポールが言った。


「ごもっとも・・」


ん~こっちの世界に来て、俺、社会人としてのスキルが劣化してきているなあ。


気を引き締めねば。

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