龍神の子 〜天記と聖水の剣〜

藤沢 遼

第1話 プロローグ

 

 『生まれた 生まれた』


 『神の子だ 龍神の子だ』


 暑かった夏が過ぎ、秋風がザワザワと木々の枝や葉をゆらす。ゆれる木々のすきま、暗闇のそこここから、ヒソヒソと小さくしゃがれた声が聞こえてくる。

 全身が黒い毛で覆われた、まるで猿のような姿をした得体のしれない無数の者たちが、目だけを黄色く光らせ、闇の中でじっと様子をうかがっていた。


 『生まれた 生まれた』


 『龍神の子が生まれた』


 大きく開け放たれた両開きの窓から、月の光が明るくさし込んで小さなベッドを照らしていた。ベッドには生まれたばかりの男の子が、スヤスヤと寝息をたてて眠っている。

 月明かりだけのその部屋で、背の高いスラリとした若い男がベッドの側に立ち、眠っているその子を見下ろしていた。

 男は眠っているその子の額にそっと右手を置いて、ささやくような小さな声で何やら呪文のようなものを唱えた。

 次の瞬間、男の子の体全体がふわりとした白い光に包まれた。


 「私の子、お前が生まれてくるのをずっと待っていた」


 額から手を離し、もう一度呪文を唱える。 

 すると、男の子は目を覚まし、泣きもせず、まるで全てが見えているかのように男の顔をじっと見た。

 青みがかった銀色の瞳は、人のものではなかった。



              つづく


              

 

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