第29話 マズっ!

「おう、坊主。見てきたか?」


1階に戻ると、ドンクさんが男湯の中で何やら寸法を計りながら聞いてきた。


「ええ、とても立派に出来ていて驚きました」


「だろ、あれでいつでもこっちで仕事ができると思うぞ」


「ありがとうございます。ところで、今やっていた作業は?」


「ああ、これか?浴槽って言ったか?それを据え付ける位置を確認していたところだ」


部屋の入り口から入って真正面の奥側の壁際に、幅約5m、奥行約4mの長方形の印が床に描かれている。


「こうして室内に描いてみると、意外と大きいものですね」


「そうだな」


あそこに浴槽がきて、こちら側が洗い場か・・。


「そうすると、こっちの壁に蛇口が・・・あ・・」


シマッタ!


この世界(村?)に水道は無いんだった。


どうしよう。


それと・・・。


「マズっ!」


「どうした?」


「あ、いえ・・」


排水、どうしよう?


基本的に、この世界(村?)では水の使用量が少ないから、汚水は家の外に捨てれば済むんだよな。


トイレは、共同の『ぼっとん』便所だし。


今まで作った風呂のお湯も、俺が魔法で消してまわってたし。


「ドンクさん、今から設計変更ってできますか?」


俺は意を決して、聞いてみた。


「あん?それは、内容によるな」


ですよね。


まずは、貯水タンクだな。


「実はですね、こっちの壁に管の様なものを取り付けたいんですよ。」


「管だあ?」


「ええ。で、その管を屋根の上までつなげます」


「屋根の上に?そんなことしてどうするんだ?」


「屋根の上には、お湯を貯める縦横高さ2mの箱を作っておきます」


「なんだ、屋根の上にも風呂を作るのか?」


「いえ。この箱にさっきの管をつなげるんです。そして、こっちの管の出口のところに、手で操作すると管を通ってきたお湯を、出したり止めたり出来る仕組みを付けるんです」


「ん~その仕組みってのはちょいと難しいが、出来ないことはねえだろう。だが、そりゃあ何なんだ?」


「その出てくるお湯を使って、身体や頭、顔何かを洗うんです」


「お湯なら浴槽に入っているじゃねえか」


「そっちのお湯を、みんなで使ったら無くなっちゃうじゃ無いですか」


「ああ、なるほどな」


「ただ、ちょっと心配なのが、屋根の上にそんな重いものをのせて大丈夫かどうか何ですが・・」


「その辺は大丈夫だ。支えをしっかり補強すりゃあいい」


プロに任せれば大丈夫か・・。


「分かりました。お願いします」


それから、排水だな。


「それから、その浴槽の下にですね、同じくらいの大きさの箱を作れますかね?」


「床下にか?」


「ええ」


「何とかなるだろ。でも何に使うんだ?」


「さっき言ったとおり、こっちで身体を洗ったりすると、その時のお湯とか浴槽からあふれたお湯とかが、こっちの床に流れますよね?」


「そりゃそうだな」


「その使用済みのお湯を、一旦その箱に貯めるんです。で、後で私が魔法で消して処理します」


「なるほど、分かった。作ってやる」


「ありがとうございます!」


「仕様の変更分はあとで請求するからな」


「了解です!」


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