120歳『童貞』の俺は神様になるはずが一周周って人間のままに!?でも最強の【童貞力】≪童貞神≫を使って異世界を救います。

猫田猫宗

第1話 童貞最強説あるな


 皆さんはこんな話を聞いたことはないだろうか?


 『30歳まで童貞を貫くと魔法使いになれて、100歳まで貫くと神になれる』と。


 どう考えても悲しい現実から逃れるための言い訳にしか聞こえない事だろう。

 何故なら、童貞で100歳というのは結構現実的であるからだ。


 では、120歳ならどうだろうか? 


 そう、これは誰もが知らないそんな物語。


【とある病室】


「えー皆さんこんにちは、取材班の佐藤です。今回は現在世界最長の120歳の男性童蓮司 道貞どうれんじみちさださんの120歳の誕生日パーティーにやってきています! 早速インタビューをしてみようと思います。」

「道貞さん。今回は120歳のお誕生日おめでとうございます! よろしければ今のお気持ちをお聞かせください?」


「あー、あー、うー、あー」

 かすれる声で何かを訴えているようだった。

 

「えーっとごめんなさい。マイクさーん! もう少し近づけますか? 」


「せー、せー、すー、しー、いー」


「うーん、ごめんなさい聞き取れないです。『せすし』とは何でしょうか?」


「せー、くー、すー、しー、たー、いー」


「せくすしたい? まって、それってまさか! ---え、道貞さん? 道貞さん大丈夫ですか!? 道貞さァァッッッン!!!」


 アナウンサーの絶叫と心電図の「ピー」の音が鳴り響く。


 享年120歳にて私は死んだ。遺言「S〇Xがしたい」


【走馬灯】


 私はかすれゆく意識の中、走馬灯のように今までの人生がフラッシュバックした。

 

 とても平和な人生だった。

 幼少期は優しい両親に囲まれて不自由なく育ち

 青年期は帰宅部ではあったが、仲のいい友人たちと楽しい毎日を送っていた。

 二十歳を過ぎてからは普通のサラリーマンとして働き

 紆余曲折うよきょくせつありながらもそこで定年まで働いた

 定年後は趣味の読書を楽しみながらゆったりと過ごした

 一人で生活できなくなり施設のお世話になってからも基本的なライフスタイルは変わらなかった


 ひいき目に見てもとても幸せな人生だったのだろうと思う。


 ——————ただ"一点"を除いては。


「あああああッッー!なんで私は童貞を卒業しておかなかったんだぁぁぁぁ!!!」

 特別処女厨だったというわけではない。

 私はただ、『本当に愛した女しか抱かない』そう決めていたというだけなのに。


 仕事を始めた辺りからはすごい忙しく、恋愛などと考えてる暇はなかった。

 では学生の時は何故童貞を卒業できなかったんだろう?一番機会は多かったはずだ。


 A.仮性包茎で自信がなかったから


「クソがあああぁぁぁ!!! いや分るよ? 当時の私は手術するにしても恥ずかしかったんだよね? 大人になれば親とかにバレずにこっそりできるそう思ってたんだよね?」

「どう考えたってぴちぴちの時にヤるべきだっただろうが、歳取ってからじゃ頑張れねーんだぞ!」


 と、ここまで思考してとある異変に気が付いた。


「あれ? 精神が若返ってる!? 今まで頭にもやがかかったかのようにぼっーとしてたのに......」


「えぇ。 この空間では貴方が20歳ほどの時までの体に調整しております。」


 気が付くと円柱型の柱で支えられた真っ白な空間にいた。

 目の前で語りかけてきたのは、白髪黄目の奇麗な女性で、こちらが気が付いたのを見るや丁寧なお辞儀をした。


「成程ね。道理で無駄に思考がアグレッシブなわけだ。 もしかして貴方は天使もしくは女神様でいらっしゃるのでしょうか?」

 趣味が読書であった私に隙はない。

 つまりこれは「なろうイベント」だ!!!


