第二章 新たな出会い

8 魔道師館 ①



 今。そう、現在。

 俺の目の前には、白と黒の大きな二つの塔が目印となっている館がそびえ立っていた。


 この館の名前は『魔道師館』だ。


 俺がなぜここに来ているかは、数時間前に遡ることとなる。



 ******



 酒屋にて


 俺はこのところ、やっとこの世界に慣れてきていた。最近では依頼以外にも、たまに酒屋の厨房でバイトをさせてもらえることになった。今日も俺は酒屋でバイト中だ。今は、ちょうどモーニングの時間が終わり、洗い物をこなしていた。


「おーい、シンター!今日はちょっとこれから、依頼を頼んでもいいかー?」


 ホールから厨房にいる俺に向かって、マスターが大声で呼びかけた。


「はーい!いいっすよ!ちょっとお待ちくださいねー!」


 俺はそう言って、キリのいいところまで洗い物を終わらせてから、ホールへと出ていった。俺がホールに出ると、マスターは「おう!すまねぇな」と言って、何やら白い包みを持ちながら俺に近づいてきた。


「実はよ、この間シンタたちが採ってきてくれた薬草があっただろ?その薬草を『魔道師館』ってとこに届けてほしいんだよ」


 マスターはそう言って、手に持っていた白い包みを俺に手渡した。


「これを……『魔道師館』、にですか?」


 あ~そういえば、チュートリアルでそんな依頼あった気がする。つっても、俺このゲームでは『魔道師』の役職やった事なかったから『魔道師館』とか、魔道師の仕事とかあんまし分かんないんだよなぁ。


 俺がそんな事を考えていると、マスターは更に話を続けた。


「あぁ。その『魔導師館』にはマリーっていう館長がいてなぁ。実は、いつも俺が定期的に薬草を届けに行ってんだが、最近ちょっと忙しくてよ。今日も他にもやることがあるし、俺の代わりにシンタが届けに行ってほしいんだ。シンタは旅人だから、まだ『魔導師館』には行ったことがなかっただろ?ついでに見学もさせてもらうといいさ」


 マスターはそう言って、引き出しから地図を取り出し『魔道師館』の場所に大きく丸印をつけてくれた。


「っと……ここが『魔道師館』だ。白と黒の大きな塔が目印になってるぞ」


 あ~、あのモノトーンなデザインの。


「えっと、オシャレなデザインですね」


「ハハッ、魔道師の色になってるのさ。魔道師には白魔道師、黒魔道師がいるからな。あ、もしもマリーがなかなか見つからなかったら、奴らが館内にいるから聞いてみるといい。すぐに見つかるぞ?」


 そう言ってマスターは、先ほど丸をつけてくれた地図を俺に手渡した。


「あ……一つ忠告しておくが……あんま、魔道師の女はナンパするんじゃねーぞ?魔道師の女はおっかねえからな~?ハッハッハッハッハー!」


 マスターは大袈裟に笑い飛ばしながら、そう俺に忠告した。ん?それは経験談かな?安心してください。俺にそんな度胸はありません。ちくしょう!!


 俺はハハ……と苦笑いをしながら、地図と薬草の入った包みを受け取り、酒屋をあとにした。



 *****



 そして今に至る。


『魔道師館』はゲームで感じていたときよりも、予想以上の大きさだった。俺は正面にある大きな扉のドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を押し開いていった。


 中に入ると目の前には、赤い絨毯が敷かれていて大きなホールが広がっていた。ふと、天井を見上げると大きなシャンデリアも飾ってある。奥の方には、なんだかハリウッド女優が歩きそうなデカい大理石の階段と、それぞれ左右に螺旋階段もあるようだ。


「さってと、どこから探せばいいんだ。なんかどこかのお城みたいだな」


 今、このホール内には誰もいないようだ。うーん、思い出せぇ俺。チュートリアルで一回くらいは来たことあるはずだぞ~?確か、館長室かなんかがあった気がするんだけど……どーこだっけかな~?


 そうこうしている内に、右奥にある扉が静かに開き、黒魔導師の黒いローブを羽織った男が出てきた。


 少し赤毛がかった癖毛の髪に、ルビーのような真っ赤な瞳をしている。……え、なんか、このゲームの顔面偏差値高くね?おかしくない?不平等じゃない?いやいやいや、そんなことを考えている場合じゃない。俺は慌てて、その男の前に駆け寄り声を掛けた。


「あ、あの、すみません。ちょっとお伺いしたいことが……」


「あ"ぁ"?」


 その黒魔道師は突然、ドスの効いた声を出しながら俺にガンを飛ばしてきた。そんな態度に俺は思わず、怯んでしまい言葉を詰まらせた。


「っ……えっと……」


「おい、てめぇ。男が俺に話しかけに来んじゃねえ。今、すんげえ、イライラしてんだわ。くそ、可愛い子チャンならまだしも……とにかく、今は他をあたってくれ」


「あ、はい。すんません」


 俺が速攻で謝ると、男はそのまま魔道師館を出ていった。


 ……………


 え~~~?理不尽じゃな~い!?

 てか可愛い子チャンならいいのかよ!悪かったな!ブサメン系男子で!!


 俺は小さく溜め息を漏らした。仕方ない。少し腹は立つけど、また気を取り直して違う人に声をかけよう。そう思っていると、反対側の扉がガチャっと開いた。その扉からは白いローブを羽織った、白魔道師が出てきた。茶色の瞳に茶髪のおさげで、顔に少しそばかすがついている女性だった。


 次こそは!と思い、俺は声をかけようとした。しかしふとその時、マスターに言われた言葉が頭を過った。


「魔導師の女はおっかねえぞ?」


 ……いや、いやいやいや、これはナンパじゃない。そうナンパではない。……うん。よし、聞こう。俺はそう自分に言い聞かせて、白魔道師のもとへ駆け寄った。


「あの!す、すみません!お聞きしたいことがあるんですけど、少しだけよろしいですか!?」


 俺は緊張して、少し早口になった。


「あ、はい。なんでしょう?」


 白魔道師はそう言って、少し首を横に倒しながら俺に訊ねた。よ、よかった~!普通の反応だ~!


「あっと、マリーさんって人に届け物があるんですけど、マリーさんの居場所ってご存知ですか?」


「あ、マリーさんですね。この時間なら館長室にいると思います。よければ、ご案内しましょうか?」


「え!ほんとですか!そうして貰えると有難いです」


「はい。それでは、こちらにどうぞ」


 そうして、俺は白魔道師の女に案内をされながら館長室へと向かった。



「こちらが館長室です」


 館長室の前に辿り着くと、白魔道師はそう言ってドアを三回叩いてから「マリーさん、お客様です」と声をかけた。


 すると、中から「どーぞー?」と女の人の声が返ってきた。その返事を聞いた白魔道師は「失礼します」と、また声をかけ扉を開いて中へと入っていった。


 白魔道師につづき、俺も「失礼します」と一声かけて部屋の中へと入った。


 部屋の中に入ると、そこには眼鏡を掛けて後ろで髪を纏めた長身の女性……それと黒魔道師の女性と、白魔道師の男性がこちらに視線を向け立っていた。






 

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