第3話 定番はやってくる

「なんにしても、ここに居ててもしょうがないか」


こう言う場合は、近くの村か町を目指して歩くしかないってやつだよな。


・・どっちに行こう。


「よし、これで決めよう」


たまたま近くに落ちていた木の枝を拾うと、道の真ん中に立てて手を離した。


「あっちか」


俺は、枝の先端が向いた方へ向かって歩き出した。


途中、水を魔法で出しては水分補給をしつつ進んでいく。


「きゃー!」


1時間ほど経った時、先の方で悲鳴が聞こえた。


女の子の声だ。


俺は、無意識のうちに駆け出していた。


100mほどで、人がオオカミのような獣に襲われているのが見える。


「ガルル!」


襲われているのは、小さな赤いお下げ髪の女の子で、両手で顔を隠してうずくまっている。


周りには、女の子とオオカミ以外には何も見当たらない。


どうしよう。


オオカミはこちらの方には気付いていないみたいだ。


・・・そうだ!


騒がしい猫に、水をぶっかけると逃げ出すっていうのが、よくあるよな。


「ウォーター!」


俺は、少女に夢中なオオカミの頭上に冷水を出現させて、一気に落としてやった。


「キャウン!」


オオカミは、突然冷水を浴びせかけられて、驚いって走り去っていった。


・・・意外にあっさり上手くいくもんだな。


俺は一瞬呆気にとられて、走り去るオオカミを見ていたが、すぐに我に返って女の子の方へ歩いて行った。



「もう大丈夫だよ。オオカミは行っちゃったよ」


女の子のそばにしゃがんで、声をかけた。


「・・・」


女の子は、うずくまったまま震えている。


「ほら、もう怖くないよ」


俺は、できるだけ優しい声でそう言って、女の子の頭にそっと手をやった。


すると、一瞬ビクリとして、ゆっくりと顔を上げた。


「おじさん、だれ?」


ガクっ!


「お、おにいさんだから。それより、なんでこんなところに一人でいたんだい?」


クリクリの目で、首をかしげる女の子に、やんわりと否定しつつ尋ねた。


「お母さんが風邪で寝込んでいるから、薬草を採りにきたの」


女の子が大きな目に涙をためて言った。


「でも、こういう森の中は、あんな獣がいるから危ないんじゃないかな?」


「でも、でも!お母さんが、コンコンてお咳もひどくて・・」


「キミがお母さん想いの、とってもいい子というのは分かった。でも、そのお母さんに心配をかけるようなことをしちゃいけないよ?」


俺は、女の子の頭をクリクリと撫でてあげた。


「・・うん。分かった!」


すると、ためた涙を右手でこすり、白い歯を見せてニコッと微笑んだ。


「ところで、キミの名前はなんていうの?」


「ミミ!」


「ミミちゃんか、かわいい名前だね」


「おじ・・おにいさんは?」


いま、おじさんて言いかけたな?


はね、マモルって言うんだよ」


「マモルおにいさんは、どっから来たの?」


異世界・・とは言えないし、言っても分からないか。


「そうだなあ。遠いところだ」


「ふ~~ん・・」


「ミミちゃんは、何才?」


「5才!マモルおにいさんは?」


「25才だ」


「へ~。お父さんとおんなじだ!」


な、なに?!


俺と同い年で、5才の子持ち?


おじさん呼ばわりされるのも仕方ないのか・・・。


「でもね、お父さんは遠くに行っちゃって、今はいないんだ・・・」


そう言って、ミミはそれまでの屈託のない笑顔を曇らせた。


だから、お母さんのためにって思ったのか・・。


「ミミちゃんのお家はこの近くかい?」


「そう!すぐそこのダントン村だよ」


「そうか、じゃあおにいさんも一緒について行ってもいいかな?」


「うん、いいよ!とってもいいところだから!!」


俺はミミを立ち上がらせると、左手を引いて歩き出そうとした。


「イタ!」


ミミが右手を、右のふくらはぎに持っていく。


「どうした?」


見ると、白くて柔らかそうなふくらはぎから、血が滲んでいる。


何かで引っ掻かれたような跡がある。


「さっきのオオカミの爪でやられたんだな。止血しないと」


でも、絆創膏も包帯も何も持ってないぞ。


「どうしよう」


『ピコン』


久しぶりの音が鳴った。

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