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 【説明しよう】

 「なろうイベント」とは、異世界転移/異世界転生する前の恒例の儀式の様な物で、大抵の場合女神様や天使様がお出迎えしてくれるのだ。

 ここで色々な説明を受けてさぁ、新しい世界へようこそ!となるのが従来の定石と言えるだろうね。

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 しかし、だ。

 私はただ一点の『後悔』があるというだけで、「不慮の事故」で亡くなったというわけでもなく、普通に天寿を全うしただけの一般ピーポーでしかない。

 果たして"何故"私がここに呼ばれたのだろうかという疑問は残る。

 ~この間0.2秒~


「はい。女神パラスと申します。この度は童蓮司 道貞様にお一つお願いがありこちらの『異世界案内所窓口』にて幽閉させてもらった所存です。」


「ふーん。パラスか、もしかして虫草タイプだったりする? ―――って待って! 今『幽閉』って言った!? それっていわゆる『脅迫』ってやつじゃないの?」


「はい。『脅迫』でございます。あと、虫草タイプではありません。強いていうなら光草タイプです。」

 顔色一つ変えずに「にこっ」と笑顔をこちらに向けている。くそっ、可愛いなおい。


「うんまぁ、とりあえず話は聞こうかな。話はね。」


「嫌です。その上から目線の態度は気に入りませんし、何より『話だけ"は"聞こう』という見え透いた予防線が一番むかつきます。」


「いや、めんどくせーよ! ここはテンポよくその『異世界』とやらの説明が入る所じゃん!? 」

 

「めんどくさい……確かに『私は戦う事しか能がない女』なんて言われたりしますが、そんな風に言う事ないじゃないですか! 私はこれでも『乙女』なんですからね! 訂正してください! 謝るまでここから出しませんよ! 」


 あぁ、これは俗にいう「メンヘラ」だ。

 しかし、流石に120年も生きてきたんだこういった場合の対処法は会得している。


「これは失敬、あまりの美しさについ『イタズラ』が過ぎました。気分を害されたのでしたら申し訳ない」

 今出せる最大限のイケボで囁きかけた。

 

「今、私の事を『メンヘラキチガイクソババア』って言いました!?」


「言ってねーよ!」




「まぁ、いいでしょう。 私はこう見えて心がとても広いです貴方の罪を許しましょう。さて、では早速本題に入りましょう」


 いや、何が早速だよ! どう見ても三速くらいしただろうが!と、内心訴えた。


「今回貴方様にお願いしたい案件、それはずばり『貴方の童貞力で魔王の脅威にさらされている世界を救ってほしい』のです!」


「すまん帰っていいか?」

 あほくさ。童貞力ってなんやねん。

 今時「魔王」だの「世界を救う」だの、馬鹿らしくてやってられない。

 俺はただ異世界転生もしくは転移をして『童貞』を卒業したいだけだ。

 世界が滅びようが知ったことじゃない。どうせ、皆裏ではヤる事やってんだろ!もう人生に悔いなんてないじゃん! 


「救っていただいた暁には、『何でも"一つ"願いを叶える』事を約束しましょう。」


「承った。全く最近の若者は結論を中々言わないのが難点だな。ほら、早く『童貞力』の説明をしてくれたまえ。」

 やったああぁぁぁぁぁぁぁ!

 これで俺も童貞を卒業できる! 

 どうせ異世界に行っても今まで道理、なんやかんや理由をつけて童貞を卒業しなさそう、とは思っていたんだ! だが、それが「報酬」としての形であれば確実に『卒業』が出来る。


 勝った!


「少々鼻につく言い方ではありますがスルーしましょう。私は心が広いので。」

「『童貞力』というのは一種の『内なる力』を指していて、合計で10階層で構成されています。」


「待て待て待て、その『マルクト』とかって俗にいうセフィロトの樹に関係するやつだよね? なんだっけっ『誰でも神様になれますよ(入門編)』だっけか?」

 読書家であれば一度は聞いたことのある概念だ。

 正直俺もそこまで詳しいわけじゃない。


「はい。あなた方の解釈ではそんな感じだったと思います。ここでは便宜上そう名称しているだけで他意はありません。とりあえずは、『なんかよくわからない力』とでも認識していればいいかと思います」


「うーん。じゃぁ、何で力の発動条件が『童貞』か否かなんだ? 」


「さぁ? そんな事私に聞かれても知りませんよ。この宇宙を作った存在が『童貞厨』とかだったんじゃないんですかね?」


「おい!」


「本来であれば貴方は100歳を超えた時点で神になれるチャンスがあったんです。でも貴方は120歳を超えてしまった。その結果、『童貞力は10段階全てを使用できるが一周廻って人間のままです』という残念な事になってしまったんです。」

