第21変 お泊まり、キャンプファイアー、ボランティア!③

 しばらく歩き、施設に戻る。約束した16時まであと30分ほどだったので部屋に待機することになった。ちなみに俺と晴翔は同じ部屋だ。


「結局、川でしか遊べなかったな」


 スマホをつつきながら、晴翔と話す。


「少しの時間しかなかったからね。短い時間だったけど僕は楽しかったよ」

「それもそうだな」

「むしろ、これからが本番じゃないか」


 スマホから顔を上げ、晴翔の方を見る。晴翔はにやにやしながらスケジュールが書いてあるプリントを見ていた。


「何かあったか?」

「忘れたのかい!?」


 晴翔は勢いよくプリントを机に叩き、立ち上がる。そして、俺の肩を両手で掴んだ。

 本当に何があるのか思い出せず、頭の中で必死に考える。


「すまん」

「メインと言えば、キャンプファイヤーしかないじゃないかい!!」

「ああ。そうか」

「メインイベントを忘れるなんて裕もまだまだだね」


 何故だろうか、晴翔にそう言われると腹が立ってくる。


「本当に楽しみだよ」


 晴翔はそう言いながら、窓の方へ近づく。


「きっと素晴らしいキャンプファイヤーになるよ。その証拠に天気もい……」

「ん? どうしたんだ。晴翔」


 外を見て、固まる晴翔の側に近づく。晴翔は虚ろな顔で外を見ていた。


「あ……」


 外はさっきまで快晴だったのだが、一転して大雨が降っている。

 外を眺めていると、部屋の扉が開く音が聞こえる。部屋に晴翔の姿はなく、部屋から飛び出したようだった。俺は急いで部屋から出ると、晴翔の後を追いかける。


「どうしたんだ。晴翔」


 肩で息を切らしながら、入口で佇んでいる晴翔にそう聞く。すると、晴翔はゆっくりと俺の方を振り向く。


「ゆ、裕……」


 そして、そのまま抱きついてくる。


「裕の力でこの雨を止めてくれないかい?」

「無理だ。離れろ」


 力づくで晴翔を押す。が、いつもの馬鹿力で離れない。


「津久井。裕様をあまり困らせないでください」


 声が聞こえ、顔を上げるとそこには久保と小倉さんが立っていた。久保は片手で晴翔を引き離す。


「助かった。ありがとう」


 そう言うと、久保は微笑む。


「雨、凄いね。これじゃ、キャンプファイアーは……」


 小倉さんは土砂降りの雨を見ながら言う。俺は小倉さんの言葉を聞き、改めて雨を見る。


「晴翔。残念だけど、キャンプファイアーは中止……」

「まだチャンスはあるさ」


 言葉に戸惑っていると、晴翔がそう言った。それぞれ、下げていた顔を晴翔に向ける。


「どういうことだ?」

「確かに、今のままだと大雨で中止になってしまう。けど、雨が止んだら話はまた変わってくるだろう?」

「……つまり?」

「つまり、この雨を何とかして止めようではないか!」


 久保と顔を見合わせる。

 確かに雨が止めば、キャンプファイアーは通常通り行われるだろう。しかし、天候を変えるのは不可能だ。

 

「どうやって止めるんだ? そもそも天気を変えるなんて無理だろ」

「無理じゃないさ。いい方法があるからね」

「いい方法?」

「そう。みんなで、てるてる坊主を作るのさ!」

「てるてる……坊主……」


 高校生にもなって、てるてる坊主か。晴翔らしいな。


「何を言い出すと思えば、てるてる坊主。そんな非科学的なことやっても無意味、と言いたいところですが、まだ時間もありますし、私はそれで構いません。場所は体育館でいいですよね。早速取り掛かりましょう」


 久保はそう言うと、歩き始める。晴翔は嬉しそうに久保の後についていく。そして、二人とも施設の中へ入っていった。


「俺達も行きましょう」


 そう言い、小倉さんに背を向ける。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」


 足を止め、小倉さんの方を向く。


「ど、どうしましたか?」

「あんた、おかしいと思わないの? てるてる坊主って……。小学生じゃないんだから」

「確かに、そうですね」


 俺は苦笑しながら言う。


「何で止めないの? それに、津久井晴翔だけじゃなくて、あんたも久保さんもやる気じゃない。どういうことなのよ」

「あいつは一回やるって言ったら、いくら拒否しても話を聞かないんですよ。だから、付き合った方が早いっていうか」

「そんなのただの我儘よ」

「そうかもしれませんね。でも晴翔の我儘には慣れてるので。……それに、楽しいんですよ」

「え?」

「晴翔の我儘がどんなにめんどくさくても、大変でも、結局は楽しいんです。きっと、久保もそう思っているはずです。あ、さっき言ったこと晴翔には内緒にしててください。すぐに調子に乗るので」


 いつもなら絶対に言わないことを言ったため、少し恥ずかしくなる。

 そのためか、反応が気になり、小倉さんを見る。

 

「……いいわ。私もあんた達の我儘に付き合ってあげる。ほら、行くわよ」

「は、はい!」


 そう返事をし、小倉さんと共に二人がいる体育館へと向かった。

 体育館に近づくと、大勢の楽しそうな声が聞こえてくる。不思議に思い、扉を開ける。中には晴翔と久保だけではなく、沢山の小学生や指導者の大人の人までいた。みんな楽しそうにてるてる坊主を作っている。


「二人とも! やっと来たね」


 晴翔がてるてる坊主を手に持ったままの状態で近づいてくる。


「ああ。ってか、何でみんないるんだ?」

「僕達がてるてる坊主を作っていたら、みんなもやりたいって言い始めてね。みんなで作ることになったのさ。ちなみに、これが僕が作った『スーパーアルティメットてるてる坊主』さ!」


 見せられたてるてる坊主には、紙で作られた大きな羽と王冠が付けられていた。後ろにはでかでかと『はると』と書かれている。

 俺は自己象徴の塊である、てるてる坊主を見て苦笑いをする。


「晴翔らしさがよく出てるな」

「……うん。津久井君らしくて、凄くいいと思うよ」


 小倉さんは本当にそう思っているのだろうか……。


「そうだろう! みんなにも、この素晴らしいてるてる坊主を見てもらうよ。あまりにもかっこよすぎて、腰を抜かすだろうね」


 晴翔はそう言いながら、沢山の人にてるてる坊主を自慢する。自慢された人は若干反応に困っているようだ。


「お姉ちゃん!」


 そんな晴翔の様子を見ていると、聞き覚えがある声が聞こえてきた。声の方を向くと、小倉さんの妹さんである女の子が立っていた。


「日菜。どうしたの?」

「お姉ちゃん、見て見てー! これ、私が作ったの!」


 女の子は、可愛い顔のてるてる坊主を持っていた。首元には赤いリボンが付いている。


「日菜が作ったの? 凄いわね」

「凄いでしょ! このリボンはあのお姉ちゃんが付けてくれたんだ」

 

 女の子が久保に手を振る。それに気づくと、久保も手を振り返す。


「久保さんが……。後でお礼言わないとね」

「うん! お姉ちゃん達、まだてるてる坊主作ってないよね? 一緒に作ろう!」


 問いかけに小倉さんは大きく頷いた。


 完成したてるてる坊主をみんなで部屋に飾る。部屋中がカラフルな色に包まれた。

 その様子は『雨が止む』と思わせてくれるほどだ。


「雨、止んだよ!」


 みんなが待ち望んだ言葉が聞こえてきた。

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