番外変 星月夜【ほしづきよ】

 合宿二日目の夜。二泊三日のボランティアも明日で終わりだ。今日もボランティアに奮闘し、一日が終わろうとしているのだが……。


「眠れない……」


 硬いシーツの上で寝返りを打つ。スマホを見ると、既に十二時を回っていた。

 ベッドから起き上がる。真上にあるエアコンから、微かな冷房の風が背中にあたる。そのせいなのか、体が冷えてきた。机の上に畳んであるパーカーを着る。

 さて、どうするか。気分転換に一旦、外に出てみるか? でも熊とか出そうだしな。……まあ、そのときはそのときか。

 晴翔を起こさないようにそっと部屋から出る。山の上だからか、結構外が涼しい。暗くなった廊下を恐る恐る進み、やっと玄関に着く。そこから外に出た。


「やっぱり寒いな」


 しばらく外の空気を堪能し、数分経った後、部屋に戻ろうとする。そのとき、


「ひっ!」


 誰かに肩を触られた。

 反射的に声を上げ、後ろを振り向く。


「……なんだ、久保か」


 そこには青を基調としたシンプルなパジャマにカーディガンを羽織った、久保が立っていた。


「すみません、驚かすつもりはなかったのですが…」


 久保は申し訳なさそうな顔をする。


「いや、普通に誰でもびっくりするだろ」

「ふふ、そうですよね。それにしても裕様の『ひっ!』、とても可愛かったです」

「……さっきのわざとか」

「さて、どうでしょうか?」


 何も言い返せず、無言になる。


「それで、裕様はなぜここに?」

「眠れなかったんだ。久保は?」

「私も同じです」

「そうか」


 また、無言になる。


「キャンプファイアー、楽しかったな」

「はい。とても楽しかったです。雨が止んで本当によかったですね」

「てるてる坊主のおかげだな」

「本当ですね。てるてる坊主のおかげです。……たまには、津久井もいい提案をしますね」


 久保はそう言いながら微笑んだ。

 俺はニヤニヤしながら、そんな久保を見る。久保は俺のそんな様子に気づくと、不愉快そうにムッとする。


「な、何ですか」

「いや。久保が晴翔を褒めるの、珍しいなーって」

「別に褒めたわけではありません。えっと、そう、関心しただけです。はい、きっとそうです!」


 関心したのも、結局は晴翔を褒めてるけどな。

 必死に弁解する久保を見て、自然と口角が上がる。


「分かった、分かった。まあ、みんなも楽んでたし、久保もはしゃいでたし、本当によかったな」

「わ、私は別に、はしゃいでなんか……」

「ん? 楽しくなかったのか?」

「いえ、そんなことは……裕様、もしかして、私をからかっていませんか」

「ばれたか?」


 久保はもう一度ムッとする。そして、黙り込んだ。


「すまん、からかいすぎた」


 急いで謝る。

 しかし、黙り込んだまま動かない。


「本当にすまん」

「……ふふ」


 久保は笑う。


「そんなに謝らないでください。からかったくらいで怒ったりしませんよ」

「いや、でも」

「こんなことで怒りません。まして、裕様に怒るなんてとんでもないです。もちろん、これが津久井でしたら、話は変わりますが」


 とりあえず怒ってなさそうでよかった。

 一息つき、ふと顔を上げる。


「あ……」


 満天の星が夜空を包んでいた。

 思わず声が漏れる。久保も不思議そうに空を見上げる。


「すごいな」

「はい。私、こんなに綺麗な星空は初めて見ました」

「……なんやかんやあったけど、合宿に来てよかった」

「はい、私もそう思います」


 久保はそう言いながら微笑む。

 その時、空に一筋の光が流れた。

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