 

 くっそ馬鹿馬鹿しい話ではあるがまぁ、話を続けよう。


「なるほどね。その『童貞力』最強の俺が魔王をぶっ倒してハーレムハッピーエンドを満喫するっていうそういう簡単なお話って事か。」


「大まかに言えばそうなりますね。」


「ちなみになんで天使や神様的な存在が、直接魔王を叩きに行ったりしないんだ? 俺の知る神話とかだと率先して血祭りにしに行きそうなのに」


 そう、俺の中の神様像は「ヒャッハー!系のろくでなし」なのである。


「とんでもない偏見ですね。否定はしませんけど」

 やや右斜めしたを見ながらどこか遠い目をしていた。


「基本的には私たちは直接干渉することが出来ないんですよね。くそゴミカス魔神どもと『十神停戦協定』を結んでいるからですね。我々が直接殺し合いを始めると他の世界にも影響を及ぼしかねないです。それじゃぁ、お互いに困るね、よし! 一つの世界を作ってそこで代理戦争をしてもらおう!ってのがこの停戦協定の内容になっています。」

「その際のルールとしては以下の様な物があるんですよね」


 【一】お互いに箱庭には直接干渉してはいけない。

 【二】箱庭における基本的な力の概念を「童貞力」に固定する。

 【三】全ての種族に【二】の概念を適応させる。

 【四】箱庭はあくまで一つの『世界』である。よってこの世界の自由は阻害してはならない。

 【五】童貞を強制しない。

 【六】基礎レートは『人類種』とし、長寿種の場合は『人類種』換算で計算する。

 【七】同意のない性行為は禁止する。

 【八】転生による間接的な神類の乱入は禁止する。

 【九】他世界で子孫を作りその子を転生/転移する事を禁止する。

 【十】不正行為が発覚した場合はその陣営の敗北とする。


「『魔神』と『人神』の主権争いを兼ねた間接的なゲームって事か。了解した。」


「理解が早くて助かります。それでは最後にこれをどうぞ」


 何やら手作りの人形を渡された。見た感じパラスをデフォルメした物のようだ。


「え。何この悪趣味な人形は? もしかして、この人形を抱えながら異世界生活しなきゃいけないの?」


「殺しますよ?♡」


「嘘だって! ってかもう死んでるし」


「『パラスちゃん人形』です。これを通して間接的にあなたにアドバイスなどをしていこうと思います。異世界転移ですと、その世界の一般常識などわからないと思うので」


 女神パラスがパラスちゃん人形を俺の頭にそっと乗っける。


……っえ? ホームポジションそこ!?


「さぁ、長くなりましたがこれから貴方を『神々の箱庭ラグナロク』に送ろうと思います。貴方に神々の加護がありますように。」


 すごい物騒な単語が聞こえた気がするが気にしたら負けだろう。


 自身の足場に奇怪な文様の魔法陣の様な物が浮かび上がった。


 正直、『童貞力』に関してはいまだに実感はわかないし、見知らぬ世界でちゃんと生きていけるのか心配ではあるけれど。

 なんだろうな……


「結構ワクワクするな! よし、軽く世界救って『童貞』を卒業しますかね!」

 

「あ、そうだ。言い忘れてましたが性行為をした時点で貴方はただのクソ雑魚一般ピーポーに戻りますのでお気をつけて」


「は? 異世界でもそのカウント続いてんの!?」


「ええ。続いてます。ではまた後で。」


 瞬間、まばゆい光が体を包みこみ、気が付いた時には見知らぬ街の城門にいた。


「確かに、『異世界行っても結局童貞のままかもしれない』とは思ったけど、それとこれは違うよね? 『絶対に性行為できない』と『性行為できないかもしれない』じゃ、天と地の差があるんですけど!?」


 つまり、そういう展開になっても"できない"のである。


「アアアアアアアアアアァァァァァッッ!!!!」


 説明の段階で推測できたであろう事実に絶叫しながらも、童蓮司 道貞の冒険は始まりを告げた。

 

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